2005年12月25日(日)「ディック&ジェーン 復讐は最高!」

FUN WITH DICK AND JANE・2005・米・1時間30分

日本語字幕:丸ゴシック体下、藤沢睦美/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

72点


http://www.sonypictures.jp/movies/index.html
(入ったら音に注意。全国劇場案内もあり)


IT企業グローバーダイン社の広報部に勤めるディック(ジム・キャリー)は、ある日、突然マカリスター社長(アレック・ボールドウィン)に呼び出され広報本部長に任命される。翌日すぐにTVの経済番組に出演させられると、会社の経営がすでに破綻しているのではないかと鋭い質問を浴びせられ、しどろもどろとなる。そして会社に戻ると、すでに社長はおらず社内は大混乱。ちょうどその日、妻のジェーンは夫の昇進を当て込んで会社を辞めていた。失業保険があるからと安心したものの、結局3ヶ月経っても再就職口を見つけられず、ついには電気を止められ、マイ・ホームさえ差し押さえられることに。せっぱつまった2人は、幼い息子の水鉄砲を持ち、マスクを被ると最終手段に訴えるが……。

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 あまり期待していなかったが、面白い。かなり笑えるし、ラストはちゃんとハッピーな気分に。年末に見るにはこんなお気軽に楽しめる映画が良いのではないだろうか。ジム・キャリーも女装したり、完璧にキレてしまったりと、本領発揮。やっぱりジム・キャリーはこうでなきゃ。IMDbでの評価はめちゃめちゃ高いけど「エターナル・サンシャイン」(Eternal Sunshine of the Spotless Mind・2004・米)なんて、ダメダメ。あれは誰だってできる。少なくともジム・キャリーがやるべき映画じゃない。

 完璧なコメディだけれど、設定はリアル。会社の突然の倒産。それも偽装倒産っぽい話で、社長は部下に責任をなすりつけ、金を持ってドロン。しかもそれがいま注目を集めているIT企業だからよけいにありそうな話。

 主人公は自信ビーマー(そう呼んでいた。BMWのこと)に乗っており、お金持ちが住む地域に一軒家を持ち、旅行代理店に勤める妻と息子と暮らし、スペイン語を話す家政婦を雇っている(おかげで息子は英語よりスペイン語の方が得意)。お隣さんは音声リモコンでエンジンのオン・オフができるメルセデス(日本式にはベンツ)だ。社内でもかなり良い地位であることは間違いない。普通オー・マイ・ゴッドというような時にオー・マイ・ガッシュと上品に言う人種。

 これでいきなり失業するわけで、失業保険があるからといいながらも3ヶ月(たぶん)はすぐに経過し、管理職の就職口はそう簡単には見つからないわけで、一気に悲惨な状況がやって来る。この就職戦争の模様や、悲惨な状況の描き方がコメディだから暗くなく笑えるようになっている。しかし良く考えると、笑えるけれど実は深刻な問題だ。こういうことは誰にでも、いつ起こってもおかしくない。

 さんざんバカにされて、管理職は諦めスーパーの店員などにチャレンジするが、自分より若い上司に使われて慣れない仕事はうまくいかない。妻もスポーツ・ジムのインストラクターの職を得るが、生徒にハイソなお友達の奥様方がいて、これまたダメ。

 追いつめられ、生きて行くため、ついに犯罪に手を出してしまうわけだが、これまた事情が判るのと人の良さが出ていて憎めない。犯罪を肯定しているわけではないが、ありそうな話だ。そしてあちこちで元グローバーダイン社の社員が犯罪に走り、逮捕されるという事件が相次ぐ。これはコメディだし、笑えるネタを満載しているから、笑っていられるが、この設定でそのままシリアスに描くことも可能なわけで、こんなに悲惨な話もない。ボクはこちらのスタイルのほうが好きだ。

