2005年11月16日(水)「親切なクムジャさん」

SYMPATHY FOR LADY VENGEANCE・2005・韓・1時間54分(IMDbでは112分)

日本語字幕:手書き書体下、根本理恵/シネスコ・サイズ(ARRI)/ドルビーデジタル

(韓18指定、日R-15指定)

74点


http://kumuja-san.jp/
(入ったら音に注意。全国劇場案内もあり)


13年前、年少者の英語教師をやっているペク(チェ・ミンシク)に生まれたばかりの娘を人質に取られ、しかたなく彼の身代わりとなって未成年者略取誘拐と殺人の罪で刑務所に入れられたクムジャ(イ・ヨンエ)が出所してきた。彼女は収監された瞬間から用意周到に準備を重ね、復讐のチャンスが訪れるのを密かに待っていた。そして、ついに、ペクが別の英語学校でぬけぬけと教師をやっていることを突き止めると、行動を開始する。

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 ものすごい恨み。復讐心。それを目の当たりにしてしまったような後ろめたさと、気分が悪くなるほどのヴァイオレンス(直接的にはほとんど描かれていないが〈ちょっとはある〉、それをリアルに想像させるうまい演出)、欲望のままに生きる赤裸々な人間の姿。これは辛い。一言でいえば過激だ。まるで血の匂いがしてきそうなほどの、醒めたリアルさ。

 何よりスゴイのは、怨みを言葉(セリフ)ではなく、行動で表していること。ここまでの強い恨み。「恨(ハン)」の文化ということになるのだろうか。日本の復讐劇なら、相手を捕まえたら溜まりに溜まった恨みの言葉を雨あられのように浴びせかけることだろう。TVでも映画でもそういう場面が多く描かれてきた。ところが、本作は違う。実際の敵を目前にして、言葉を失ってしまう。クムジャさんは悲しみや怒りや、さまざまな感情が入り交じった表情をし、嗚咽のような声を漏らす。これほど強い恨みの表現があろうかというほど、観客の心に深く突き刺さってくる。心が痛くなる。そして、彼女が選択したこととは……。

 実はここから日本の映画「レイクサイドマーダーケース」(2005・日)というかアガサクリスティの「オリエント急行殺人事件」(Murder on the Orient Express・1974・英)のようになっていくのだが、それも半端ではない。これは見てのお楽しみ(苦しみ?)ということで。

 とにかく主演のイ・ヨンエがすごい。セリフに頼らないこの演技。優しい女の表情、悲しみの被害者の顔、母の顔、冷酷な殺人者の顔……聖女のようでもあり、般若のようでもある。まるで同一人物とは思えないほど。女性は化粧だけでも変わるというが、この人の場合はまるで別人になってしまう。深い悲しみと優しさ。参りました。とても「JSA」(JSA: Joint Security Area・2000・韓)で事件の捜査に当たるスイスの女性軍人を演じた人とは思えない。

 そしていいのが、「オールド・ボーイ」(Oldboy・2003・韓)から一転、今度は追われる立場を演じるチェ・ミンシク。「オールド……」も鬼気迫るものがあってすごかったが、本作もかなりいい。ヘンに命乞いしないだけに追いつめられた異常者の感じが良く出ている。怖いなあ。

 この恐ろしい復讐劇には「オールド……」に通じるブラックで滑稽なユーモアもちりばめられている。それがちゃんと笑えるからすごい。ただ、さすがに笑っていいのかためらわれる感じはあるのだが。そして、同様に「オールド……」に通じるかなり過激なエロティック・パートも。「オールド……」の美女カン・ヘジョンに匹敵するのが、やはり美女のイ・スンシン。「オールド……」では催眠術師の役で出ていたのだとか。

 クムジャを襲う殺し屋のひとりが、ソン・ガンホ。「JSA」とか「シュリ」(Swiri・1999・韓)とか「クワイエット・ファミリー」(The Quiet Family・1998・韓)に出ていたちょっと太めの人。ゲスト出演といった感じだが、かなり怖い。

 さらに誘拐されて殺されたウォンモちゃんの、成長した姿の幽霊としてチラリと出てくるのが「アタック・ザ・ガス・ステーション!」(Attack the Gas Station・1999・韓)のユ・ジテ。最近では「オールド……」や「南極日誌」(Antarctic Journal・2005・韓)などに出ている。やはりゲスト出演か。

 脚本と監督をつとめたのが、パク・チャヌクという天才。もうそう呼んでいいだろう。この人はすごい。ボクは「JSA」と「オールド……」しか見ていないが、とにかくすごい才能だと思う。1963年生まれというから、42歳。あだ名が“ミスター復讐”なんだとか。本作は「復讐者に憐れみを」(Sympathy for Mr.Vengeance・2002・韓)と「オールド……」に続く復讐劇三部作の最後に当たるんだとか。

 登場する銃は凝っていて、刑務所に収監されていた北のスパイから教えてもらったという急造銃というようなもの。2つの単発銃を合わせたような構造になっていて、銃身もボルトもトリガーもそれぞれ2つずつある。急造銃のため精度は悪いので、出来るだけ近づいてから発砲する。殺し屋との戦いでとても印象的に使われている。そして夢の中で、敵のペク先生の顔をした人面犬を殺すときにも使われている。頭から尻のほうに貫通し、血糊が飛ぶ。とてもショッキングなシーンとなっている。これがしゃれた銃だったら。まったく雰囲気が違ったものになっていただろう。こんな銃だから良いのだ。おそらくこの映画のためにデザインされたものと思われる。このこだわりもすごい。

 公開5日目の初回、新宿の劇場は30分前に付いたら、何とすでに20人くらいのオバサンの行列。男性は1人くらいいただろうか。若い子も少ない。つまりは「韓国ブーム」というヤツか。ブームに乗ったオバサンがほとんど。

 25分前になって30人くらいになり、オヤジも3人くらいに。「場内は飲食禁止です」という案内があり、「昔からここは気取ってたのよ。最初は作品も気取ったのばっかりだったわね」と近くにいたオバサン。そのとおり。そう思ってたの、ボクだけじゃなかったんだ。

 後でわかったのだが、水曜日はレディス・デイで、女性は1,000円の日だったらしい。だから女性が多かったんだ。しまった、失敗した。平日だというのに224席の9.5割程が埋まってしまった。オヤジは多分7〜8人。若い女性は1割いただろうか。ほとんどオバサン。でも、内容的にはあまり女性向きとは思えない。あまりにも過剰で過激な暴力の数々。強い女性が主人公ということでウケているのか。よくわからん。ブームだから。

 予告でジム・キャリーの「ディック&ジューン 復讐は最高」をやっていたが、映像がなく、よくわからない。ただ本作と「復讐」でつながらないことはない。さて、どうなんだろ。


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