2006年3月25日(土)「大統領のカウントダウン」

LICHNYY NOMER・2004・露・1時間51分

日本語字幕:手書き書体下、風間綾平/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル



http://www.count-down.jp/
(音に注意)

モスクワのサーカス場がチェチェン・ゲリラによって占拠された。人質は2,000人、その半分は幼い子供たちだった。ロシア連邦保安局(FSB)特殊部隊の隊長スモーリン少佐(アレクセイ・マカロフ)は、自分の娘が人質になっていることを知り、サーカス場に潜入する。実際にはテロリストにはアラブ・ゲリラが混じっており、チェチェン・ゲリラとは別の目的で行動していた。

71点

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 実話にインスピレーションを得て作られたという作品。ただし、公式サイトによると、それは映画の冒頭部分にあたる、チェチェン・ゲリラに捕らえられてウソの証言をさせられ、その後脱出して真実を明らかにしたというところまでだとか。

 ロシア軍が協力したというのはすごいのだが、全体の構成というか演出にメリハリがあまり感じられなかった。なんか一本調子な感じ。せっかくストーリーは二転三転して面白いのに、どこかリズムが良くなく、カッコ良さが足りない。アクションでそれはいけないと思うなあ。悪くはないのだが、惜しいところでAクラスになるのを逃している感じ。

 ただし、話はわかりにくい。そんなに複雑な話ではないのに、演出の問題なのか、編集の問題なのか、あるいは安っぽく見せないための狙いなのか、わかりにくい。そのため、冒頭にオリジナルにはない日本版独自らしい説明文が出る。必要あったのかなあ。これがあっても、結局はわかりにくいのだから。

 ストーリーの構成やヒネリの利いた展開も面白い。女性が少ないのはロシアらしいところかもしれないが、アラブの使い方もうまい。ちょっと弱いのは、日本人的な感覚では主人公がパッとしないところか。精かんさやカリスマ性というか、リーダー・シップのようなものが感じられないのだ。演じているのはアレクセイ・マカロフという人で、どうやら「ロシアのブルース・ウィリス」と呼ばれているらしい。ただ、ロシア映画の日本での公開が少ないので、どうにも馴染がない。本人は本作のあとで、スーパー・ヒーローのイメージが定着するのが嫌だといったらしいが、ボクにはスーパー・ヒーローに見えなかった。逆に、もう少しスーパー・ヒーローに見えれば本作はウケるのではないだろうか。「ランボー3」みたいになってしまうと引かれると思うけど、人間的な範囲でヒーローでないとなあ。

 むしろいい味を出しているのは、巻き込まれて反発するチェチェンの大物の1人ウマルを演じたヴァチェラフ・ラズベガーエフという人。なんだか地方のヤクザみたいな雰囲気で、しかも義侠心がある感じがいい。

 また、驚くことに、アメリカの俳優ジョン・エイモスがNATOの将軍役で出演している。なんでも監督のエヴゲニー・ラヴレンティエフのたっての希望とか。「ダイ・ハード2」(Die Hard 2・1990・米)で敵の特殊部隊の隊長を演じていた人。ロシア映画にアメリカ人俳優が出るとは。

 その監督、エヴゲニー・ラヴレンティエフという人はTV出身で、劇場作品3本目で大予算の本作を監督したのだとか。

 撮影監督のスタニスラフ・ラドヴァンスキーという人はイギリス生まれで全米監督協会の会員だというし、スタント監督のヴィクトール・イワノフという人も「スピード2」(Speed 2: Cruise Controll・1997・米)とかハリウッド映画の仕事もしていると、国際的な構成になっているようだ。これからロシア映画もどんどん変わってくるのではないだろうか。

 ロシア軍全面協力のお陰か、戦闘ヘリコプターのMi-24ハインドや、装甲兵員輸送車のBTR-80、スホーイSu-27フランカーらしき戦闘機も登場する。アメリカの空母はたぶんフッテージ(ありもの素材、使えるようになっただけでも驚きだ)だろうし、F-16やF/A-18はどうも非常に良くできた3D-CGのようだ。ラストの緊急着陸するイリューシンIL76キャンディッド輸送機はCGではないようだったが、大型のミニチュアを使ったのか、とてもりあるだつた。まさか実機ということはないと思うが、いったいどうやって撮影したのだろう。1つの見どころではある。

 銃器はテロリストもロシア側も、ほとんどがAK74アサルト・ライフル。拳銃ではチェチェン・ゲリラがサイレンサー付きベレッタM92を使っていたようだが、主人公はたぶんマカロフにサイレンサーを付けていたと思う。そして、そのサイレンサーの音がリアル。ハリウッドのようにブシュとかではなく、ドカーンとかなり大きな音がするのだ。しかし他の銃のように轟音ではない。

 マズル・フラッシュもハリウッドのように火の玉になるのではなく、黒っぽいガスが噴出し、これまたリアル。一説には、ロシアには映画用の空包はないので、軍用の訓練弾などを使っているという話もある。弾着もかなりリアルで派手。爆発もど迫力だ。ハリウッドほど安全に配慮してないのではないかと心配になるほど。

 音響効果も素晴らしい。効果音がよくまわっている。しかもクリア。アフレコしたらしいセリフはいまいちだったが、音響効果は良い。

 画質もクォリティが高い。コントラストがはっきりして色がしっかりと載っている。青空もきれいだ。ロシアというのは撮影に向いた場所なんだろうか。なんだかまだ大戦前の古い機材で撮影していて、現像所も時代遅れのようなイメージがボクにはあったのだが、ハリウッド作品と比較してもまったく見劣りしない高画質だと思う。素晴らしい。絵に力がある。

 公開初日の初回、新宿の劇場は50分前に着いたら誰も並んでいなかった。先に「美しき野獣」のモーニング・ショーがあり劇場は開いていたが、劇場の外で待つ。15分前の開場予定とあった。

 35分前くらいからちらほらと人が来だして、15分前開場予定という文字を見て出直す人もいた。なにしろエレベーター前のスペースが狭いのだ。30分前くらいから徐々に増えだし、列ができてきた。

 25分前に前回の「美しき野獣」が終わり、老若混ざった女性たちがどっと出てきた。15分前に入場となって、指定席のない場内へ。この時点で並んでいたのは、20人位か。どうも関係者らしい集団がいて、並ぶ列の混乱の元になっていた。狭いからそちらも列のように見えてしまうのだ。エレベーターが着くたび劇場の係の人が何回も案内に出てきていたので、どうにかトラブルにはならなかった。それにしても関係者が多すぎるッちゅうの。何か配るわけでも、イベントがあるわけでもないのだから、10人ほども必要ないだろう。2人もいれば充分。1人でもいい。劇場や鑑賞の邪魔をしないで欲しい。

 最終的には209席の6.5割ほどが埋まった。なかなかの好成績ではないだろうか。驚いたことに、というか当たり前なのかもしれないが、ほとんどは中高年。かなり平均年齢は高い。ロシアのテロに興味があるのは、やはりこの年代か。女性は10人くらいいただろうか。20〜30代くらいも10人ほど。

 予告は「チェケラッチョ」の新バージョン、南海キャンディーズのシズちゃんの「フラガール」(それ以外は不明)、イライジャ・ウッドの「ボクの大事なコレクション」という、ユダヤとナチスとおじいちゃんの遺品という、なんだか郷愁を誘う作品。でも、一番印象に残ったのは、夏公開というタイ映画「心霊写真」。劇中で使用されている写真は本物なんだとか。とにかく怖い。予告だけでこれだけ怖いんだから、本編はどうなることやら。期待だ。


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