日本語字幕:手書き書体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision)/ドルビーデジタル、dts、SDDS
※日本語吹替版もあり(米PG-13指定)
昭和初期の日本。極貧のため9歳で姉と一緒に売られた千代(大後寿々花)は、都という町の花街にある置屋に売られていく。そして下働きとして、売れっ子の芸者“初桃”(コン・リー)にいじめられ、おかあさん(桃井かおり)に叩かれる毎日が始まった。同じ境遇の“おカボ”(工藤夕貴)と慰め合って暮らしていたが、ある日、辛くて橋のところで泣いていると、身なりの立派な紳士が声をかけてくれ、かき氷を買ってくれる。そして小銭をハンカチに包んで持たすと、元気を出せと励ましてくれた。その男性は“会長”(渡辺謙)と呼ばれ、そのときから千代の憧れの人となった。そして千代が15歳になった時、“初桃”のライバルの売れっ子芸者“豆葉”(ミシェル・ヨー)が、千代を芸者として育てたいと申し出てくる。 |
すごい。ちょっとだけ微妙に中国が入っているが、基本的に日本人が気付かなかったような美しい日本を舞台に、なんともおどろおどろしい話が実にドラマチックに、かつ陰気ではなく描かれている。なんたる運命。ピュアな思い。やっぱりラストには「良かったね」という安堵で涙が……。 とにかく、まず絵がきれい。日本で撮影した絵も色が濃く重厚だ。コントラストがはっきりし、鮮明でみずみずしい。どうしてこんなにもきれいなのだろうか。日本映画を見るとコントラストが低いものが多く、たいてい色が浅い。空もほとんど白く写っている。作品のイメージということもあるんだろうが、どうもそれだけではない気がする。そもそもフィルムが違うのか、現像処理が違うのか、撮影方法やライティングが違うのか。 音楽も最初の方では微妙に中国が入っていたが、それ以外は和風。欧米の人がイメージしやすい日本的な曲になっている。そして、それがいい。その音楽を担当したのは、「JAWS/ジョーズ」(Jaws・1975・米)や「スター・ウォーズ」(Star Wars・1977・米)でお馴染の巨匠、ジョン・ウィリアムズ。1932年生まれというから、御年73歳。手がけた作品を並べるだけで名作リストが出来てしまうような人で、老いてますます盛んというところか。本当に素晴らしい。 しかも、チェロの演奏に、「グリーン・デスティニー」(臥虎藏龍・2000・米/中)にも参加し、世界的に知られるヨー・ヨー・マ、ヴァイオリンの演奏に「シンドラーのリスト」(Schindler's List・1993・米)でも演奏したスーパー・スター、イツァーク・パールマンが参加している。このCDアルバムは買いかもしれない。 配役も素晴らしい。それぞれの役にピタッとハマっている。しかもみな素晴らしい演技。アクションの得意なチャン・ツィイーが、大和撫子らしい奥ゆかしさを、時に激しく、見事に演じている。そして素晴らしくきれい。これは見る価値がある。そして、落ち着いた感じの大人っぽいミシェル・ヨーも素晴らしい。のっけから、たまに日本語を混ぜたりしているものの全編英語という不自然さはあっても、違和感がない。ミシェル・ヨーも日本人に見える。そして、この2人はすでに「グリーン・デスティニー」で共演している。ともにアクションもバリバリOKの人だが、実におしとやかに見える。着物は歩き方ひとつでもちゃんとしていないと、前がはだけたりして美しく見えないという。着慣れていないはすせなのにそれができているのだから、アクションも出来る人は、なんでもこなせるのだ、たぶん。 とっても憎たらしい感じの初桃を演じたコン・リーもいい。美しいのに陰険な感じがとても良く出ていた。同僚にしてライバルとなるパンプキン(おカボのカボはカボチャか!)