ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル
レイト&モーニング・ショー
昭和のいつか……小さな田舎町に見せ物小屋がやって来た。一番の見せ物は狼に育てられたという10歳の少女。地底人やUFOが大好きな小学4年生の大田明(鈴木達也)は興味津々だったが、学校から見に行くことを固く禁じられていた。そんなとき、明のクラスに都会的なあかぬけた感じの少女、手塚留美子(大野真緒)が転校してくると、たちまち人気者となった。そして、クラスでいじめられている小室秀子(増田怜奈)が、貧乏で汚い格好をしていることから、アイツが狼少女だという噂が立つ。留美子は、明と一緒に秀子を助けることになるが……。 |
ありがちなジュブナイルものだが、小さなエピソードがうまく、全く無理のない自然な流れで感動を呼ぶ。つい涙が……。 ただし、これはどうなんだろう。まず昭和という時代と断っておきながら、まったくといっていいほど昭和の感じがしない。まるで平成。そして、大きな事件が起きない。派手なSFXもない。実に地味で、なんだか「中学生日記」の小学生版のような感じ。映画というより、むしろテレビのスペシャルで良かったような印象が強い。して、もうひとつ、モーニング・ショーもあるものの、レイト・ショーがメインになっているが、これこそは小学生に見て欲しい。たぶん自分たちで気付かず行動していることがどうなってイジメになっているのか、悲劇を生み出しているのか、気付けると思う。レイト・ショーでは18歳以上しか見られない。 今何かと批判の対象となっている「ALWAYS三丁目の夕日」(2005・日)の昭和よりもっと昭和ではない。たぶん昭和のイメージということなのだろう。しかし、ちっとも昭和の匂いがしないのでイメージさえ作られていないのでは。確かにインチ物売り(ボクの田舎でも1967(昭和42)年頃には来なくなった)、見せ物小屋(1972(昭和47)年頃には来なくなった)、ゲイラカイト(1975(昭和50)年に日本登場。劇中ではタコと呼んでいるが)、世界名作文学全集、オイルショック(1973年(昭和48年))、坊ちゃん刈り・おかっぱ・おさげ、UFO(昔は空飛ぶ円盤といっていた気がする)……とか出てくるが、たぶん見せ物小屋と狼少女を成立させるためのものなのだろう。今では児童を働かせることなど絶対に無理(労働基準法第56条)。ちなみに口裂け女は1970年代末から1980年代初めではないだろうか。もちちろん昭和だがインチ物売りと一緒だとなあ……。 子供たちはいい演技をしていると思うが、クラスのイジメにあう女の子、小室秀子が髪ぼうぼうで顔も汚れ明らかにそれとわかるボロを着ているというのはまるで漫画のよう。志村けんの貧乏親子コントじゃないんだから。そして、いじめっ子がどちらかというと気が弱そうでいじめっ子には見えなかった。 とは言いながら、子供たちのいじめや、子供にとっては理解できない不条理な親の叱責、黄金の三角関係は抜群にうまい。みんなではやし立てたり、靴に画鋲を入れたり、学級会で議題にしたり、すごいリアル。明が父親にしかられるシーンも、大人である僕が見てもなぜ怒られるのか理解できない(ボクの頭の出来は置いておいても)しかられ方。志村けんがコントで使っているように『「謝れ」と言っておいて謝ると、「謝って済めば警察は要らない」とまた怒る』というような理不尽なパターン。子供がどうしていいのかわからないのは当然だと思った。そして女2人に男1人の微妙な三角関係。ちょうど何サンが好きだとか、誰クンがカッコいいとか言い始める頃。セリフにはないが、目線や表情がそれを語っている。うまいなあ。非常に説得力がある。大人であっても観客が当事者になっているような感覚さえ覚える。これはすごいことだと思う。だからこそラストで涙がにじむのだ(ただ、小学生の時の思い出っても結構すぐに薄れてしまうものだったりするけど)。 気になったのは撮影。全体に色が浅く淡い。レトロな感じを出したいのであれば、「三丁目……」のようにセピアというか暖色系の方があっている気がする。特にロケは白いというか青っぽいというか。最近の日本映画らしい色調は、どうにも昭和を感じさせない。ビデオのような色調・画調とも言えるのかもしれない。もっと映画らしい絵にして欲しいなあ。予算の問題なんだろうか。 ちなみに本作は、函館港イルミナシオン映画祭でシナリオ大賞を受賞した大見全の脚本が原作で、芸術文化振興基金助成事業だったりする。確か「HINOKIO」(2004・日)もそんな助成事業だったような気が……。 あえて、付け加えさせてもらうとすると、見せ物小屋が子供にはとてもリアルに見え(SFXなどふんだんに使って)、大人にはチープに見えるという差があっても良かったのではないだろうか。ボクも見せ物小屋に夢中になったクチなんで。子供の頃はホント怖かったし、不思議だったんだってぱ。 公開13日目、新宿の劇場は20分前くらいに着いたら、ロビーにオヤジが1人。前の上映が終わり、10分前になって入場した時点では若いカップル2組とオヤジが2人。全席自由。最終的には20人くらいの入りで、中年カップルも来て、女性は6〜7人。オヤジが5〜6人、あとは若い男性。オバサンはあまり見に来ないようだ。 予告はあまの印象に残るものはなかった。あえていうと「力道山」と青山真治の「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」(「神よ何ゆえに我を見捨てたもうや」の意らしい。奇異なタイトルしか記憶にない)くらいか。それにしても、ビデオ予告は辛い。画質があまりにも悪過ぎ。もっとどうにかならないのだろうか。DVで今の技術を使えばこんなに酷いことはないはずだが……。 |