日本語字幕:手書き書体下、星野佳子/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル
レイト・ショー公開(米R指定)
急激に実績を上げてきた優秀なベッドハンターのビンセント・パーマー(クリスチャン・スレーター)は、実際には殺人さえも厭わない強引な手法で狙った相手は必ず落とす。彼の新しいターゲットとなったのは、人工衛星を使って特殊な飲料を飲んだ対象のいる位置を特定する“キッドトレース”を開発し技術者のベン・キーツ(ギル・ベロース)。彼がカネでは動かないと知るや、盗聴器をさまざまな場所に隠して情報を集め、同僚や彼の家族など周りに攻撃を仕掛ける作戦に出る。 |
怖い。もしこんな攻撃を仕掛けられたら(もちろん違法なものだが)すぐに降参してしまうのではないかと思えるほど卑劣なやり方の数々。変な噂を会社内に流されて居づらくなってしまうというのが、一番効きそうだ。いつの間にか家族の中にさえ入り込んで、妻や子供の信頼まで得てしまうヘッドハンター。これは本当に怖い。 サイコなヘッドハンターを好演したのは、ちょっとB級が増えてきた感じのするクリスチャン・スレーター。もともとは狙われる技術者の役の方をオファーされていたのを、脚本を読んでヘッドハンターの方を演じたいということで交渉、その役を得たらしい。向精神剤を常用し、目的のためには殺人さえ平気で行う冷徹な男を実にリアルに演じている。しかも、爽やかな良い人演技も得意で、子供な奥さんに取り入るのがうまい。しかし、実際にはとても計算高く、クールで残忍。このアンバランスなバランスが良い。やっぱりクリスチャン・スレーターはうまい。本作が面白いのも、設定や脚本ばかりでなく、クリスチャン・スレーターの演技の説得力が大きいのではないだろうか。 クリスチャン・スレーターはボク的には「薔薇の名前」(The Name of the Rose・1986・仏/伊/西独)で初めて知り、「忘れられない人」(Untamed Heart・1993・米)で思いっきり泣かされ深く印象に残った役者さんだ。「プロークン・アロー」(Broken Arrow・1996・米)や「フラッド」(Hard Rain・1998・米)も悪くないが、久々に本作で役者クリスチャン・スレーターを見た気がした。 ターゲットとなる技術者を演じたのは、どこかで見たなあと思ったら、ヴァル・キルマーが主演した大統領暗殺サスペンス「ブラインド・ホライズン」(Blind Horizon・2003・米)で、記憶を失ったヴァル・キルマーが運び込まれた病院のドクターを演じていた人。「ブラインド……」ではウサンくさかったが、本作では生真面目な感じが良く出ていた。 その妻を演じたのは「ドリブン」(Driven・2001・米/加/豪)や「猿の惑星」(Planet of the Apes・2001・米)の金髪美女、エステラ・ウォーレン。あまり主婦という感じがしない人だが、クリスチャン・スレーターが誘惑しようとする対象としてはピッタリ。外見に似合わず身が固くて意外な展開を見せるが。 主人公の務める会社のボスがマイケル・クラーク・ダンカン。なんと言っても「グリーンマイル」(The Green Mile・1999・米)の心優しき死刑囚が印象的で、それを引きずった良い人を本作でも演じている。完璧な良い人ではないのだが、どこかで「グリーンマイル」バイアスがかかって、勝手に良い人にしてしまっているところもあるような気がするが。 監督はクリストファー・タボリという人で、TVで役者をした後TVの監督となり、本作で劇場映画デビューを飾ったという、いわば新人。といっても50歳だが。なんと「ターティーハリー」(Dirty Harry・1971・米)のドン・シーゲル監督の息子なんだとか。ちょっと今後を期待したい。 後半、クリスチャン・スレーターは怒濤の攻勢をしかけてくる。そこで、プロのセキュリティ会社に相談するわけだが、これがほとんど形だけ。ボクとしてはここからヘッドハンターの専門家と、セキュリティの専門家が、知識の限りを尽くして攻防して欲しかった。セキュリティの専門家は家や会社に寄せ付けないようにするし、ヘットハンターをその網の目をくぐってワナを仕掛けようとしてくる。そんなサスペンスが見たかった。しかし、実際にはちょっとやり取りしただけで、簡単にヘッドハンターの方が有利になるのだ。ラストの銃撃戦でもあっさりとやられてしまうし。 映画の中で「ビッグ・イヤー」というセリフがある。どうも耳が大きいとお金が貯まるらしい。日本で言うところの「福耳」だ。アメリカでも耳の大きな人はお金が貯まるんだ。っていうことは、ひょっとして福耳は本物か? ラスト、自らが開発したキッドトレースを使って、クリスチャン・スレーターに秘密の液体を飲ませて所在地を掴めるようにしようとするところも面白い。追跡システムがただの設定ではなく、ちゃんとストーリーに活かされているところが良い。はたしてそれはうまくいくのか。 銃は一般的なベレッタM92。あまりレアな銃をヘッドハンターが持っていてはおかしいから、これでしようがないだろう。それにしても、サインをコピーする機械が出てきたが、本当にあんなものがあるんだろうか。単なる映画上の小道具か。気になるなあ。 公開7日目。銀座の劇場は、25分前に着いたらオバサンが1人。20分前くらいに前の別な作品の上映が終わり、場内へ。それからポツポツと人が入ってきて、最終的には130席に20人くらいの入り。ほとんど中高年のみで、男女は半々。背広姿が多い。ギリギリになって若い人チチラホラも来た。 ただ、気になったのは、この劇場、この時間だと近くに定食屋があるため焼き魚の匂いがプンプンしてくる。車が通るたび揺れるのはまだ良いとしても、匂いはなあ。それに、場内がちょっと熱い。 予告は韓国のカンフー映画「アラハン」が面白そう。タイのアクション映画「デッドライン」もいい感じ。これは見ておいて方が良さそうだ。エリザベス・ハーレーの「明るい離婚計画」もいいかも。 |