役の工藤夕貴も、最初の同情的な感じとか、裏切るところのキッとして感じなんて見事としか言いようがない。 さらに子供時代の千代を演じた大後寿々花がいい。本当にこれで12歳かという、見事な演技。ベテラン俳優たちの中にあって、まったく怖じ気づくような感じがない。むしろ堂々としている。トヨタやボーダフォンのCMに出ているらしいが、まったく記憶にない。彼女が子供時代をかわいらしく演じられなければ(激動の人生だが)、後半になって観客は醒めた目でさゆりを見てしまう。ものすごく大切な役なのだ。それをキッチリ果たしている。しかも英語で。恐るべき12歳だ。 それにしても良く日本の芸者のことを調べている。置屋、舞子、水揚げ、娼婦との違い……などなど、芸者遊びをしている人にはとっくにご存知のことだろうが、ボクなどほとんど知らないことばかりで勉強になった。日本映画でも芸者をテーマにした作品はあるはずだが、どうにも暗くてお涙頂戴なので予告だけでお腹がいっぱいになって見ていない。 原作は1997年に発表されたアーサー・ゴールデンという人の同名小説で、10年近くをかけて完成された最近の作品だ。原作はニューヨークでやり手ビジネス・ウーマンとなった元芸者の主人公が、アメリカ人の日本史学者に過去を語るという形式のものだそうだが、本当にインタビューしたのか、創作なのか。話の内容としてはよくあるパターンだ。読んでいないのでわからないが、貧しくて売られ、苦労した末に、ついに幸せを掴む。王道だ。問題はそれをいかに違った語り口で語り、読者を惹きつけ、いかに心を動かせるか。映画も同様。同じプロットを違った手法で見せ、いかに観客を引き込むかだ。それがこの映画(原作もか)うまい。 監督はこれが劇場公開作2作目というロブ・マーシャル。面白かった絢爛ミュージカル「シカゴ」(Chicago・2002・米)での手腕が評価されての抜擢らしい。それまではブロードウェイの舞台劇を数多く演出し、賞もたくさん受賞していたらしい。本当にうまい。 素晴らしい絵を捕らえたのは、ディオン・ビーブという撮影監督。ロブ・マーシャルと一緒に「シカゴ」を撮っているのだが、ほかに「レベリオン」(Equilibrium・2002・米)や「コラテラル」(Collateral・2004・米)などというアクション作品も撮っており、静も動も撮れることを証明した。 公開初日の初回、銀座の劇場は劇場名が変わって、初回から全席指定方式になってしまった。55分前に下のボックス・オフィスが開いたが。それまでは別の窓口で受け付けていたらしい。座席を確保して、とりあえずスタバへ。25分前に戻るとちょうど開場したところ。50人くらいが入っていた。 中高年が非常に多く、とくに老人が目立つ。老若比は8対2くらい。男女比は4対6くらいで、女性のほうが多い感じ。女性専用のレディース・シートがあり、右列中央やや後ろに3列。 ふと気が付くと、後ろの壁に関係者がズラリ鈴なり状態。なんでこんなに大勢の人が。しかも上映直前に出て行くから、場内に灯が入ってじゃまだっていうの、ホント。「不審な行動並びにご迷惑となるお客様がいましたら……」とアナウンスが入ったが、彼らがそうではないか! タダの試写会じゃないんだから。 最終的に540席の1/3ほどの入り。早朝だからとは言え、こんなものなのか。いい映画だと思うので、もっと入ってもいいんじゃないの。 ところで、映写途中で映写室の灯を点けるのはやめて欲しい。真っ暗な場内の真ん中あたりにもれてきて、気になってしまう。プロとも思えない……。無神経だなあ。 予告編は、いよいよスピルバーグが1972年のオリンピック時のテロ事件を描く「ミュンヘン」と、緊迫した感じがすごい「フライト・プラン」、「パイレーツ・オブ・カリビアン2」がすごかった。これはどれも絶対に見たい。面白そう。 |