2005年8月20日(土)「ノロイ」

2005・Entertainment FAEM/オズ/ジェネオン・エンタテインメント/ザナドゥー/PPM・1時間55分

ビスタ・サイズ(1.66)

(日PG-12指定)

http://www.no-ro-i.jp/
(全国劇場案内もあり。入ったら音に注意)

怪奇実話作家の小林雅文(小林雅文)は、文章だけではなく、最近はビデオで取材を行うことが多くなり、印刷物と同時に何本かのドキュメンタリー・ビデオ作品が製作され杉書房から発売されている。その最後の作品となってしまったのが「ノロイ」と題されたビデオで、発売直前に小林の実家が全焼し妻が焼死、本人も失踪してしまったことから、結局発売は見送られてしまった。そのビデオの権利を入手、事件の真相に迫るのだが……。

74点

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 ちょっと長いが、怖い。かなりヤバイ。一言でいえば、日本版「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」という感じ。あちらはWEB版の方が面白く、映画版は大いなる肩透かしだったが、本作は違う。とにかく怖い。ちゃんと納得できるバック・ストーリーがあって、超常現象も起こり、観客が薄々予想してしまう悲惨な結末へと至る。話が破綻していないところが素晴らしい。

 あえてドキュメンタリー・タッチで構成されており、劇中では「ノロイ」というビデオ作品を上映し、それに後日談を付け加えたものという感じになっている。だから、基本的にカメラはカメラマンの主観となっており、恐怖を盛り上げる演出はかなり制限されることになる。つまり、観客を怖がらせるようなドラマチックなライティングや音響、アングル、場面転換は使えないことになる。それでもなお怖い演出を施したところに白石晃士監督の実力が感じられる。うまい。

 ただし、ビデオという設定になっていながら、劇場作品なのでフィルム撮影されており、劇中に登場した、たぶんパナソニックのプロ用DVカム、AG-DVX100Aの画質より明らかに良い。ジャギーがまったく出ていないのだから。途中、心霊現象によってブロック・ノイズが入るシーンも、あたかもフィルムにマスクを切ったように入っているし。

 ドキュメンタリー・タッチを活かすため、出演者の名前はほとんどが実名。クレジットも原作者たる小林雅文と、カメラマンの名前だけ。本作のエンド・クレジットはかつての「スナッフ」(Snuff・1976・アルゼンチン)のように、一切入らず(C)表示が入るだけと凝っている。

 しかし何より怖いのは、この映画自体がドキュメンタリーのように作ってあるということより、エピソードの1つ1つがいかにもありそうな話であって、その霊的な存在が徹底した悪であるということ。関われば何かしらの災厄を被るのは間違いないという怖さ。このエピソードの作り方がうまい。

 全体の構成も、事件の核心に迫るまでがちょっと単調で長く、そのため眠くなってしまう感じはあるものの、タマネギの皮をむくように徐々に謎が明らかになって行く謎解きの面白さと、それをめぐる冒険的要素が観客を引きつける。そして霊的な存在もちゃんと正体が判明し、ガッカリするようなものではない。つまり話題になった「呪怨」(2003)とか「着信アリ2」(2005)とはハッキリと一線を画している。

 精神異常者、超能力者、霊現象……これらがうまくパズルのように組み合わさり、いにしえの鬼祭り、謎の言葉「かぐたば」、ダムに沈む村というものにつながって明かされて行く。ラストも盛り上がって怖い。ノロイのお面もへたうま風かと思っていたが、映画の中で見ると相当怖い。映画を見たあとでは平気で見られなくなる。

 監督は福岡出身で1973年生まれの白石晃士という人。自主制作出身で、「日本怨念地図」や「ほんとうにあった呪いのビデオ」「怪奇!アンビリーバブル」などのビデオ・シリーズを手がけている。一貫してホラー作品を作り続けているそうで、まさに劇中の小林雅文に通じるものがある。この先どんな恐ろしいものを作るのか、目が離せない。怖くて見たくないくらいだけど……。

 登場人物で重要な鍵を握る松本まりかは、宮藤官九郎監督の「真夜中の弥次さん喜多さん」(2005)に出ているらしいが、未見であり、他でもあまり見かけたことがない。全体に出ている人達はなべて無名に近い人が多い。芝居が下手なわけではないが、それも眠くなる原因のひとつかも。ドキュメンタリー・タッチで作るには絶対条件だったのだろう。そしてそれは成功している。家に帰ってきてからも、思い出すだけで怖い。後を引く。

 公開初日の初回、新宿の古い劇場は35分前に着いたら10人くらいの行列。4対6で女性の方が多く、中高年は全体の1/3くらい。ほとんどは中学から高校、そして大学〜25歳くらいまでの若者。

 案内のないまま20分前くらいに開場となったが、この時点で急な階段に40〜50人の行列。しかも暑い。下に並んでいる人はこれから登ってこなければならない。かわいそうに。

 指定席無しの場内は冷房があまり効いておらず、ホラーを見るにはあまり向いていない感じ。入場プレゼントがあって、クロイのマスクが描かれたトイレット・ペーパーをもらったが、呪われそうで使いたくない感じ。かさ張るし、嬉しいんだかどうだか、よくわからなかった。

 観客層の下は母親に連れられた小学生からいたが、こんなに刺激の強い怖い内容のものを見せていいのだろうか。たぶん夜、夢に見てうなされるんじゃないかなあ。今の子は色んなものを見ていて大丈夫なのか。

 床がフラットでスクリーンの低い悲しい劇場なのに、だんだん混んできた。せめてもの救いは日本映画なので最近は下に出る字幕を読まなくても良いことか。せっかく広いんだから、床に傾斜を付けてデジタル・サウンド対応にすればいい劇場になるのに。もったいない。

 10分前で420席の7割ほどが埋まり、最終的には9割が埋まった。これはすごい。この劇場でこんなになることは珍しい。というか、こんなに入ったらスクリーンは最前列以外かなり見にくいことになる。字幕作品だったら最悪なことになっていた。

 映画が終わってロビーへ出ると、これまたすごい人。とにかく若い人が多い。

 後ろに座っていた女の子2人連れは、眠かったと言っていたが、よかったボクだけじゃなかったんだ。エアコンが弱い(クール・ビズ?)せいもあったと思うが、こんなの怖くないよという強がりもあったような気がした。笑いと恐怖は近いものがあると言われるが、ちょっとしたシーンで大きな声で笑うやつがいて、ちょっと興ざめだった。これも自分は怖くなんかないというアピールのような気がしたが。

 予告からスクリーン中央付近が少しピン・ボケ。あまいなあ。予告だけだと思ったら、本編が始まっても中央付近はピンあま。情けない。

 歌舞伎町には「ノロイの家」が再現され見学できるようになっていたが、怖くて入る勇気がなかった。若いカップルらが並んでいた。これも情けない。



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