2006年3月11日(土)「イーオン・フラックス」

AEON FLUX・2005・米・1時間36分(IMDbでは93分)

日本語字幕:手書き書体下、林 完治/シネスコ・サイズ(マスク、ARRI)/ドルビー、dts

(米PG13指定)

http://www.aeonflux.jp/
(入ったら画面極大化。音に注意。全国の劇場案内もあり)

2011年、あるウィルスによって人類の99%が死滅した。そしてトレバー・グッドチャイルドが開発したワクチンにより500万人の人類が生き残り、彼らは外界と隔絶されたプレーニャと呼ばれる都市で暮らしていた。やがてプレーニャはグッドチャイルド家の独裁により支配され、訳もわからず抹殺される者もいた。2415年、反政府組織“モニカン”の戦士イーオン・フラックス(シャーリーズ・セロン)は、モニカンと関係のない妹が政府機関に殺されたことから復讐を誓う。

71点

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 うーん……なんだろう。悪くはないが、さほど良くもない。SFとしての世界観は良くできていると思う。ただ具体的にそこで暮らす人々が描かれていないため、生活感がなく絵空事のような感じ。あえてそう演出したのかもしれないが、いまひとつノリ切れなかった。日本の要素(蛇の目傘?とか)や奇妙な自転車だけ入れても、「プレードランナー」(Blade Runner・1982・米/香)にはならない。

 たぶん最大の原因はシャーリーズ・セロンだろう。とても自ら望んで演じているように見えないのだ。実際には4ヶ月も掛けて肉体的なトレーニングを積み、撮影に臨んでいるのだが、この作品の前に自らプロデューサーを務めた「モンスター」(Monster・2003・米、独)や「スタンドアップ」(North Country・2005・米)というドラマをかなり入れ込んで撮っているので、アクションとかSFよりそういうものを望んでいるんじゃないの、と思えてしまうのだ。その観客の(少なくともボクの)思い込みがある分、割り引いて見てしまうのかもしれない。

 実際には、公式サイトのプロダクション・ノートなどを読むと、シャーリーズ・セロン自身の言葉として「肉体的側面は、台詞よりはるかに重要なことがある」と述べていることから、観客の勝手な思い込みのようなのだが。それにしても、さすが大スター、わかっていらっしゃる。日本の女優の中にはアクションができないのにアクションを下に見ている人もいるのだから、爪の垢でも飲ませてやりたいほど。

 原作があって、1990年代にアメリカMTVの深夜に放送されたリキッドTVの同名SFアニメーションがそうなんだとか。日本では放送されなかったらしい。クリエーターは韓国系アメリカ人のピーター・チョンという人。「アニマトリックス」(The Animatrix・2003・米)の中の「マトリキュレーテッド」の監督や脚本を手がけた人。セクシーも売りだったらしく、実写版でも意味の良くわからないセクシー衣装がいくつも登場する。そういうことだったのか。ただ、アニメで受けた作品が、そのまま実写にして受けるとは限らないのではないだろうか。

 そして、アクション・シーンを細かく割りすぎていて、何がどうなっているのかよくわからない。アクションの流れというものが全く見えないのだ。ひょっとして、これは女優たちの動きが悪くて、カット割ってスピード感とか緊張感を出しているということだろうか。アクションものなのに、これはツライ。

 実写版の監督は、ミシェル・ロドリゲスが主役を演じて注目されることになった女性ボクター物語の「ガールファイト」(Girlfight・2000・米)の監督・脚本を手がけたカリン・クサマという女性。女性が主人公という以外、あまり関連性はないようだが、なぜこの人だったんだろう。「ガール……」はもろに生活感丸出しの映画で、SFとは対極くらいにあった作品なのに。ただひとつ、肉親の骨肉の争いという部分は似ていなくもないか……。

