2006年1月29日(日)「オリバー・ツイスト」

OLIVER TWIST・2005・英、チェコ、仏、伊・2時間09分(IMDbでは130分)

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、スーパー35、Panavision)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(英PG指定)

http://www.olivertwist.jp/
(全国の劇場案内もあり)

19世紀のイギリス。養育院で育った孤児のオリバー・ツイスト(バーニー・クラーク)は、9歳になったので救貧院へ移されることになった。そこで生きて行く技能を身に付けることになっていたが、やらされるのはロープをほぐして麻の原料とすること。やがて、葬儀屋に引き取られることになるが、イジメにあい、家出をしてしまう。行く宛もなかったが、道標にロンドンまで70マイルとあったので、ロンドンへ向かうことにした。そして、そこで彼はスリ集団の少年たちと元締めのフェイギン(サー・ベン・キングズレー)に出会い、生活を共にすることになる。

73点

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 ちょっとキタ。涙が……。とにかくイギリスにおける19世紀という貧富の差の激しかった時代が、貧しい者にとっていかに過酷だったかがショッキングだ。その時代感が見事に表現されており、観客はあたかも19世紀のロンドンに紛れ込んでしまったかのような錯覚を覚えるほど。こういう時代なら、盗み程度のことをしなければ生きて行くことができなかっただろうと思える。れっきとした犯罪だが、それくらい大したことないと思えるような悲惨な時代。観客にそう思わせれば、この映画は半分は成功したといって良いのではないだろうか。

 そんな中にあって、ピュアなハートを持ち、誰にでも敬語で話しかけるオリバーは確かに輝きを放っている。ただし、オリバー役のバーニー・クラークが美少年過ぎる。やっかみに聞こえるかもしれないが、この映画だと美少年だから「ピュアなものを持っている」と思われ、チャンスが与えられる、ように感じてしまう。もし、このオリバーが普通の少年だったら? いや、むしろ心は優しくても厳つい顔つきの少年だったらどうなっていたんだろうと、思わざるを得ない。ここが一番残念なところだ。どうしても見かけだけで判断されているような印象を受けてしまう。映画なんだから、あまりに醜男を使うわけにはいかないのはわかるが、もっと個性的な子役だっていたはずだ。その方が真実味はあったと思う。ファンタジーなのだから美少年で良いのだだと言われれば、反論は出来ないが……。ポランスキー監督の前作「戦場のピアニスト」(The Pianist・2002・仏、独ほか)のように、主人公はほとんど何もしない。周りがいろいろ動いて、事件が起こり運命が大きく動いて行く。そこに何か物足りないものを感じるんだけど……。

 やはり、予想通りフェイギン役のサー・ベン・キングズレーはすごい。まったく彼に見えないメイクで、声も全く違っている。予告編では「心優しき悪党」と言っていたようだが、どちらかというと悪党でも小悪党。心優しいというのは?だ。自分のことが警察にバレルのではないかと心配して、本気で幼いオリバーを抹殺しようとするのだから、心優しいとは言えないのではないだろうか。

 少年スリ団のリーダー的存在の早業ドジャーを演じたのは、どこかで見たことあるなあと思ったら、「ピーター・パン」(Peter Pan・2003・米)でロスト・ボーイズのニブを演じていた子。本作でもなかなかいい感じ。

 監督のロマン・ポランスキーは、ポーランド生まれで今年73歳という大御所。第二次世界大戦中に両親は強制収容所に入れられ、自らもユダヤ人狩りで追われるという過酷な経験をし、ハリウッドにわたって結婚した妻が斬殺されたり、13歳の少女をレイプしたとして逮捕され保釈中にヨーロッパに逃亡したりと、まさに波乱万丈の人生を歩んできた人。それゆえなのか、ショッキングなヒット作が多く、「ローズマリーの赤ちゃん」(Rosemary's Baby・1968・米)、「チャイナタウン」(Chinatown・1974・米)、「テス」(Tess・1979・仏、英)、「赤い航路」(Bitter Moon・1992・仏、英)、「死と処女(おとめ)」(Death and the Maiden・1995・米)……などなど。映画に関してはすごい才能だと思う。

 原作は有名なイギリスの作家、チャールズ・ディケンズ。「オリバー・ツイスト」(1837〜1839)はその著作の中でも有名な1本だが、ボクはお恥ずかしいことに「クリスマス・キャロル」(1843)しか読んでいなかったりする。ほかに有名なところでは「デビッド・コッパーフィールド」(1849〜1850)、「二都物語」(1859)、「大いなる遺産」(1860〜1861)などがあり、いずれも何度も映画化、TVドラマ化されている。遠い昔に少年文学などで読んだので、これを機会にオリジナル版を読み直してみてもいいのかも。

 銃はもちろんパーカッション、単発の時代で、発砲シーンなども引き金を引いてから発射までにタイムラグがあって、ガスが手もとから漏れるなどリアル。車道にはちゃんと馬の糞が落ちているし、犯罪グループの1人、ナンシーが撲殺されるシーンでも、撲るシーンは直接映らないが音がしてどす黒い血が流れてくる(この方が想像して怖かったりする)……リアリズムは徹底している。ここが、またロマン・ポランスキーらしいところだろう。

 公開2日目の2回目、全席指定なので先に座席を確保してから昼食へ。20分ほど前にもどるとちょうど入れ替えの時。下は小学生くらいから、上は白髪の老人まで、かなり幅広い年齢層。やっぱり名作ということで親が見せようとしているのか。ファミリー層もかなり目立っていた。男女比は半々くらい。最終的に654席の6.5〜7割くらいが埋まった。17席×2列のプレミアム席もほとんど埋まったとはビックリ。

 予告は、「海猿2」と「アサルト13要塞警察」(これって、ジョン・カーペンターの「要塞警察」(Assault on Pricinctt 13・1976・米)のリメイクだろうか)、「アイス・エイジ」(すでにドングリ好きのスクラットが笑わせてくれる)、興味津々の「エミリー・ローズ」、ブライアン・デ・パルマ監督の「ブラック・ダリア」が気になった。

 それにして、上映中、非常口のランプが煌々と灯っており、気になってしょうがなかった。消してくれよ。


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