2006年3月5日(日)「シリアナ」

SYRIANA・2005・米・2時間08分(IMDbでは126分)

日本語字幕:手書き書体下、菊地浩司/シネスコ・サイズ(ARRI、1.66上映)/ドルビーデジタル

(米R指定)

http://wwws.warnerbros.co.jp/syriana/


アメリカの巨大な石油会社コネックス社はペルシャ湾の天然ガスの採掘権を持っていたが、王の長男のシール(アレクサンダー・シディグ)はより高い値段で中国に売ってしまう。ちょうどその頃、アメリカのもう1つの石油会社キリーン社はカザフスタンの石油採掘権を手に入れた。両社はそれにより合併しようとしたが、そこへ司法省とともに大きな権力を持つ法律事務所スローン・ホワイティングが、アメリカのためになるのか、不正は行われていないか調べるために調査に入る。

73点

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 わかりにくい。特に前半はそれぞれの話が別々に起こっていて、関連性が全く見えてこないので、注意も散漫となり集中できない。誰の話として見ていいのか戸惑う。後半に入って、やっと登場人物の関係がわかってきて面白くなってくるのだが、それまではツライ。何度か気を失った。そして、途中から暗い気持ちになり、だんだん重くなって、落ち込んだ。

 元本物のCIAエージェントが書いたという実話の原作(「CIAは何をしていた?」新潮文庫)があり、それを基にして本作は作られたらしい。9.11の根底にあるもの、自爆テロに走る人々、スパイ活動、暗殺、裏切り、切り捨て……この映画のキャッチは「地球は陰謀でできている」だ。よくこういう映画が作れたものだと思う。そこがアメリカの懐の深さでもあるわけだが。

 ほとんど、まともな人は登場しない。せいぜい王の長男とアナリストくらい。あとは皆なにかを企んでいるか、そういう人に動かされている。昨日までアメリカが支援していた国が、突然、敵になってしまう不思議は、この映画を見ると良くわかる。また自分の命を差し出して自爆テロに走る理由も良くわかる。たぶん、これが真実の姿に近いのだろう。人の弱みにつけ込んで、自分の思うように人を操る悪い奴がいる。この恐怖。こんな人ばかりでは、人を見たら泥棒と思えと子供に教えなければならない。そして「クラッシュ」(Crash・2004・米/独)になってしまう。

 この映画で腹立たしいのは、おおもとの問題を作っている奴らは金儲けしか考えていないことだ。それによって動かされる人たちは、国のためだったり、正義のためと信じて命を危険にさらしている。軍事供与した武器が、まわりまわって自分たちに向けられる。この矛盾。すべてアメリカ国民の税金で行われていることだ。日本人には想像できないほどアメリカ人にはショッキングな映画だったのではないだろうか。

 意外だったのは、マット・デイモン演じるエネルギー・アナリストの妻を演じていたアマンド・ピート。「隣のヒットマン」(The Whole Nine Yards・2000・米)でヒットマンに憧れる女の子を演じていた人。アクション・コメディ系の人かと思ったら、こんなシリアスな役もやるんだ。

 最近も良く映画に出ているので、往年の名優というと失礼かもしれないが、クリストファー・プラマーもちょっと意外。腹芸の得意そうな、いかにも腹黒い感じが良く出ていた。ボクなんかは「サウンド・オブ・ミュージック」(The Sound of Music・1964・米)のおとうさん、フォン・トラップ大佐を真っ先に思い出してしまう。でも結構、悪役が多かったりする。

 石油会社の重役を演じたクリス・クーパーは、もともと悪役が多い人なので、違和感なし。「遠い空の向こうに」(October Sky・1999・米)の頑固なお父さん役が印象的だったが、こんな感じの役をやらせるとホントうまい。

 よくわからなかったのは、ウィリアム・ハートが演じていた役。印象に残っていないくらいなので、あまりストーリーに関係なかったのではないかと思うが、そんな役にわざわざウィリアム・ハートを使うのもおかしいし……。

 脚本も手がけ監督も務めたのがスティーブン・ギャガン。トム・クルーズが惚れて有名になったケイティ・ホームズを意識して脚本を書き監督したという「ケイティ」(Abandon・2002・米)はボクには退屈なだけの映画だった。特に前半がたらたらしていて、何のヒネリもない展開。本作とどこか通じるものがあるような気がする。ほかに手がけた作品を挙げると、記録映画のようだった「アラモ」(The Alamo・2004・米)の脚本、なかなか面白かった法廷劇「英雄の条件」(Rules of Engagement・2000・米)の脚本、ボクには退屈だったアカデミー賞受賞作品「トラフィック」(Traffic・2000・米)の脚本、うーん……という続編「ラスト・サマー2」(I Still Know What You Did Last Summer・1998・米)の脚本……などなど。その前はTVの「ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル」の脚本を手がけていたらしい。ボクにはよくわからないが、あまり好きではないかもしれない。

 ちなみに「シリアナ」とはイラン、イラク、シリアがひとつの国家となった場合の仮想国名だそう。中東問題に詳しい人なら誰でも知っている言葉だとかで、一部にはそれを知っている人を対象とした映画だという意見もある。しかし、それならばアート系のミニ・シアターでの公開だろう。実際には大きな劇場で公開されているので、そういう人たちは狙っていないと思うけど……。

 公開2日目の2回目、銀座の劇場は50分前に着いたらロビーにオヤジ6人、オバサン1人。40分前くらいになったら20代くらいの人が3人くらい来て、さらにワーナー・ブラザーズの人が来てアンケートを渡された。30分前くらいから増え出して、ロビーが一杯になってきた。排気システムの付いたしかっりとした喫煙スペースがあるので、タバコを吸っている人がいても煙くないのは助かる。

 前回終了の10分前に案内があって、列が作られた。たぶんこの時点で30〜40人くらい。15分前に入れ替えになった。場内は指定席なしで、だいたいどこに座っても見やすいので慌てず席を選ぶ。

 作品の傾向から言って、中高年が多いのは当然だろう。男女比は6対4くらいで男性が多い。年齢に関係なくアベックも多くなった。最終的には360席の5割くらいが埋まった。テーマの重さの割には入っているけれど、アカデミー賞にノミネートされていることを考えると少ないか。みなさんの選択の基準は何なんたろう。アンケートの結果が知りたい。

 予告はビスタに上下マスクが入ってジェット・リーと中村獅童の「スピリット」、「タイフーン」、3D-CGの「森のリトル・ギャング」……特に気になったのは快作の続編「トランスポーター2」と、久々のハリソン・フォード主演作「ファイヤー・ウォール」の2本かな。どちらも上下マスクが入ってのシネスコ・サイズ予告。上映前にはJBLスピーカーとドルビー・デジタルの宇宙版のデモあり。


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