2006年2月12日(日)「ジャーヘッド」

JARHEAD・2005・米・2時間03分

日本語字幕:丸ゴシック体下、菊地浩司/シネスコ・サイズ(IMDbではマスク、Super 35)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R-15指定)

http://www.jarhead.jp/top2.html
(全国の劇場案内もあり。入ったら音に注意)

アンソニー・スオフォード(ジェイク・ギレンホール)は18歳で海兵隊に志願。過酷な訓練を経て1989年にペンドルトン基地のG中隊第2小隊に配属される。ある日サイクス三等曹長(ジェイミー・フォックス)が現われ、60名の中から8名だけ選ばれる斥候狙撃隊STAの候補になったことを知らされる。射撃で抜群の成績を上げたスオフォードは、みごと8名に残り、1990年、サウジアラビアに派遣されることになる。

72点

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 ほとんど敵が出てこない戦争映画。訓練に明け暮れる単調な日々。若い兵士たちはバカなことをやってその退屈な日々を過ごしていく……。それが湾岸戦争のある側面だったことは確からしい。そしてそれを忠実に映画化すると、どうなるか。……退屈な映画が出来上がる。少なくともボクにとっては。ファックって言葉はあまるほど溢れているけど。

 地上攻撃機などによる近代的な大量破壊兵器の使用がほとんどで、歩兵にはあまり出番がない。むしろ味方の誤爆を受けたりして危険な目には遭うが、めったに敵と直接交戦することなく、殺戮跡地を通過しながら、目的地へ着いてみると戦争は終わっている。これが現代戦なんだということなのだろう。

 それでも軍隊は、兵士が軍からライフルを借り、倉庫に返すまでの間、若者たちを殺戮マシーンに仕立て、人格を変えてしまうということなどを強く訴えては来るが、湾岸戦争がそれほど身近ではない日本人にとっていまひとつピンと来ない映画だと思う。みんなで「地獄の黙示録」(Apocalypse Now・)〈ワーグナーの「ワルキューレの騎行」に乗せてのヘリコプターによる襲撃シーン〉を見て盛り上がるところや、TVゲームのシューティングで盛り上がるのは、気持ちはわかるがなかなか怖い。

 スタンリー・キューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」(Full Metal Jacket・1987・米)以降、人格を破壊してしまうような過酷な殺人マシーン化訓練と鬼教官は描かざるを得なくなってしまった。実際そうなんだろうが、もはやパターン化してしまった感じがする。新しいのは、訓練中にビビッた兵士がヘマをやって死亡してしまうことだろうか。

 戦場では、青春グラフィティ調なところもあって、どこか「M*A*S*Hマッシュ」(MASH・1970・米)とか「キャッチ22」(CATCH 22・1970・米)のような狂気的なところもある。ここにも新しさは見られない。ただ戦場が現代のサウジアラビアの砂漠だというだけ。

 象徴的なのは、「遠い空の向こうに」(October Sky・1999・米)で泣かせてくれたジェイク・ギレンホール演じるスナイパーのスオフォードと、「フライトプラン」(Flightplan・2005・米)のピーター・サースガード演じるスポッターのアレン・トロイが、普段使っているM16A2ライフルとは別にM40A1ボルト・アクション・スナイパー・ライフルを持っていって、空港の建物にいる将校を狙撃しに行くシーン。距離は820m。西の風3m。BDCとウィンデージを調整し、トリガーに指を掛ける。そして……現代戦とはこうなのだ。どうなのかは見てのお楽しみとしておこう。

 ちなみに「遠い空の向こうに」で、ジェイク・ギレンホールのガンコな父親役を演じたクリス・クーパーが、斥候狙撃隊STAのボス、カジンスキー中佐を演じている。また、人気TV「24」のデビッド・パーマー大統領役で人気となったデニス・ヘイスバートが、その下のリンカーン少佐として登場する。

 砂漠なので、ライフルは到着してすぐ砂埃まみれになってしまう。そして、砂漠は遮蔽物が少なく遠くまで見渡せる。そんな状況なのでアメリカ軍の主力ライフルであるM16A2も見直しが行われている。遠距離射撃が効くように口径を5.56mmから6.8mmくらいに上げ、砂ぼこりの中でも作動不良が起こりにくいオーソドックスなガス・ピストン作動方式を採用することが検討されているという。それがこの映画を見ているとよくわかる。

 やりきれないのは、帰国してから。これもまた兵士が受け入れなければならない現実なのだろう。あまりにツライ。

 気になったのは、女性兵士が1人も出てこなかったこと。イラクの捕虜虐待が話題になったとき、女性兵士もいたし、ジェシカ・リンチという救出劇で一躍有名になった女性兵士もいた。湾岸戦争でだって女性兵士はいたはずだ。本作では、女性は夫や彼氏を送り出した後に裏切り“恥知らずの壁”に貼り出される存在でしかない。

 監督は「アメリカン・ビューティ」(American Beauty・1999・米)で劇場映画監督デビューしたサム・メンデス。ボクはその後の「ロード・トゥ・パーディション」(Road to Perdition・2002・米)もあまり好きではないなあ。どれも暗い。希望もない。やるせない。奥さんはケイト「タイタニック」ウィンスレット。

 公開2日目の初回、50分前に着いたら新宿の劇場には誰もいなかった。40分前になって前売りの列に3人並び、30分前くらいに4人になり、当日券に5人ほど並んだ。全員男性で、若い人は3人ほど。あとはみな中年。

 間もなく開場し、場内へ。初回のみ全席自由。12席×2列のカバーがかかった席もOK。最終的には1,044席に60人ほどになっただろうか。これはさみしい。でも内容が内容だからしようがないか。女性は4〜5人くらい。

 予告で印象に残ったのは、「ダ・ビンチ・コード」が新しい映像付きになっていたこと。なかなか面白そう「県庁の星」も新予告になっていたが、内容はやはりわかりにくくなったような。「イーオン・フラックス」はお子様でも楽しめるというSFアクションだろうが、ちょっと期待。トム・クルーズの「M:i-3」はなかなかカッコいいが、内容はさっぱりわからなかった。でも見たい。

 そうそう、ジャーヘッドというのは、海兵隊のヘアーカットがジャー(広口ビン)みたいに見えることから、海兵隊員のことをそう呼ぶらしい。


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