2006年2月5日(日)「ミュンヘン」

MUNICH・2005・米・2時間44分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35)/ドルビーデジタル、dts、SDDS(IMDbではドルビーデジタルEX、dts-ES、SDDS)

(米R指定、日PG-12指定)

http://munich.jp/
(全国の劇場案内もあり。入ったら音に注意。重い)

1972年9月5日、ミュンヘン・オリンピック開催中の選手村にパレスチナ・ゲリラ“黒い九月”が浸入、イスラエル選手、コーチ、大会役員11人が人質となり、最終的に人質全員が死亡。犯人の半分も射殺されたが、逮捕された半分はその後に起きたハイジャック事件で人質と交換に釈放されてしまう。イスラエル政府はパレスチナの訓練キャップを爆撃、さらに事件の首謀者を極秘裏に暗殺する命令を下す。選ばれたのはイスラエル諜報機関“モサド”のメンバー、アヴナー(エリック・バナ)をリーダーとする5人だった。

74点

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 うーん、落ち込んだ。暗い気持ちになり、しかも気持ち悪くなった。終のない憎しみと絶望。暴力の連鎖……。国も、民俗も、宗教も、言葉も違うから考え方も当然違い、なかなか日本人には理解しにくいことだと思うが、もはや話し合いでなど解決できないところに至っているイスラエルとパレスチナの問題。この絶望感に観客は打ちのめされる。

 間違いなく素晴らしく良くできた映画だと思うが、決して楽しいものではなく、希望があるわけでもなく、深い悲しみと絶望感があるだけ。勇者もないし、勝利もない。この物語をお金を払って見るということは、……事件の後日談のある側面を知ることはできるということだろう。使われている音楽も暗く沈んだものばかり。聞いているだけで陰気になってしまう気がする。

 とにかく、観客自身が暗殺者になったかのような錯覚に陥る。主人公たちと一緒に行動し、ひとりひとりターゲットを殺していくような気がするのだ。だから、主人公が感じる罪悪感の一部を観客もまた味わう。もちろん、その辺がこの映画の狙いなのだろう。だから、追う立場から追われる立場になったときが、前以上に恐ろしい。口封事のために見方からも狙われるかもしれないのだ。しかも、殺しても、また誰かもっと残忍なヤツが後任に就くだけ。本当に殺す必要があるのかと悩む。その意味で、この映画は成功しているし、恐ろしく良くできている。ただ、気持ち悪くなり、絶望を味わう。

 しかもリアルだ。事実に基づいているわけだが、作り事っぽくない。爆弾の爆発力をうまくコントロールできずに、大きすぎて巻き添えを出しそうになったり、少なくて殺せず病院送りにしてしまうなど、こまかな設定もリアル。マイケル・ベイに代表されるようなハリウッド的な派手さは押さえられていて、「プライベート・ライアン」的な生々しさ、恐ろしさが貫かれている。

 銃で言えば、ミュンヘンの選手村襲撃でアラブ・ゲリラが使うAK47Sは、本当にまがまがしい銃声が付けられている。この恐ろしさ。それは銃そのものというより、持っている人間が本当に躊躇なく引き金を引くつもりだという恐ろしさ。弾着も、破片が刺さりそうなほど激しく、攻撃的だ。

 イスラエルの諜報機関モサドさえも知らないことになっている作戦だから、イスラエルの軍隊もほとんど出てこないのだが、レバノンのベイルートでの作戦ではモサドと陸軍とも協力する。イスラエルの部隊はサイレンサーへの付いたUZIやM16A1を装備している。そして、そのサイレンサーの音が大きめで鋭く、まがまがしくてまたリアルなのだ。TVのような「ブシュ」では、ウソだし、まったく緊張感がでなかっただろう。

 意外なことに、主人公たちはベレッタのオートマチックを使っている。M92の前身であるM1951のように見えたが、空薬莢が.22LRだったということは(劇中、威力が無くて何発か撃ち込むシーンがある)、M70とかM71か。

 中国・上海にある日本領事館員も引っかかったというハニー・トラップ(スパイ用語らしい)を仕掛ける女殺し屋を暗殺するシーンでは、自転車に備え付けの空気入れに偽装した改造銃が登場する。これも.22LRらしく、至近距離で撃ち込んでも即死しないので、あわてて次弾を詰めるところがまたリアルだった。この銃、やはり実際のスパイ活動を描いた「スパイ・バウンド」(Agents Secrets・2004・仏ほか)で出てきたもの(あちらはショットガンだったが)と同じ。ということは、実際のスパイの世界では結構、普及しているものなのだろう。空気入れを付けた自転車には気をつけろということか。

