2006年2月4日(土)「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々

SOPHIE SCHOL - DIE LETZTEN TAGE・2005・独・2時間01分(IMDbでは117分)

日本語字幕:手書き書体下、古田由紀子/ビスタ・サイズ(ARRIデジタル)/ドルビーデジタル

(独12指定)

http://www.shirobaranoinori.com/
(全国の劇場案内もあり)

1943年、ドイツのミュンヘン大学の学生を中心とした反ナチ・グループの「白バラ」は、新しいアジ・ビラを、郵送だけではなく大学構内で配ろうとしていた。危険だということで、誰もやろうとしない中、文章を書いたハンス・ショル(ファビアン・ヒンリヒス)と妹のゾフィー・ショル(ユリア・イェンチ)がそれを決行する。しかし、現行犯で大学当局に拘束され、ゲシュタポに引き渡される。

73点

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 実話の映画化。第二次世界大戦中盤の1943年2月18日に逮捕され、22日に死刑判決が下されると即日処刑されたという事件。割と淡々と撮られていると思うが、ちょっと涙が……。あちこちから鼻をすする音が聞こえていた。

 当たり前のことだが、ナチス政権下でもナチスに反対する人々はいた。ただ、その事実をドイツ自身が描くことは今までほとんどなかった。しかし、1990年に東西ドイツが再統一されたことにより、東ドイツでゲシュタポの尋問記録が発見され、事件の詳細がはっきりしたこともあって本作が作られたという。

 「白バラ」については、ゾフィー・ショルの姉が1950年代に書いた「白バラは散らず」(未来社・1,260円)という本によって初めて世に知らされた。そして東西ドイツ統一前の1982年にミヒャエル・ヘルホーファン監督・脚本による「白バラは死なず」が作られ、同じく1982年、パーシー・アドロン監督・脚本による「最後の5日間」という作品も作られているという。

 本作の脚本はフレート・ブライナーズドーファーという人で、1946年生まれ。監督はマルク・ローテムントという人で、1968年生まれ。どちらもTVで活躍してきた人で、第二次世界大戦は体験していない。しかし資料を集め、調査を重ねて本作を作り上げたそうだ。

 映画の中で最初に兄妹が捕まる過程はちょっとあっけない。あまりにも無計画というか、考えが足りない感じがする。あれでは捕まるのは当然という感じ。しかし、捕まってからのゲシュタポの取り調べが素晴らしい。いかにもリアルな感じがする。

 いままでゲシュタポというと、ハリウッドが描いてきたステレオタイプなものばかり。黒い革のコートを着て、残虐で、怪しい者は逮捕したらろくに調べもせず密かに抹殺してしまうか、次々と収容所送りにしてしまう悪の権化、という感じ。ところが、本作ではちゃんと取り調べを行っている。しかもその感じは普通の警察に近い。尋問記録に基づいて作られたそうだから、この描写は実際のものに近いのではないだろうか。それが結構理詰めで、推理ものを見ているような気にさせる。主人公が言い逃れできなくなり、罪を認めるあたりなどドキドキしてしまう。まるで自分が尋問されているような気になる。そこがうまい。

 「ヒトラー 〜最期の12日間〜」(Der Untergang・2004・独ほか)にも出ていたアレクザンダー・ヘルドが、ロベルト・モーア尋問官を微妙な人間臭さを漂わせて演じて見事だ。

 ちなみにゲシュタポはゲハイム・シュターツポリツァイの略称で、直訳すると秘密国家警察。反対勢力弾圧機関だという。日本で言えば「特高警察」(特別高等警察、反体制思想を弾圧した秘密警察)だ。日本でも小説家を取り調べ中に殺害した事件などあるのだが、映画化されているんだろうか。

 むしろ従来のゲシュタポのイメージそのままなのは、ローラント・フライスラー裁判官だろう。アンドレ・ヘンニッケという人が、青筋を立てて糾弾しまくり、ヒステリックで、実に迫力というか怖さがあった。傍聴人がすべて軍人というのも怖かった。

 主人公のゾフィーは、わずか21歳とは言え人間的にとてもしっかりしている。記録に基づいて作られているので、かなり実像に近いはずだ。何よりスゴイのは「自分が納得してやったことだから、結果は受け入れる」と言うところ。それが死刑に繋がることかもしれないのに……自分だったらこう言って認めることができるだろうか。そして、周りの人に自分の弱さを見せないように気丈に振る舞っているのが立派で、また涙を誘う。彼女はトイレでしか泣かない。死刑が決まり、連行される廊下でつい涙を流してしまうのだが、それをモーア尋問官に見られるとあわてて涙を拭き、泣いているんじゃないとわざわざ言い訳するのだ。これもできないなあ……。

 ラスト、処刑がギロチン(断頭台)だとは思わなかった。中世の裁判じゃないんだから、電気椅子とか絞首刑かと思っていたのに、マリー・アントワネットのように首を刎ねられる。ゾッとした。ギロチンの刃が上げられると画面は暗転し、音だけがして観客は処刑されたことを知る。残酷な場面はないが、それを充分に想像させるので、かなり怖い。

 ちなみに、ギロチンは1792年にフランスで正式に処刑道具として認められたのだそうで、それまでのものより苦痛を少なくする処刑方法として外科医が考えたものだそうだ。フランスでは1981年まで使われていたという。それにもビックリ。

 公開2週目の初回、銀座の劇場は当日券との引き換えが必要なのに、初回のみ全席自由。45分前くらいに当日券と引き換えたときは1人くらいしかいなかったのに、スタバでコーヒーを買って10分後くらいにもどると25人くらいに増えていた。あれれ。ほとんどは中高年で、白髪が目立つ感じ。20〜30代は1割くらい。男女比は半々というところ。

 30分前にエレベーターが動き出し、10人位ずつ上の劇場へ。ここはスタジアム形式の座席なので、だいたいどこに座ってもスクリーンは見やすいが、やや後ろのほうが楽。スクリーンはビスタ・サイズで開いていて、15分前から案内が上映された。最終的には224席の8〜8.5割くらいが埋まった。すごい。中高年の興味は高いようだ。

 予告&CMでまだ「ぴあ席」のCMをやっていたが、全席指定の劇場が増える中、ぴあ席の意味があるんだろうか。その前から疑問だったけど。予告では「クラッシュ」がかなり重いが、面白そうだった。それと予告だけでため息のビル・マーレー主演「ブロークン・フラワーズ」、同性愛を描いたフランス映画「ぼくを葬る」……うーん、暗い。それにしても、映画界はどこも同性愛ものが多い気がする。なぜなんだろう。いままでタブーだったことが語られるようになってきたということか、単なる流行りか。シモーヌ・シニョレ(すでに亡くなっている)だかジャンヌ・モローだかかわらない年老いた女優も出ていたが、何の映画だったか。画質も悪かったし、最近はタイトルがわからない予告が多い。

 上映直前、ストンプのダンスによるドルビー・デジタルのデモあり。


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