シネスコ・サイズ(ARRI 535)/ドルビーデジタル、dts
海上自衛隊のイージス艦“いそかぜ”は訓練海域ヘ向かう途中、テロリスト・グループによって乗っ取られ、乗組員を下船させると東京湾へと向かった。そして指揮をとる宮津二等海佐(寺尾聰)から3つの要求が出される。その条件を呑まない場合、米軍から強奪した特殊ガス兵器“グソー”をミサイルに搭載して東京に撃ち込むと脅しをかける。しかし、防衛庁の情報組織から送り込まれていた男と、専任伍長の仙石(真田広之)が艦に残っており、必死に阻止を試みる。 |
うわ、面白い。原作を先に読んでしまうと、先が分かるので楽しめないかもしれない。しかし読んでいなければ、意表をつくスリリングな展開でついつい引き込まれてしまう。 構成としては日本版「沈黙の戦艦」(Under Siege・1992・米)であって、コックが艦と国を救う話が、そのまま伍長が艦と国を救う話になっている。舞台装置とバック・グラウンド、個々のエピソードなどは違っても、大筋は一緒。だから、だいたい結末も想像がつくのだが、それがわかっていても面白いのだ。特に総理大臣はじめ閣僚がそろった防衛庁内(?)でのやりとりがリアルな感じがして面白い。 とは言え、ラストで首謀者がそこまでやる気はなかったというのはどうなんだろう。負けを認めて引き返すというのは筋が通らないような気がした。その程度の覚悟なら、最初からやるなよって感じ。確かにハリウッドでもそうすることが多いけれど、「ザ・ロック」(The Rock・1996・米)とは悩み方のレベルが違う気がしてしまう。そう、話の構造は「ザ・ロック」ともそっくり。っていうか「ザ・ロック」が「沈黙の戦艦」の真似っていうか。 面白いのは海上自衛隊が協力していて、会話の端々に専門用語が混じること。しかも字幕で意味が出たりせず、さもわかって当たり前という感じがよく、リアルだった。そして、艦のことを知り尽くしている専任伍長という設定なので、どこまで本当かわからないものの、監視カメラの目を逃れるために電源を落としたり、放射能洗浄装置を作動させたりと、「へえ、そんなことができるんだ」という細かな技を使って見せる。これでぐんと専任伍長の仙石の行動に説得力が出てくる。このヘンがうまい。 小説としてはどうしてこういう行動をとるに至ったかとか、謀反を起こした男たちがなせそういう要求をするのかという部分を掘り下げられるのだろうが、映画でそれは難しい。しかも時間が限られている。それより、謀反を起こした者たちと政府側とのやりとりや、アクションを主体に描かなければならない。本作はまさにその方向でまとめられている。 反乱を起こす自衛隊員はMP5とP220ピストルを装備しており、北の特殊部隊員はAKと、女工作員がなんとスチェッキン。しかも撃っている。ただP220は調子が悪かったのか、メインで使われるのはベレッタM92になってしまう(後にパイロテックさんに伺ったところずっとP220だとか。ボクの勘違いでした)。銃器特殊効果はパイロテックの大宮さん。血糊も赤黒く、とてもリアル。血溜まりがゆっくりと広がっていく感じは、地味だがぞっとする怖さがある。 監督は「どついたるねん」(1989)でデビューした阪本順治という人。のっけからたくさんの賞を受賞し、大変注目された人だ。金大中氏事件の真実に迫った「KT」(2002)も坂本監督の手になる。そう言われればこの雰囲気は「KT」と良く似ている。つまり本作は生まれるべくして生まれたのだろう。うまい。ただ、ラストのお墓参りのシーンは必要なんだろうか。原田美枝子を出すために撮ったという感じしかしなかったが。 音楽は、驚くことにハリウッドで活躍する「ラスト・オブ・モヒカン」(The Last of the Mohicans・1992・米)や「13デイズ」(Thirteen Days・2000・米)などのトレバー・ジョーンズ。編集もハリウッドのウィリアム・アンダーソンを起用。ミキサー、サウンド・デザイナーもハリウッドのスタッフだ。ようするにポスト・プロダクションをすべてハリウッドで行ったということらしい。どうりで立体感があってハリウッドっぽい音だと思った。最近は「ローレライ」など、あちらで仕上げることが多くなっているようだ。料金的には高くてもそれなりのクォリティで仕上がるということかな。 絵コンテに庵野秀明とあったような気がしたが、気のせいか。それともエヴァンゲリオンの総監督と同姓同名か。気になった。 初日は舞台あいさつがあるというので避けて、公開2日目の初回、銀座の劇場は65分前に着いたらすでに30人くらいの行列。さすがにTVで宣伝もいっぱいした話題作というだけあって人が多い。ほとんどは中高年で、オバサンは4〜5人。 55分前、列が50〜60人になったところで開場。早い。嬉しい。初回のみ1Fのレディース・シート(ピンクのカバーの11席×3列)以外、全席自由で、2FもOK。ただ、2F席は人がどすんどすんと来るとちょっと揺れるのが怖いが……。スクリーンはビスタで最初から開いていた。 最終的に802席の6割くらいの入りはちょっと少ないか。2Fは満席だったが、1Fは3割程度。女性はそれでも3割くらいはいっただろうか。 いきなり戦争ゲームの広告から始まって驚いたが、こういう映画でこの種のゲームの広告をするというのはいかがなものだろうか。非常に違和感を覚えた。戦争を、戦闘を回避しようと必死でがんばる話ではないか。 予告はやっと「大停電の夜に」の映像付き予告が始まった。予告からは良くないようがわからない。しかし調べてみると北米航空宇宙防衛司令部(ノーラッドhttp://www.norad.mil/)が脚本に感動し全面協力をしてくれたという映画らしい。クリスマスのお話で、ノーラッドは毎年年末になるとサンタクロースを追跡して現在位置を知らせるサービスをやっている軍事関係の言わばお役所。そこが協力しているというのだ。これは興味が湧く。でも、なぜ予告でそれを言わないのか。 それ以外の予告は上下にマスクのついたサイズで、「シンデラマン」は期待なのだが、雰囲気がものすごく暗い。主役のラッセル・クロウで出ているから暗いような気がする。ニューヨークのホテルでオーストラリアに電話がつながらないことに腹を立て、ホテルマンに電話を投げつけケガを負わせた事件はもう有名で、彼が予告編に登場して子供に優しい言葉をかけてもまったく説得力なし。暴れるシーンでは、これが本性だと思ってしまう。いかんなあ。 |