2005年5月22日(日)「ザ・インタープリター」

THE INTERPRETER・2005・英/米/仏・2時間09分(IMDbでは128分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)


http://www.inpri.jp/
(全国の劇場案内もあり。音に注意)

国連でアフリカ・マトボ共和国のクー族の言葉を同時通訳する仕事をしているシルヴィア・ブルーム(ニコール・キッドマン)は、忘れ物をとりに仕事場へもどった時、かすかにヘッドホンから流れてくる囁くような会話を聞き、慄然としてその場を逃げ出す。それは内戦に揺れるマトボ関係者の誰かを暗殺するというものだった。警備主任に話すと、さっそくシークレット・サーピスのケラー(ショーン・ペン)らがやってくるが、まったく彼女の話を信じようとしない。むしろ逆に何かたくらんでいるのではないかと疑われる始末。そして彼女には実際に意外な過去があった。

86点

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 あまり期待しないで行ったのが良かったのか、面白い。ハラハラ、ドキドキ。ラストはちょっと気になったが(ハリウッドらしくないというか……それでIMDbでの評価が低かったのでは)、なんだか雰囲気はヒッチコックの「北北西に進路を取れ」(North by Northwest・1959・米)のようでもあり、TVドラマの「24」のようでもある。これはぜひとも良い劇場でお金を払って見た方が良いと思う。

 導入もウマイ。全くこれからの展開を読ませない、予想の付かないイントロ。しかも、謎に満ちていてショッキングで、つかみとして完璧だと思う。どう国連に、物語に関係していくのか、物語が進むに従って徐々に明らかになってくる。絶妙だ。

 アフリカの民族間の紛争という大きなテーマを描きながら、そこに主役の男女2人の人間ドラマと微妙な恋愛感情を折り込み、国連を舞台とした陰謀をサスペンスたっぷりにアクション仕立てで描いた傑作といってもいいのではないだろうか。ボクは完璧にストライク・ゾーンだった。やられた。途中の爆発シーンなど娯楽アクション並の派手さで、エンターテインメント性も忘れていないところがまたいい。

 実際に国連本部に機材を持ち込んで撮影されており、そのリアルさというか説得力は圧倒的だ。あの広い空間の感じはセットとデジタル合成では出しにくいと思う。

 ありふれた日常。いつもと変わらないはずの1日が、わずかな違いで狂い出し、大事件に発展していく手法は見事としか言いようがない。秘密など何もなさそうな人物が、この事件によって過去を暴れ、隠していたことがあらわになってしまう。しかも殺人者の影は刻々と迫ってくる。うまいなあ。

 しかもニコール・キッドマンが物凄く美しく撮られている。完璧な美しさといってもいいほど。ヒロインはあくまでも魅力的で観客誰もが好きになってしまうほどでないといけない。みんなが彼女を応援したくならなければドラマは盛り上がっていかないのだから。彼女はオードリ・ヘップバーンのようにベスパのようにスクーターに乗って見せるし、使っているパソコンは、周りがWindowsのデルのマシンなのに、彼女だけアップルの15インチ・パワーブックと個性的な設定。

 キッドマンが前半「私は国連を信じている。外交を信じる」と言い切るのは感動的。かつては武力を使ったこともあるが、今は使わないというのだ。そして、ラストで語られる言葉「かすかな声でも人の声は銃声に勝る」も重みがある。だからあえて銃声はひどく恐ろしく大きく鋭く(つまりリアルに)付けられている。本当にまがまがしい感じ。ただ、ラストがなあ……。

 それにしてもショーン・ペンの演技は良い。ニコール・キッドマン演じる同時通訳者の訴えで国連にやってきても、「あんたを守るためにやってきたんじゃない。事件の捜査をするために来たんだ」と良い放つ。そして最初からキッドマンを疑ってかかっている。が、鋭い読みでグイグイと事件の核心に迫っていき、キッドマンを信じるようになってくる。なおかつ不倫絡みで愛妻を事故死という形で失っており、心の葛藤を表に出さないように押さえつけている感じが良いのだ。うまい。

 この作品が描きたかったのかどうかわからないが、国連本部があるということはどういうことかわかった気がして興味深かった。つまり、国連に集う人々の安全に対して責任を持たなければならないということだ。少なくとも国連のためにニューヨークにいる間は何事もなく過ごしてもらい、早く外へ追っ払えと。ショーン・ペンの上司がズバリそう言っている。アメリカは国連本部がニューヨークにあるというだけで、そういったセキュリティすべての責任を持ち、ニューヨーク市警、FBI、シークレット・サービスなどが協力して警戒に当たっている。映画でも描かれているが、見学者などを受け付けてそれなりの収入があったり、警護の予算もある程度は付いていると思うが、この負担はかなり大きいのではないだろうか。

 シークレット・サービスのショーン・ペンはヒップ・ホルスターにSIGのP229を入れている。口径は不明だが設定的には.40S&Wの可能性もあるが、プロップ・ガンとしては9ミリの方が安く上がるだろう。よほどアップにでもならない限り見分けられないし。興味深かったのは、ブリーフィングで若手の捜査官達に向かって、マネキンの後頭部を指しながら「爆弾を持っているような犯人はここを撃て」と言っていたこと。「撃たれた瞬間に犯人は全身の筋肉が弛緩して、スイッチを押すことができなくなる」と説明しているのだ。これはスナイパーの教本にも書いてある。正面から狙うなら、鼻の下だ。わざわざこんなシーンを入れるところがリアルで怖い。監督のこだわりなのか。

