2006年3月12日(日)「ヒストリー・オブ・バイオレンス」

A HOSTORY OF VIORENCE・2005・米・1時間36分(IMDbでは126分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、風間綾平/ビスタ・サイズ(by Panavision)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R-15指定)

http://www.hov.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

アメリカ、インディアナ州の小さな田舎町に、強盗を働いた凶悪な男2人がやってきた。彼らは閉店したダイナーの“ストールズ”に入ってくると、終わったという言葉も聞かずコーヒーを注文し、ドアに鍵をかける。そして銃を抜いた。女性店員が撃たれそうになった瞬間、オーナーのトム・ストール(ヴィゴ・モーテンセン)はとっさに男の銃を奪うと2人とも射殺した。一躍町のヒーローとなったトムにTVや新聞などの取材が押しかけ、全米の有名人となってしまった。するとしばらくして、人相の良くない男たちが現われ、トムをジョーイと呼び、トムの過去に何かあるような思わせぶりな態度で帰っていく。心配になった妻エディ(マリア・ベロ)は夫に問いただすが……。

74点

1つ前へ一覧へ次へ
 予告編などからある程度予想はついていたはずだが、ものすごくショックな映画だった。展開は思っていた以上にとんでもないことになるし、暴力はこれまた想像以上にどぎつく、えげつない。ハッキリ言って気持ち悪くなるほど。ギリギリのセン。これ以上だったら耐えられないのではないかと思うほど。さすがは内蔵感覚の「ヴィデオドローム」(Videodrome・1982・加、米)や脳が爆発する「スキャナーズ」の(Scanners・1981・加)のデイヴィッド・クローネンバーグ監督。

 こまかく説明されていないが、この家族は高校生の息子と幼い妹がおり、息子は母親の連れ子で、下の子が2人の子供という感じ。妻は弁護士で、夫はダイナーのオーナーで従業員を2〜3人使っている。2人は愛しあっていて、はた目からも幸せそうな家族に見える。ただ、大人しい長男は学校で問題児2人らイジメを受けている、という設定。結婚5〜6年で、それ以前の夫の過去はよくわからない。映画はここからスタートして、夫の過去を徐々に暴いていく。

 普通のドラマでは、こういう状況になると、だいたい夫婦げんかとか、夫の過去に関わった人と現在の家族とのいさかいのようなものを描いていくのが定石。ところが、クローネンバーグ作品は違う。夫の過去がとんでもなく、常人を超える技術を持ち合わせていて、過去の敵と戦うのだ。ここから完全にアクション映画のパターン。しかも並のアクション物より緊張感があるし、うまい。そして夫は家族のもとに帰るが、決して安直な答えは用意していない。希望はあるようなエンディングだったが、ハッキリとは描かれていない。うーん。修復はかなりむずかしいのではないだろうか。心優しい保安官がいることが、ひとつの救いだが。

 とにかく構成が素晴らしい。残虐きわまりない悪党たちから始まって、よくある家庭ドラマで過激なアクションがサンドウィッチされている。スパイスはかなり強烈だ。なめてかかると、思いもしなかった衝撃に襲われる。

 一番怖かったのは、慣れていない妻が、普段は使わずクローゼットの奥にしまいこまれている水平2連ショットガンを出してきて弾を詰めるところ。明らかに悪人とおぼしき男たちが家に迫ってくる。弾は別にしまってあって、なかなか取り出せない。そして弾を詰めた後、妻が銃を暴発させてしまうのではないかと、気が気でない。2連発だから暴発させれば残弾は1発。それで大丈夫か。その不安。そして、実弾が入ったまま、引き金を引けばすぐに弾が出状態の銃がテーブルに置かれている恐怖。子供が不用意に触って暴発させてしまうかもしれない。この監督ならそういう演出をするだろう。その怖さ。ゾっとした。

 この映画の銃および銃撃シーンはすべて怖い。弾が飛び、肉をえぐるという実弾の恐ろしさが常にあるからだ。さすがクローネンバーグ監督。うまい。

 暗い過去を持つ主人公にヴィゴ・モーテンセン。昔のレニー・ハーリンの佳作「プリズン」(Prison・1988・米)とかから、結構悪役の多かった人だが、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズですっかりイメージが変わってしまったらしい。「オーシャン・オブ・ファイヤー」(Hidalgo・2004・米)では実在の人物を陽気に演じていた。体が動くので、アクション・シーンも説得力がある。本作でも、1対多数の戦いを見事に演じて見せている。

