2005年11月5日(土)「ALWAYS 三丁目の夕日」

2005・日本テレビ/ROBOT/小学館/バップ/東宝/電通/読売テレビ/白組/IMAGICA/STV/MMT/CTV/HTV/FBS・2時間13分

シネスコ・サイズ(Aliflex 535)/ドルビーデジタル

76点


http://www.always3.jp/
(全国劇場案内もあり。入ったら音に注意)


昭和33年(1956年)、東京下町の夕日町三丁目、鈴木オートに青森からの集団就職で星野六子(堀北真希)がやってきた。ちょうど同じ頃、鈴木オートの向かいにある駄菓子屋の茶川竜之介(吉岡秀隆)は、小料理屋の若女将、石崎ヒロミ(小雪)から強引に孤児の古行淳之介(須賀健太)を預けられ一緒に暮らすことになる。

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 泣いた。実にありふれた物語なのに、感動してしまった。「集団就職の少女」と「孤児の健気な少年」という、一歩間違えばあざといくらいに絵に描いたようなお涙頂戴ネタなのに、演出や演技がすばらしく、直球勝負だけにわかっていても感動してしまう。それに至る前フリのギャグだって、一歩間違えば失笑を買いかねないようなものなのに、笑ってしまう。

 そして、巧妙に再現された(作り上げられた)3D-CGを駆使した昭和30年代の世界観。この、オヤジの郷愁を誘うど真ん中狙いがピタッと決まった。オールド・グッド・デイズ「古き良き時代」ってヤツ。東京では東京タワーが建設中で、裕福な家庭にのみTVがやって来た時代。電気冷蔵庫はまだ珍しく、大きな氷の塊を入れておくのが普通の冷蔵庫だった時代。オート三輪や都電が走っていた時代。どこにも空き地があって、子供がそこで遊んでいた時代。テレビのある家に近所の人がみんな集まって一緒に見ていた時代。物はないけど、心だけは豊かだ競った時代……。わかんねえだろうなあっていう、オヤジの時代が、見事に再現されている。

 話を良く聞きもしないですぐ怒り出すオヤジとか、小説家崩れ、たらい回しにされる孤児、頑張り屋の集団就職の少女、お妾さん、訳ありの小料理屋の女将、何かというとすぐ注射を打つアクマってあだ名の本名宅間という医者……実にキャラクターが良く描かれている。

 特に印象に残ったのは、健気な孤児を演じた須賀健太。1994年生まれというから11歳。どこかで見たなあと思って調べてみると、日テレの「まさかのミステリー」で「名探偵健太が行く!」をやっていた子。映画では「ゴジラFINAL WARS」(2004・日)にも出ていたらしい。この子は今後注目だと思う。とにかくうまい。セリフが少ないのに存在感があるのだ。

 短気だけれど人の良い自動車整備工場、鈴木オートのオヤジを演じた堤真一もよかった。「MONDAY マンデイ」(1999・日)で注目するようになって、「姑獲鳥の夏」(2005・日)でビックリ。なんてうまい人なんだろう。本作もピタっとはまっている。自然体のようでいて、力は全く抜いていないというような不思議な演技。その存在感というか説得力は素晴らしい。

 そして、古き良き日本の母、を爽やかに演じた薬師丸ひろ子にもビックリ。「レイクサイド マーダーケース」(2004・日)とはまったく違う印象。やっぱり女優は怖い? これが「野生の証明」(1978・日)で「緑の服着た人」とかって言っていた少女とは思えない。まして「セーラー服と機関銃」(1981・日)でサブマシンガンを撃って「カイカン」とか言っていたなんて。すっかり名女優だ。

 監督は白組でスペシャル・エフェクトを手がけていた山崎貴という人。「ジュブナイル」(2000・日)で脚本と監督デビュー。続く「Returner リターナー」(2002・日)でも監督と脚本とVFXを手がけヒットを飛ばし、本作へと至っている。1964年生まれなのに、このオヤジ感覚(!)。驚きのビジュアル・エフェクトとツボを心得た脚本と演出。この人はたぶん外すことはないだろう。今後が楽しみな監督(というか作家)の1人といって間違いない。

 ちょっと気になったのは「タイタニック」(Titanic・1997・米)などで見慣れてしまって、東京の町並みに歩いている人が3D-CGにしか見えないこと。すっかりスレてしまった観客はモーション・キャプチャーなんだろうなとか思ってしまう(当たっているかどうかは別として)。「フォレスト・ガンプ/一期一会」(Forrest Gump・1994・米)の冒頭の羽根のようなゴム動力の模型飛行機も、やっぱり3D-CGに見えてしまう。いかんなあ。これでは映画を楽しめない……。

 どうも、出演者の名前は、みな小説家の名前をもじったようになっているが、どんな意味があるのだろう。

 公開初日の初回、新宿の劇場は60分前に着いたら誰もいなかった。40分前になって老夫婦が現われ、30分前に若い男性が2人、まもなく開場になり、その時点でわずか6人。

 指定席はなく、全席自由。年齢層は下は小学生から上は老人までいたが、ほとんどは中高というより老人に近い人々。20代までの若い人達は全体の1/4〜1/3くらい。15分前で50〜60人というところ。最終的には586席の4.5割程が埋まったが、もっと入っていい映画だし、今後口コミで増える可能性もある。

 それにしても、10年くらい全く内容の変わらない「ムービー・ガイド」というフィルムの劇場専用コマーシャルはどうなんだろう。予算の問題もあるだろうが、あまりに古くさくてかえって逆効果のような気がするが……。


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