 さらに、正体の分からない殺人者が隠れたと思われる壁に向かってP229を撃ちまくるシーンがある。銃を知らない監督やこだわらない監督なら絶対に使わない手だが、実際に9ミリ・パラベラム弾以上になると家の壁を突き抜ける威力を持っているから、この方法は正しいのだ。ハウス・プロテクション用にはあまり貫通力の高い銃(そして弾)を使ってはいけないのだ。銃弾が隣家まで達して、思わぬ被害をもたらすことがあるからだ。もちろんサイレンサーがついた銃の銃声も結構大きく、さらに大きいノーマルの銃と変えてあり、うーん、ここもリアル。素晴らしい。

 市警などは定番のグロック。ボートに積んであるのはFN MAG。暗殺者が使う組み立て式のライフルはAR-7のストックをスケルトン・タイプに改造したもの。さらにラスト、意外なところでガバメントのシルバー・モデルが登場。ハンマーが倒れているから、なんだ演出みすだな、撃たないに違いないなんて思っていたら、おもむろに指でハンマーを起こしたではないか。いい。リアル。銃器に関して言うことはない。完璧。

 この傑作を撮ったのはシドニー・ポラック監督。ご本人もヒッチコックを真似てか、冒頭、捜査官の役だったと思うが出演している。もともとはテレビ出身の人で、第二次世界大戦ものの「大反撃」(Castle Keep・1969・米)や高倉健が出た「ザ・ヤクザ」(The Yakuza・1974・米)、ロバート・レッドフォートの傑作スパイもの「コンドル」(Three Days of Condor・1975・米)、ダスティン・ホフマンが女装した「トッツィー」(Tootsie・1982・米)、アカデミー賞受賞作「愛と悲しみの果て」(Out of Africa・1985・米)……ほかにもたくさんの作品で知られる監督。「ランダム・ハーツ」(Random Hearts・1999・米)のような酷い作品もたまにあるものの、いわゆる職人監督的な人で、いろんな作品を撮っている。共通して言えるのは、銃を使ったアクションはとにかくリアルということ。きっと詳しいに違いない。ただ1980年代以降はプロデューサーに回ることの方が多いようだ。

 脚本は「シンドラーのリスト」(Shindler's List・1993・米)や「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)、「今そこにある危機」(Clear and Present Danger・1994・米)を手がけたスティーヴン・ザイリアン、ケネス・ブラナのサスペンス「愛と死の間で」(Dead Again・1991・米)や「マイノリティ・リポート」(Minority Report・2002・米)のスコット・フランク、「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」(The Life of David Gale・2003・米)のチャールズ・ランドルフ。誰が最終的にまとめたのかはわからないが。クレジットの順でいくとチャールズ・ランドルフか。

 公開2日目の2回目、銀座の劇場は全席指定のため前日に座席予約をしていたので、余裕を見て25分前に到着。ロビーには10人くらいの客。

 かつてニュー東宝シネマ1といっていたウナギの寝床のように細長く、どの席からもスクリーンがよく見えなかった劇場がリニューアル。レトロ・フューチャーな感じのシックな劇場に生まれ変わった。スクリーンはやや小さくなったようだが、とても明るく場内灯が点いていてもちゃんと絵が見える。音響もデジタル4方式に対応し、クリアーで聞き取りやすく重低音に振動を感じるほどの迫力がある。

 もちろんスタジアム形式のような座席配置で、どの席からもスクリーンはよく見えるようだ。ほとんど前の席の人の頭は気にならない。あえて言えば中央に通路がないため、真ん中に座ると出にくいかもしれない。ドアは一段引っ込んでいて、できるだけロビーの光が中に入らないように配慮されている。トイレもキレイ。手洗の蛇口の開閉も自動。エアー・タオルも完備。

 売店も一新され、スタバとまではいかなくても劇場としてはまあまあのコーヒーを飲ませる。カフェラテもある。イスはフランス、キネット社製のシアター・チェアだそうで、背もたれも高めで座り心地も上々。長時間でも疲れないしお尻も痛くならない。ただ、カップ・ホルダーの位置が低く、隣の人がジャケットなんかをひざの上に抱えていると。それがカップの中に入りそうになる。さらに、アメリカ・サイズ並の大きなカップを想定しているらしく、日本では普通のショート・サイズのコーヒー・カップでは深く入りすぎて、取り出すのがちょっと難しい。残念。

 全席指定なので混乱はなく(前もって劇場に出向き当日券と交換するというのは面倒だが)、400席ほほ満席となった。男女比はほぼ半々。10代はいなかったようだが、老若比もほぼ半々。隣に座ったオバサンが汗臭くて、最後まで辛かったが……。

 この劇場のように音が良いと、予告編でも大きな差が出る。ここで見ると見たい気になる。「宇宙戦争」なんか物凄い迫力だ。同じ料金を払うなら、絶対にいい劇場で見ないと損だということがあらためて実感できた。

 ただ、残念なことに、前半は良かったが、後半中央部分のピンが甘くなってしまった。うーん、惜しい。

 入れ替えの時、社民党の女性議員の人を見かけたと思ったのだが、違ったか……。


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