2006年1月14日(土)「THE有頂天ホテル」

2005・フジテレビ/東宝・2時間16分

ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル



http://www.uchoten.com/
(入ったら音に注意。全国の劇場案内もあり。表示がめちゃ遅い)

大晦日、ホテル・アバンティではカウントダウン・パーティーの準備に大わらわ。そんな中で、離婚し役者の夢を諦めた副支配人の新堂(役所広司)は、歌手になる夢を諦め田舎へ帰ろうとするベルボーイの只野(香取慎吾)を、ウエイターの丹下(川平慈英)、客室係のハナ(松たか子)、同じく客室係の睦子(堀内敬子)らと見送ろうとしていた。そして、その頃、ホテルにはスキャンダルを逃れようとする国会議員の武藤田(佐藤浩市)、パーティーに出演する芸人たち、マン・オブ・ザ・イヤーの発表会に出席する人々、カモを物色するストリート・ガール(篠原涼子)などが続々と集まりつつあった。そして、あちこちで思いもしなかったトラブルが発生する。

74点

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 面白い。いわゆるシチュエーション・コメディで、多才な人物が登場する群像劇。いかにも三谷幸喜らしい作品に仕上がっているのではないだろうか。どちらかといえば、やはり舞台劇っぽい感じもする。魅力的な人物たちが、次々と入れ替わり立ち替わり舞台に上がってくる感じ。耳が異常に大きな一族とか、ホテルの探偵、演歌歌手、マン・オブ・ザ・イヤーを授与する団体、汚職議員、ホテルでも制服を着ているスチュワーデス、コールガール……などなど。オール・スター状態。

 ただ、大晦日の半日ほどの話で、カウントダウン・パーティーが始まって年が明けたところで終わる話なので、12月に見たい作品だった。そうすればもっと感動できた作品だったのではないだろうか。それが実に惜しい。あえて年末に公開しなくてもいい作品はたくさんあったと思うし、それと入れ替えた方が良かったのでは。魅力半減とまでは言わないが、1/3くらいは損しているのではないだろうか。きっと年末に見たら、新年への希望が湧いてくるというか、よし新年からがんばってみようと思わせてくれたはず。

 非常に入り組んだ話なのに、それほど複雑に感じさせず、しかも個々の話をほっぽらかしにせず、なおかつ安直な予定調和的結末に持って行かないところがうまい。単なるハッピー・エンドでもなく、冷たく突き放すわけでもない、希望のあるエンディング。さすがでございます。

 観客のほとんどの人達が笑いに来ている雰囲気があって、ギャグはまだかと待っている感じ。そこへおかしなシチュエーションになって、決めのセリフや表情が来ると、ドカンと受ける。これは結構気持ちいい。たぶんその雰囲気が観客全員に感染するのだろう。徐々に笑いは本気になって、気付けばズッポリと三谷ワールドにハマっている。だから結構ジーンと来る。

 1つのアイテムが何人もの手を経て、ラストにまた最初の持ち主に返って行くのもおもしろい。実に良く構成というか、設計されている。そう、一見めちゃくちゃな形をしているようだが、実は細部まで細かく寸法が指定されている巧妙な芸術作品のようなもの。これがまた三谷ワールドなのだ。

 とにかく素晴らしいのは、副支配人の役所広司。この副支配人の人柄の良さがこのホテルを魅力的なものにしている(劇中でもアトスタント・マネージャーの戸田恵子がそう言っている)。灰皿と取り皿を間違えた客に恥をかかせないため、他のすべてのテーブルから紛らわしい灰皿を下げ、こっそりと灰皿らしい灰皿と取り換えるところなんぞ、さすがの気遣い。「いらっしゃいませ」ではなく「お帰りなさいませ」という声も、セリフではなく心からの声に聞こえる。さすが名優、役所広司。ホントこの人はスゴイ。選ってはいるのだろうが、何を演じてもうまい。彼が出演を決めたことによって、この作品は成功したも同じだったのではないだろうか。

 他にもたくさんの個性的な役者さんが出ているが、だいたい皆、三谷作品に出たことがある人ばかりで、いわば三谷組。役所広司もボクのお気に入りの舞台「巌流島」でおかしな武蔵を演じているし、二枚目なのにゲスなチンピラのような芸能プロの社長を演じている唐沢寿明にしても同様「ラヂオの時間」(1997・日)とか「みんなのいえ」(2001・日)とか。香取慎吾はNHKの「新撰組!」や「HR」に出ているし……ひょっとしたら松たか子が三谷作品初出演かと思ったら、舞台の「オケピ」と「古畑任三郎」に出ているらしい。佐藤浩市も川平慈英も篠原涼子も西田敏行も麻生久美子も津川雅彦も……寺島進とYOUくらいか、出てないのは。

 三谷幸喜は映画監督作品は「ラヂオの時間」「みんなのいえ」に続いて3本目。だいたい4年に1本というペース。「ラヂオ……」は未見だが、本作が一番面白いような気がする。「ラヂオ……」も見てみたくなった。

 オープニングとエンディングのクレジットともに往年のハリウッド・スタイル。舞台のような額縁がついているデザインは、それだけで何となく内容が予想できる感じ。そしてまさにそのとおりになっていたわけだが。エンディングもちゃんと「終」と出た。舞台を想像させ、さらに映画っぽくて良い。

 公開初日の初回、舞台あいさつがあるというので銀座の劇場はやめて新宿へ。45分前に付いたら、劇場の前には8人ほどの列。若いカップル1組、中年カップル1組、息子と母1組、オヤジが2人。30分前に開場した時点で30人ほどの行列に。多くは銀座へ行ったのだろう。

 劇場は指定席なしで、やや前席が気になるくらいのスクリーン見え具合(ちょっとスクリーンが暗い気はするが)。カーテンはあり、左右に開く方式。10分前には406席の6.5割程が埋まり、最終的には7.5〜8割が埋まってしまった。これはビックリ。みんな笑いに飢えているんじゃないだろうか。お笑い番組の視聴率も高いというし、お笑い番組も多い。お笑い芸人は引っ張りだこだ。年齢層は幅広く、高校生くらいから老人まで、まんべんなくいた感じ。老若半々というところだろうか。

 予告編では、ついにトム・クルーズの「Mi3」が始まった。なかなかカッコいい。あのテーマ・ソングを聞くとなんだかワクワクしてしまう。


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