 敵のボスを演じているのは、ちょっとケビン・スペーシーとラッセル・クロウを足して2で割ったようなニュージーランド出身俳優マートン・ソーカスという人。「トリプルX」(xXx・2002・米/チェコ)で悪の親玉を演じていた人。「ロード・オブ・ザ・リング」とか、「キングダム・オブ・ヘブン」とか、結構いろんな作品に出ている。

 その弟を演じたのは、つい最近「マインドハンター」(Mindhuter・2004・米ほか)に出ていた「プランケット&マクレーン」(Plunkett & Macleane・1999・英/チェコ)のジョニー・リー・ミラー。二枚目なのに悪役定着だろうか。

 イーオンの美しい妹を演じたのは、ロンドン生まれの24歳、アメリア・ワーナーという人。本作がメジャー作品の最初ということになるのかな。ちょっと注目してみたい。

 イーオンの相棒のシサンドラを演じたのはソフィー・オコネドーという、これまたロンドン生まれの美女で、見ていないのだが「ホテル・ルワンダ」(Hotel Rwanda・2004・米)でドン・チードルの奥さんを演じているらしい。

 プロデューサーの1人が、「ターミネーター」シリーズのゲイル・アン・ハード。近作は「パニッシャー」(The Punisher・2004・米/独)を手がけているが、やはり今ひとつな感じが……。

 撮影の多くがバウハウス様式の建物があるドイツで行われており、おそらく通常のプロップ・ガンを持ち出せなかったのだろう。銃はSFチックなデザインだが、内部に実銃は使われていないようだ。薬莢も飛んでいなかったようだが、スライドなどは動いてマズル・フラッシュが出ていたところを見ると、トイメガンのガス・ガンを使い、後からデジタル合成でマズル・フラッシュを重ねたのではないだろうか。拳銃タイプも長物タイプも、電着ということも考えられる。むしろ植物兵器(という設定)の方が面白かった。

 かろうじて塔の上からイーオンを援護するスナイパー3人が、AUGのカスタムを使っているが、これも実は電動ガンだったりして。

 衣装とともに、ヘア・スタイルも注目。確かシャーリーズ・セロンってブロンドだったと思うが、黒く染めて独特の形にしている。衣装デザインはベアトリス・アルナ・パストール、メイクとヘアーはアニタ・プローリーという人。

 人類の支配者の名前がゴッドチャイルドだったが、これは神の子というストレートな解釈と、ロスチャイルドのもじりではないかというひねくれた解釈もあるかも。ロスチャイルドはもともとドイツのユダヤ人ゲットーから始まったことを考えると、ロケ地がドイツで……考え過ぎか。

 公開初日の初回、50分前に付いたら新宿の劇場はシャッターは開いていたが、誰も並んでいない。やはり「イーオン・フラックス」は日本では知られていないということと、シャーリーズ・セロンにアクションSFを期待していないということだろうか。

 30分前になってやっと6〜7人。いつもは当日券と前売り券の列を分けるのだが、今回はあまりに少ないので同じ列で、並ぶよう案内があった。

 20分前開場し、場内へ。この時点で15人くらいいただろうか。12席×2例の指定席も自由。中高年というより、高齢者が多い感じ。20代〜30歳くらいは男女それぞれ1人ずつ。あれれ。どうなっているなだろ。

 最終的には1,044席に4割ほどの入り。決して少なくはないがこの劇場だとがらがらのように見える。下は中学生くらいから。若い人もやや増えて、全体の1/4くらいに。女性も全体の1/4くらい。

 カーテンが左右に開き、CM開始。ビスタの上下にマスクが入って「日本沈没」、「トリック劇場版2」、上下マスクの「海猿ファイナル」などの予告。宮崎息子アニメの「ゲド戦記」は面白そう。キャラクターもなんだか宮崎父アニメと一緒の感じだが。

 「M:i:3」の予告は新バージョン。だんだん内容がわかるようになってきたが、まだまだ。でもあのテーマはカッコイイ。出すタイミング最高。


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