 弁護士というインテリの妻を演じたのは、つい最近「アサルト13 要塞警察」(Assault on Precinct 13・2005・米)で主人公ジェイクの精神科医を演じていた美女マリア・ベロ。TV「ER」で注目され映画へ進出。メル・ギブソンの「ペイバック」(Payback・1999・米)や、ノリノリ美女サクセス映画「コヨーテ・アグリー」(Coyote Ugly・2000・米)、がっかりだったジョニー・デップのミステリー「シークレット・ウィンドウ」(Secret Window・2004)などに出ていた。本作では全裸で(ボカシが入るが)熱演しているる。この後も出演作が何本も控えていて、注目の女優だ。

 長男を演じたアシュトン・ホームズは、まだ大きな役がないようだが、本作の演技はなかなか良かったのではないだろうか。10代の危うい感じが良く出ていた。2006年にはすでに3作が控えているということだから、人気が出そうだ。

 悪役はみな素晴らしい。冒頭のガバメントを持っているやせぎすの男は、スティーヴン・マクハティという人。カナダ生まれで、TVや日本未公開作での出演が多く、古くはユル・ブリンナーの「SF最後の巨人」(The Ultimate Warrior・1974・米)やチャールトン・ヘストンの「原子力潜水艦浮上せず」(Gray Lady Down・1978・米)などに出ている。しかしすごい面構えなので、とても印象に残る。怖いなあ。

 その相棒、S&WのM10ヘビー・バレルらしきリボルバーを持っているビリーを演じたのが、これまたカナダ生まれのグレッグ・ブリッタ。監督がカナダ生まれということもあるのだろう。これまでTVで活躍してきたようで、あまり日本では知られていないかも。しかし、いかにもその辺にいそうなチンピラという感じが素晴らしかった。

 顔に傷のある男カールを演じたエド・ハリスは、さすが4回もオスカーにノミネートされた名優うまい。ねちねちとまとわりつく感じがなんともリアル。ほかの手下たちがベレッタM92だったのに、1人だけたぶんツヤ消しの黒い不気味なP226。

 そしてボスが意外なキャスティングで驚かされた、ウィリアム・ハート。たぶん映画デビュー作のショッキングなSF「アルタード・ステーツ」(Altered States・1980・米)はすごかった。理知的な感じの人なので、本作ではあごひげを生やし髪を短くしてマフィアっぽくしている。暴力的に見えない人が暴力を振るうことで、逆な恐ろしさを出していた。羊の皮をかぶった狼、といった感じ。彼はスライドだけ銀色にめっきされたベレッタM92を使っている。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は35分くらい前に着いたら、12〜13人の列。なぜかいつもと違う方向に並んでいる。多いのは中高年の男性で、20〜30歳くらいは5人ほど。女性は若い人1人にオバサン1人。

 30分前に案内があって、逆に並べとの指示。やっぱりね。もっと早くにチェックに来てくれれば良かったのに。すでに20人くらいの列。まもなく窓口が開き、当日券に換えてエレベーターで上へ。しかしまだ開場しておらず、ロビーに並ぶ。案内がないのでそのまま1列で並び、列はどんどんのびてエスカレーターの上がったところまで達した。いいのかなあと思っていると、20分前にようやく開場。初回のみ全席自由だが、それ以降全席指定なのかは不明。いずれにしても前売り券と当日券の交換は必要。この時点では40〜50人。

 最終的に435席の半分程が埋まった。スクリーンは高めで、イスが千鳥配列なので、だいたいどの席からでもスクリーンは見やすい。

 予告編はビスタの上下にマスクが入って、ジョニー・デップの「リバティーン」という中世物。そして公開中の「コルシカン・ファイル」。コメディなのに、シリアナもののような雰囲気で予告していた。「花田少年史 幽霊とトンネル」は面白そうだが、子供向けの映画か。「ジャケット」はニュー・バージョンなのか、ちょっと長め。「レント」は、1年が525,600分で、あなたはそれをどう数えるかと歌う曲が抜群。心に刺さる。ただ、これがあまりに強烈で、もう映画を見たかのような雰囲気。お腹いっぱいかも。ドラマはつらくて悲しそうだし……。


1つ前へ一覧へ次へ