日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/ビスタ・サイズ(HDTV、1.66)/ドルビーデジタル
(デンマーク15指定、日PG-12指定)
田舎の小さな炭鉱町に住むディック(ジェイミー・ベル)は、炭鉱で働けない男は男じゃないと言われる町で、ショップの店員をして肩身の狭い思いで暮らしていた。しかし、ある日、家政婦のクララベル(ノウヘェラ・ネルソン)の孫のセバスチャン(ダンソ・ゴードン)の誕生パーティに誘われ、おもちゃ屋で古いピストルの玩具を買うが、何かを感じてピストルを渡すのを止め古本をプレゼントすることにする。数年後、段ボールの箱の底からそその玩具のピストルが出てくる。すると同僚のスティーヴィー(マーク・ウェバー)はそのピストルが本物だと指摘。2人は“銃による平和主義”の秘密クラブ「ダンディーズ」を作り、“負け犬”たちを集め始める。 |
うわあ、落ち込んだ。暗い気持ちになった。このやるせなさ。年末に見るにはどうなんだろ。やっぱり今は、もっと希望の持てる前向きな作品か、くったくなく笑えるヤツとか、ジーンと感動するのを見たいなあと。 「正義の名のもとに僕たちは銃を持つ」という理念は、まさに若者ゆえのビュアさから生まれたものだろう。そして本作は銃社会を皮肉ったものというより、若者のビュアさを描いた作品なのではないかと感じた。というのも、アメリカ南東部の炭鉱町が舞台で多くのアメリカ人俳優が出ているが、撮影されたのはデンマークとドイツであり、監督もデンマーク生まれのトマス・ヴィンターベア(36歳)という人だし、脚本のラース・フォン・トリアー(49歳)=ビヨークの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(Dancer in the Dark・2000・デンマーク)の監督、もデンマーク生まれだ。二人で1995年にドグマ95を結成、10カ条からなる「純潔の誓い」という映画を作る際の誓いを立てている。それはかつて1960年代にフランス映画であったような「ヌーベル・バーグ」に近いような気がボクはしているのだが、やはりキー・ワードは「ビュア」だ。ちょっと「ヤングガン」(Young Guns・1988・米)っぽい感じもあった。「明日に向って撃て!」(Butch Cassidy and the Sundance Kid・1969・米)のラストとか。 監督のメッセージによると「正義の名のもとに僕たちは銃を持つ」というのは、ほとんどの欧米社会の理念だという。強力な軍隊を持つスイスの永世中立などその良い例なのだろう。なかなか日本人には理解しにくいものだと思う。そして映画ではビュアさゆえにそれが破綻してしまう。インドのガンジーの「非暴力・不服従」や、アメリカ黒人の公民権運動の指導者キング牧師の考え方とは違う気がする。 ちりばめられた銃のウンチクは、なかなかのもの。米軍が.45口径にこだわる原因となった米西戦争の話や銃創の研究(ちょっと日本では考えられない)、跳弾の研究、銃と所有者当てクイズ……勉強のためにガン・ファンには有名な「デドリー・ウエポンズ」というアメリカで作られたビデオを見ていたり、それらを調べて夢中になる過程など、ボクらガン・ファンは思わずドキッとするくらい似ている部分がある。もちろん日本では自由に銃が持てず、みなオモチャで遊んでいるだけなのだが。 ダンディーズの銃はディックが、おもちゃと間違えられていた銃で、ハーリントン・アンド・リチャードソンかアイバー・ジョンソンあたりの古いリボルバーだと思うが、ダンディと命名。技術の天才スティーヴィーが、ロンメルだかパットンだかが使っていたというモーゼルM1898で、肝心な時、弾が出なかったといういわくつき、バッド・スティールと命名。足の悪いヒューイは.52口径単発のパーカッション・マズル・ローダーをリンドンと命名し、紅一点のスーザンは、たぶんデンマーク軍用のM1880リボルバーの2挺をリーとグラントつ名付ける。そして$80と高くてなかなか手に入れられなかったフレディが、のちにセバスチャンからもらうのがブローニングM1900で、ウーマンと命名。後から参加しグループの話を乱すことになるセバスチャンは、唯一現代のオートマチックで、たぶんスクリーン初登場の南アのベクター・モデルSP1で、命名はピース。ガンガン撃っているけど。日本人的には理解しにくいが、彼らはパートナーの銃と結婚式のような儀式を行い、誓いを立てる。死が二人を分かつまで離さないと。 対する警察は、ビル・プルマン演じる町の保安官が持っているのがP229あたりのオートマチック。熱心に銃器研究を行っているダンディーズが、常々裏切り者の持つ銃だと話していた銃。銃撃戦になるとM16A1やMP5も持ち出してくる。スナイパーまで出てくるが、それを精度の高いモーゼルで、スティーヴィーが120mの距離から倒すシーンもある。この距離だと弾は93cm落ちるからなどと照尺をセットし撃つ。実際、本当にうまい人だと拳銃でも100m程度で人のサイズに命中させることが出来ると言うから大げさではない。 レントゲン風で、弾丸が体内に侵入し骨を折るカットなど、斬新な手法も見せるが、あまりに残酷で辛い。理想と現実の差が見せつけられる瞬間だ。彼らは銃を持った瞬間からこうなる運命にあったのかもしれない。銃を持って自信を取り戻し、精神的な解放を得ることが出来るが、支払う代償は大きなものとなる。うーん、辛いし、救いもない。 曲は劇中でも語られるゾンビーズがふんだんに使われている。1960年代に人気のあったイギリスのグループで、特に「ふたりのシーズン」(現在、日産ティーダのCMに使用)や「シーズ・ノット・ゼア」はヒットもしたし、耳に残る。オジさんにはたまらないものがある。サントラは買いかもしれないが、曲を聴くたびこの映画を思い出すとなると、ちょっとしんどいかなあ。 公開9日目の2回目、銀座の劇場はとりあえず先に受付だけすませて食事と買い物へ行き、20分前くらいに戻ると全スペース禁煙というロビーには4〜5人。15分前に入れ替えとなって場内へ。受付番号順での入場のはずだが、人数が少ないのでチェックなしで場内へ。全席自由で、最終的にはスタジアム形式で見やすい257席に15〜16人の入り。まあ9日目だし、この暗さじゃなあ。しようがないか。20代くらいの女性が中心で、中高年のオヤジは3〜4人。男女比は半々くらい。「ダンサー……」を見た人達か。 予告では「スパイモンキー」が気になった。ついさきごろ亡くなったミヤギことパット・モリタが出ていたような。遺作になるのかも。見たいが、劇場がなあ……。 |