2005年7月17日(日)「姑獲鳥の夏」

2005・ジェネオン エンタテインメトン/電通/日本ヘラルド映画/東急レクリエーション/小椋事務所・2時間03分

ビスタ・サイズ(1.85、HD撮影?)/ドルビーデジタル



http://www.ubume.net/
(全国劇場案内もあり。入ったら音に注意)

昭和27年(1947)の夏、小説家の関口巽(永瀬正敏)は、古書店「京極堂」を営む中禅寺秋彦(堤真一)の妹、雑誌編集者の敦子(田中麗奈)から聞かされていた、妊娠20カ月の妻を残して夫が失踪した久遠寺家の事件のことが気になって、京極堂へ向かった。京極堂こと中禅寺は、現実は不確かなもので情報を脳で再構築したものに過ぎないという。そして、この世には不思議なものなど何もないと言い放つ。次に他人の過去が見えるという探偵、榎木津(阿部寛)の事務所へ向かった関口は、そこで久遠寺家の長女・涼子(原田知世)と出会い、失踪した妹の夫、牧朗を探して欲しいという依頼で、榎木津と一緒に久遠寺病院を訪れるが……。

74点

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 素晴らしい世界観。2時間3分の間、昭和27年のミステリー世界にどっぷりつかることが出来る。それは、まだ紙芝居屋がいた頃で、ちょっと「夕焼けの詩・三丁目の夕日」みたいなノスタルジーがあって、世の中の動きがまだのんびりしていて、少年探偵団とか水木しげるの描く妖怪がいるような雰囲気のあった時代。これがきっちりと作られている。そのため、演出が多少過剰でリアリティよりも雰囲気重視になって、舞台のような演出となっても、あまり違和感なく受け入れることが出来る構成になっている。

 たぶん、それは古い人が明治に感じるようなノスタルジーだったり、大正に感じるロマンのようなものなのだろう。いまの中高年には、戦争に負けて何もなかったが心だけは豊かだった昭和25年(1950)くらいから高度成長期に入る35年(1960)くらいまでの期間に、何かしらの魅力を感じているのではないだろうか。そして、それをズバリこの作品はついている。

 怪しげな洋館といえば、江戸川乱歩の明智小五郎や少年探偵団で、これは昭和初期からのものだが江戸川乱歩が亡くなったのが1965年で、乱歩的ミステリーもそれでなくなってしまったのかも。

 原作の京極夏彦という人は1963年生まれで、1994年に発表された本作がデビュー作だという。その時期にはかぶっていないが、何かしらの影響は受けているのではないだろうか。ご本人は「水木しげる」役で出演しているので、当然「妖怪」は欠かせない要素なのだろう。「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメ化は最初が1968〜1969年だから充分はまっていた可能性がある。

 原作を読んでいないのに言うのもなんだが、堤真一の京極堂はとてもはまっている気がした。自然体というのか、気負った感じとかヘンに演じているという感じがしなくて「MONDAY」(1999・日)なんかとても良かったもんなあ。また着流し姿が似あうんだな、これが。ちょっとボサボサの髪も金田一耕助みたいで、名探偵っぽい。

 また、ほとんど大人しいお嬢様っぽい役の多い原田知世が、双子を演じ意外な一面をのぞかせている。しかもメイクではなく、短時間で表情によって性格を演じ分けるという難しいことにも挑戦しており、演技派であることを証明して見せている。

 観客の代表となってこの不気味な事件に翻弄される関口役の永瀬正敏も、あわて方が実に自然で、かつおあり愚かでもなく(こういうキャラクターは概して愚かなことが多い)安心して観客代表を任せられる。

 「13階段」でも書いたが、雨上がり決死隊の宮迫博之はいい。警視庁の刑事としての存在感があるし、独特のいい味を出している。これら芸達者の俳優の中に入っても、まったく引けを取っていない。

 そして、マジメなのかオトボケなのかよくわからないキャラクター、探偵の榎木津役の阿部寛。二枚目半が板についてきた感じだが、本作の中での榎木津というキャラクターがはっきりしないため、ちょっと印象が薄く実力を発揮できなかったような気がする。

 いしだあゆみは歳をとって、ますます凄みがました。怖い。ホラー・キャラクターとなっている。大ヒット作「プルーライトヨコハマ」の面影はもはやどこにもないと言ったらいいすぎか。

 いずれにしても、この小説家、探偵、刑事、陰陽師(憑物落とし)4人のチームはとてもいい雰囲気。ここちよいカルテットとなっている。他の事件もこの4人で見たい。そう感じさせる何かがあった。

 この世界観を作り上げたのが「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」でおなじみの実相寺昭雄監督。「ウルトラQザ・ムービー 星の伝説」(1990)はいまひとつピンと来なかったが、本作は良い。俯瞰や広角レンズの多用、トラッキング、青や赤のライトにスポット・ライトを使った演出はギリギリのところでキワモノ映画にならずにすんでいる。

 気になったのは、やはりフィルムの色の濃さ。ロケになると色が浅くコントラストも低くなる。セットでは凝った照明で色も濃いのに……。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は45分前くらいに着いたらすでに50人くらいの行列。やや、しまった。下は中学生くらいから、上は白髪の老人まで、結構まんべんなくいろんな年齢層がいる。男女比は4対6で女性の方がやや多いか。ものすごく暑い日で40分前くらいに開場してくれて助かった。しかし場内はまだあまり冷えていなかったが。

 早く開いたのと暑いこともあって、モスのアイス・ラテを注文してしまった。スーパー・ペア・シートとぴあ席(11席×左右)以外は全席自由。ぴあ席とは最近珍しい。知らずに座る人がたくさんいた。場内には「姑獲鳥」のサントラらしき不気味な曲(これがまたなかなかいい)が流れ、雰囲気を高めてくれる。このアルバムは買いかも。

 最終的にちょっと20代くらいの女性が増えて、公開3日館のみ上映という1,064席に7.5割ほどの入り。すごい。ぴあ席にも8人が座った。

 ちなみにタイトルの「姑獲鳥」は「うぶめ」と読むらしいが当て字で、「こかくちょう」とも読むらしい。

 CMで「アイフル」のクーちゃんの続編がホームページで見られると出たら、ドッと笑が起こっていた。また「高校生友情プラス」で友達3人と来れば1人1,000円になるというのにも「オー」と声が上がっていた。「早く言ってよ」という声も。こういうのはTVで流さんといかんなあ。

 予告では宮部みゆき原作のアニメ「ブレイブ・ストーリー」がワーナーのロゴ入りで登場。コンゾとフジテレビが製作するらしいが詳細は不明。ニコール・キッドマンの「奥様は魔女」の内容が分かる予告編がやっと登場。なかなかおもしろそう。「奥様は魔女」の映画を作るので女優探しをやるのだが、やってきたイメージぴったりの女優は本物の魔女だったという設定らしい。おもしろそう。男優はいまひとつさえないが……。


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