 この脚本を書いたのは3人で、1人がジャド・アパトウ。まだ日本公開されていないが「the 40 Year Old Virsin」という全米大ヒット映画の脚本・監督を手がけた人。もともとはスタンダップ・コメディアンで、それからTV界に入りコメディを手がけるようになって、ジム・キャリーと知り合ったらしい。もう1人はTV出身のニコラス・ストーラーという人。本作が初めての劇場作品ということになるらしいが、複雑な状況をキッチリとまとめてみせた手腕は高く評価できるだろう。クレジットでは脚本になっていないので、初期の脚本を書いただけかもしれないが、やはりTV出身でロバート・デ・ニーロが出たコメディ「アナライズ・ミー」(Analyze This・1999・米)とその続編や、エリザベス・ハーレーの「悪いことしましョ!」(Bedazzeled・2000・米)、白人と黒人の結婚を描いた「ゲス・フー/招かれざる恋人」(Guess Who・2005・米)とコメディを書き続けているピーター・トラン。なるほど納得。そういう作家たちだったか。

 ただ、元ネタがあって本作はリメイク。「ランボー」(First Blood・1982・米)のデッド・コッチェフ監督が手がけた「おかしな泥棒ディック&ジェーン」(Fun with Dick and Jane・1977・米)がそれなんだとか。「スター・ウォーズ」(Star Wars・1977・米)などが公開されSFに人気が集まっていた時で、ほとんど注目されなかったように思う。

 プロデューサーは、主演のジム・キャリーとブライアン・グレイザー。ブライアン・グレイザーといえば、古くは人魚になったダリル・ハンナの出世作「スプラッシュ」(Splash・1984・米)や、傑作コメディ「スパイ・ライク・アス」(Spies like us・1985・米)、世界的な大ヒットとなったTVの「24」シリーズ、最近では「8 Mile」(8 Mile・2002・米)、「シンデレラマン」(Cinderella Man・2005・米)、「フライト・プラン」、「ダ・ヴィンチ・コード」などを手がけているヒット・メーカー。監督ではロン・ハワード、俳優ではトム・ハンクス、ジム・キャリー、エディー・マーフィらとの仕事が多い。

 監督もやっぱりTV出身のディーン・パレソット。これまでどんな作品を手がけたのかと見てみれば、なんとあのSFコメディの大傑作「ギャラクシー・クエスト」(Galaxy Quest・1999・米)を監督したその人ではないか。面白いわけだ。最初から言ってよ、って感じ。東京の劇場は連日長蛇の列ですごかったのに、映画会社の人は評価していないってことか?(単館公開だったかもしれないが)

 最後にはエンロンの名まで出てきて、いかにもリアルっぽい。いや、笑ってられない。

 オープニングとエンディングのイラストを使ったクレジットのデザインはイマジナリー・フォース。最近カイル・クーパーは単独で仕事をしているようで、もうイマジナリー・フォースを率いていないのかも。どうなんだろ。

 公開2日目の初回、あまり宣伝していなかったので遅めに出かけて、35分前に着いたら新宿の劇場は誰も並んでいなかった。うーむ。30分前に上のドアが開いたが、この時点でも2人。25分前に開場になった時はさすがに6〜7人並んでいた。若い男性1人に若いカップル1組以外はオヤジ。

 初回に限らず全席自由で、最終的には763席に3割くらいの入り。これなら中央の席で見ても見やすいだろう。ボクは安全を見てやや端寄りにしたけど。男女比はほぼ半々。老若比も最終的には半々になった。若い人はギリギリにしか来ないのか。意外に観客層は幅広い。「ギャラクシー・クエスト」のおかげか?

 早くから予告していた韓国映画「美しき野獣」の前売りを買うと特製DVDがもらえると言っていたので、ついつい帰りに買ってしまった。だって、どうせ見るんだから……。劇場も東劇でやるって言うし。それと、すでに何回か見たが、中東と石油をめぐるCIAの暗躍を描く「シリアナ」はいいかも。「トラフィック」のスタッフとあったので多少不安があるが、予告では面白そう。


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