2006年4月9日(日)「タイフーン」

TAEPUNG・2005・韓・2時間04分(IMDbでは105分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、根本理恵/シネスコ・サイズ(マスク、Clairmont)/ドルビーデジタル

(韓15指定)

http://www.typhoon-movie.jp/
(入ったら音に注意。画面極大化。全国の劇場案内もあり)

アメリカ船籍の貨物船が海賊に襲われ、密かに積み込まれていた核ミサイルの衛星誘導装置が強奪される。中国がからむ問題だったため、アメリカも韓国政府も公式な介入はしないことになった。そこで、海軍特殊部隊のエリート、カン・セジョン(イ・ジョンジェ)を情報院に出向させ、非公式な任務に就かせることにする。調査の結果、海賊のボスがシンと呼ばれる本名チェ・ミョンシン(チャン・ドンゴン)であることが判明する。彼は幼いとき家族で脱北したが大韓民国に亡命を拒否され悲惨な人生を歩んでおり、その復讐のため、同様に強奪した核廃棄物を使って、南北朝鮮を汚染させようとしていた。

76点

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 くーっ、韓国映画らしい辛く悲しい物語。なんという運命。悲しすぎる。ちょっと涙が……。

 まるで実話なのではないかと思わせるリアリティ。本当にあってもおかしくない話。映画の中でも語られているが、1984年以前は韓国は中国を経由した脱北者の亡命を受け入れておらず、そのまま北へもどされていたという。もどされた者はどうなったのか。ときどきTVの特集番組でやっているが強制収容所はまだいいほうで、このように抹殺ということもあっただろう。

 しかし、ここまで悲惨な話でも、ちゃんとエンターテインメントに仕上げてあるところが韓国映画のすごいところ。追う側のドラマも、追われる側のドラマもちゃんと描きながら、見どころをたっぶり盛り込んで、クライマックスに向けて盛り上げていくのがうまい。最後には、特殊部隊が片道の燃料を積んだSH-60シーホークで海賊の船に攻撃を仕掛ける。まるで特攻隊だ。そして、1対1の決闘まで用意されている。それで大味かといえばそうではなく、実に細やかな作り。小さなドラマの積み重ねによる感情の揺さぶり方がうまい。すごいなあ。

 風船爆弾というアイディアは、中身は核廃棄物と新しいが、実は古い。旧日本軍が、第二次世界大戦のとき、ジェット気流を利用してアメリカ本土をこれで爆撃しようとしたことがある。あながち絵空事ではないのだ。

 やはり、うまいのはチャン・ドンゴン。もうこの人はわざわざ言うまでのこともないだろう。ただうまいのだ。

 この人と組むには相手もうまくなくてはつり合わない。たぶん他のキャストはプレッシャーだったことだろう。出番は短いが泣かせてくれるのは、生き別れになって今は娼婦に身をやつしている姉、チェ・ミュンジュ役のイ・ミヨン。高校生の時にミス・ロッテに選ばれたというだけあって、もちろん美形。それだけじゃなく説得力のある力強い演技が良い。あの怖かったホラー「女校怪談」(女校怪談・1998・韓)に主演していた人だった。サスペンス・アクションの「黒水仙」(黒水仙・2001・韓)でもヒロインで出ている。出演作は少ないようだが、まちがいなく実力のある女優さんだと思う。

 さらに、海賊シンを追いつめる海軍特殊部隊のエリート、カン・セジョンを演じるのはイ・ジョンジェ。いかにも真面目そうな人で、モデル出身だけにちょっとスマートすぎる体型はこの役にはマッチョさが足りない感じだが、表情に猛禽類的凄みを出し演技力でそれを補っていた。それに韓国の男性は徴兵制で軍隊経験があるので、みな銃の扱いがうまい。特殊部隊リエリートと言われればそう見えてしまう。なんとイ・ミヨンと「黒水仙」で共演していた。

 海賊の部下はみんなキャラが立っているが、中でもいい味を出しているのがトト。タイの役者さんで、資料がなくて正確な読み方がわからないが、チャタポン・パンタナンクル……という人。どこかで見たなあと思っていたら、「マッハ!」(Ong-bak・2003・タイ)に出ていた人だった。

 冒頭、アメリカの船の護衛が使うのはM4カービンのレール・システム付き。海賊が使う銃は、AKS47、後半ではドラグノフ、ワルサーP38、短いAK(AKS74Uか?)など、いろいろでいかにも寄せ集めの海賊という感じ。韓国の特殊部隊は定番のMP5。カン・セジョンは最初トカレフで、ガバメントのようなオートマチックに変わるが、なぜかスライドにセフティがついていた。なんなんだろう、あの銃は。

 弾着はどれも自然でリアル。うまい。しかも銃声が大きくて怖いのが良い。ハリウッド的な効果音とはだいぶ違う。やっぱりアクションはこうでなくっちゃ。

 監督・脚本は、あの感動アクション「友へ チング」(Chingu・2001・韓)のクァク・キョンテク。どうりでうまいわけだ。本作の構想自体は、「友へ チング」を撮っていたときからあったらしい。だからチャン・ドンゴンなんだ。

 公開2日目の2回目、新宿の劇場は30分前に着いたら、ロビーに3人くらいの人。15分前に終了し、案内もなかったので勝手に入る。全席自由で、この時点で20人くらい。中高年と若い女性という感じで、男女比は半々くらい。スクリーンは小さめで、音もアナログのようだが、床に傾斜があって、座席が千鳥配列されているので、見にくくはない。

 最終的には350席に40〜50人くらいの入り。熱狂的なミーハーおばちゃんたちがいない気がする。34歳のチャン・ドンゴンでは若くないということか。演技はうまいんだけどなあ。

 予告は、とても見てみたい宮崎息子アニメの「ゲド戦記」。重く、ウエットな感じの「明日の記憶」、シネスコ・サイズの左右をマスクした、第1次世界大戦の時のドイツ軍捕虜のベートーベン演奏秘話「バルトの楽園」というところ。


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