2006年2月26日(日)「県庁の星」

2005・東宝/フジテレビジョン/アイ・エヌ・ピー/博報堂DYメディアパートナーズ/S・D・P/小学館・2時間11分

ビスタ・サイズ(ARRI、1.66上映)/ドルビーデジタル

(スイス12指定)

http://kaikaku-movie.jp/
(全国劇場案内もあり)

県庁に勤めるエリート野村聡(織田裕二)は、海岸沿いに200億円の予算で特別養護老人施設を建設するプロジェクトを推進していたが、県の方針で民間交流を図ることになり、抽選で決まったスーパーの「満天堂」へ6ヶ月間出向することになる。しかしそこは客も少なく、閉鎖されそうなチェーンの支店。しかも野村の教育係を任されたのは、長年パートをやっている年下の二宮あき(柴咲コウ)。官僚主義が染みついた書類第一の野村とことごとく対立する。

74点

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 面白い。だいたい予想通りに展開する「官僚vs民間」の対立物語で、落ち着くところもだいたい予想がつくが、その過程の見せ方がうまい。そして完全なハッピー・エンドではなく、ちょっとほろ苦いところが、ファンタジーではあってもリアル。

 ただ、出演者は豪華だが、話としては映画よりTV向きのネタのような気がするのが残念。たぶん、13回くらいの連続物でじっくり描いたら面白いシリーズになるのではないだろうか。それに、こういうネタはできるだけ多くの人に見て欲しい気がするし。ラストも続編ができそうな、課題を残した感じの終わり方だったし……まさか、TVかするためのテスト版ってことは……ないだろうけど。

 原作はOLから作家になったという桂望実の同名小説。公式サイトによれば、発行部数は20万部だそうで、大ヒット作だ。原作は未読だが、映画では主人公の野村が県庁にもどってからも描かれているが、その部分はないらしい。

 さすがに、まったく育ちも環境も違う水と油のようなパートのベテランと、がちがちのエリート官僚を接近させるためには、いくらうまいエピソードを作っても短時間では無理だったようで、日本映画には珍しく2時間10分もある。ただ、面白いのでちょっと長いかなあくらいにしか感じないけれど。

 と言いつつ、強引なというかラッキーな展開もある。現実的に言えば、キャリアーの野村が誰からも必要とされないと感じたときに、うまい具合に消防の査察が入り改善命令が出るなんてことは、ないだろうなあと。何とか貢献したいと思っても、実力を発揮するチャンスがなくて時間切れとなり、嫌われたまま県庁へ戻るというのが実際じゃないかと。でも、ラッキーが起こりそうだと思わせてくれるところが、この映画のすごいところなのだ。そして、映画はそういうラッキーを描くべきなんだろうと思う。

 見事な脚本をかいたのは、三島由紀夫原作の「春の雪」(2005)の脚本や「いぬのえいが」(2004)の脚本と監督の佐藤信介。1970年生まれというから36歳という若さ。ボクはいずれも見ていないが、なんと「修羅雪姫」(2001)の脚本と監督を務めた人。「修羅雪姫」はスゴイ。当然、佐藤信介はアクション系の人だと思っていたのだが、本作を見ればドラマ作りもうまいことがわかる。また「修羅……」の場合は、ドニー・イェンがアクション監督を務めていたことが、アクションを強調する大きな要素だったのかもしれない。

 監督は西谷弘。「エンジン」とか「ラストクリスマス」などフジTVのドラマで活躍してきた人。その仕事が認められて(プロデューサーの1人がフジテレビの亀山千広)、本作で劇場映画の監督デビューとなったらしい。

 キャラクターとしては、柴咲コウ演じるパートの二宮と、和田聰宏演じる調理係がちょっとキツすぎるかなあと感じられた。ここまでキツイと、後半で主人公の野村と信頼関係を気付くのが難しく感じてしまい、後半の展開が信じられなくなってしまう。少しは良い人のところを見せてくれないとストーリーの流れを妨げるし、ステレオタイプでリアリティがなくなってしまうと思う。結果的に、失敗はしていないのだが。

 やはり、さすがというべきか織田裕二はうまい。官僚の戸惑う感じとか、微妙に人を上から見ているところとか、見事としか言いようがない。しかも、気付いてからの頑張りと爽やかさ。さすが「踊る大捜査線」。

 もちろん、超売れっ子の柴咲コウもいいし、先に上げた和田聰宏もいい。いやらしい政治家を演じた石坂浩二も抜群だし、パブリックなところでだけ良い人を演じるアナウンサー出身という設定の知事役、酒井和歌子も良い。チョイ役だが山口紗弥加もちゃんと存在感を出している。

 だが、彼らより目立っていたのは、独特の存在感で、微妙なおかしさを出していた2人。県庁での直属の上司役の矢島健一と、同期の同僚を演じた佐々木蔵之介。この2人の存在感はスゴイ。2人ともとても二枚目なのに、二枚目半役が実に良い。映画の筋に直接関係のないところで、いい味を加えているのだ。この2人がいるかいないかで、たぶん映画の印象は違ってくると思う。

 矢島健一は「アーペオス」のCMで知ったかぶりをして「アペオスは飛びますよね」とか言っていた人。思いっきり風見鶏的中間管理職役ですばらしい力を発揮する。以前は冷ややかな意地悪い上司的役が多かったように思うが、微妙なおかしさを加えた役のほうがピッタリの気がする。

 一方、佐々木蔵之介はビールのCMで困った驚きの演技が素晴らしい人。最初は彼女に移り気したのではないかと疑われ、最近はビール注ぎロボットに驚愕の表情を提供している。ねちねちしたところのない、爽やかな感じが、役にピッタリなのだ。いいなあ、この人。

 冒頭、特別養護老人施設建設予定地にCGで建物が出来る様子を描いたシーンは秀逸。カメラがヘリで回っているのに、ズレずにピタッとあっていたし、ちゃんと画面になじんでいた。素晴らしい。感心するところじゃないかもしれないけど。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は45分前に着いたら中年の夫婦が並んでいただけ。35分前くらいに20代くらいの男性3人が並び、6人に増えた。雨の日だったからか、30分前に開場し全席自由の場内へ。階段状のスタジアム形式の劇場なので、スクリーンは大変見やすい。この時点で15〜16人。女性は4〜5人。老若比は6対4くらいで、中高年がやや多いくらい。下は高校生くらいから、上は50代くらいまでという感じ。

 最終的には、406席の5.5割くらいが埋まった。やや女性が増えただろうか。

 予告は、メル・ギブソンの「パパラッチ」、ザ・ロックがラジー賞候補になったゲームの映画化「DOOM」というところか。「アローン・イン・ザ・ダーク」も映画化されるというし、ハリウッドはゲームばやりらしい。


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