 監督はいうまでもなくスティーヴン・スピルバーグ。脚本は、未見だがTVムービーの「エンジェルス・イン・アメリカ」(2004)のトニー・クシュナーと、「フォレスト・ガンプ/一期一会」(Forrest Gump・1994・米)と「インサイダー」(The Insider・1999・米)で二度アカデミー脚色賞にノミネートされ、「フォレスト……」で見事受賞したエリック・ロス。エリックロスは他にも「アポロ13」(Apollo 13・1995・米)、「ポストマン」(The Postman・1997・米)、「モンタナの風に抱かれて」(The Horse Whisperer・1998・米)、「ALI アリ」(ALI・2001・米)など、話題作ばかり手がけている名職人。本作は生まれるべくして生まれたのかもしれない。

 配役も豪華。主役のアヴナーに「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)で特殊部隊兵士を演じたエリック・バナ。車両スペシャリストのスティーヴに、次期ボンド役に決まったダニエル・クレイグ。始末屋カールに、ちょっとケヴィン・コスナー似で「トゥームレイダース2」(Lara Croft Tomb Raider: The Cradle of Life・2003・米)のキアラン(シアランとも)・ハインズ。爆弾屋のロバートに「ゴシカ」(Gothika・2003・米)の監督でもある「アメリ」(Amelie・2001・仏)の恋人役マチュー(マシューとも)・カソヴィッツ。文書偽造屋ハンスに未見だが「太陽の雫」(Sunshine・1999・豪ほか)のハンス・ジシュラー。モサドの上司、エフライムに「シャイン」(Shine・1995・豪)の名優ジェフリー・ラッシュ。そして、実に色っぽい女殺し屋を演じて印象に残るのは、たいくつだった「NOTHING」(Nothing・2003・加)でお金目当てのガール・フレンドを演じたマリー=ジョゼ・クローズ。本作ではフル・ヌードで魅力をまき散らしている。そして、死に方がまた印象的。胸と喉に2発、たぶん.22口径を撃ち込まれるのだが、ブチっと穴ができるだけで、最初は何も無かったかのように立ち上がって歩いていく。イスに倒れ込むと穴からどす黒い血が溢れてきて、ゴボコボいう。おお、気持ちワル……そこへもう1人が現われて頭に1発とどめを撃つ。この恐ろしさ。夢に見そうなくらい印象に残った、というか忘れられない。怖い。

 それにしても、ミュンヘン事件自体はあまり描かず、その後日談をメインに撮っているのに、なぜ「ミュンヘン」なのだろう。ボクはついミュンヘンの事件を詳細に描いたものだと思ってしまった。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は早朝9時からの回も全席指定で、前日に座席を確保しておいたので30分前くらいに劇場へ。エレベーターは動いていて、みなエレベーター前のホールで待っていた。25分前に開場して場内へ。右の列の中央くらいに3列ピンクのカバーがかかったレディース・シートがある。

 朝早いせいか、飲み食いする人が多い。寒いからコーヒーを飲む人も多い。本物のコーヒーだが、もうちょっとうまいと、スタバで買ってくることもないんだけどなあ。

 スクリーンはビスタで開いており、15分前から劇場案内が上映された。座席は平面図みたいなもので選んだので、ちょっと前過ぎた。あと2〜3列後ろでも良かった。最終的には540席に4.5割ほどの入り。ほとんど中高年で、20〜30代は1割くらいか。男女比は6対4で男性が多い感じ。

 予告&CMで日本アカデミー賞をやっていたが、ボクはまったく興味なし。実際のところ、どうなんだろう。一般の人は興味あるンだろうか。キーラ・ナイトレイとエイドリアン・ブロディ共演の「ジャケット」は面白そう。しかし劇場版の予告より公式サイトの予告を見た方がわかりやすい。1997年に死んだ男が2007年に目覚め、自分の死因を探るらしい。「子ぎつねヘレン」は予告編だけでダメ。涙が出そうになる。そして、内容は良くわからないが「DEATH NOTE」の前編が6月、後編が10月に公開されるという。気になったので調べたら、週刊少年ジャンプに連載の漫画らしい。これを「ガメラ」の金子修介監督が藤原竜也で実写で撮るらしい。とりあえず興味ありと。韓国映画の「デュエリスト」というなんだかリドリー・スコット映画のような作品も、内容が良くわからなかったが、面白そうだった。それから上下にマスクが入って「ダイヤモンド・イン・パラダイス」の予告。これは見たい。

 さらに、スクリーンがシネスコ・サイズになってから「ナルニア物語」と「サウンド・オブ・サンダー」の予告も。迫力があって、いかにも面白そう。

 久々にプログラムを買ったが、でかい。B4くらいあってバッグに入らない。内容は充実していて、700円は妥当なところか。


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