2006年4月16日(日)「立喰師列伝」

2006・Production I.G./バンダイビジュアル/博報堂DYメディアパートナーズ/東北新社/日本テレビ放送網・1時間44分

ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル



http://www.tachiguishi.com/top.html
(全国の劇場案内もあり)

第二次世界大戦直後の日本の闇市で、立喰いそば屋でそのそばを誉めて無銭飲食するプロ、立喰師の「月見の銀二」が現われた。さらに朝鮮戦争が終わり、東京タワーが完成した頃、その美貌で無銭飲食する「ケツネコロッケのお銀」が現われる。そして、東京オリンピックが開催され、日本から戦後の痕跡が排除され、万博が開催された頃、泣き落としで無銭飲食する「哭きの犬丸」が現われた。学生運動が社会現象となったころに「冷やしタヌキの政」が、牛丼チェーンが出来たとき「牛丼の松五郎」、ハンバーガーチェーンには「牛魔王」がシステムを崩壊させ、テーマパークが出来た頃には「フランクフルトのタツ」、インドカレーには「中辛のサブ」がそのシステムに戦いを挑んだ。
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 こういうものは、やはり押井監督にしか作れないだろう。実写のようなアニメーション。動画のようなスチル。些細なことをきわめて文学的に語り、日本のファスト・フードの変遷を通して日本の戦後史を語る。しかもデジタルでしかなしえない手法を使って、きわめてアナログチックに、アナクロニズム的に仕上げる。

 前半は、観客層が若いこともあって、時代背景をほとんど知らないからほとんど反応がない。むしろ哀愁さえ感じられて、シーンとしたまま。しかし後半はだんだん知っている時代に近づいてきて、次第に笑い声が起こってきた。牛丼のあたりから、笑いが増え、後半はかなりの人が笑っていた。ボクも笑った。結構、楽しめた。だから、50代以上の人のほうが、もっと楽しめるのではないだろうか。

 一部を除いて、ほとんどすべてをスチル写真から作っていったという技術的な処理も興味深いが、最大の興味は、押井監督の知り合い関係でまとめたという出演者だろう。スタジオ・ジブリの鈴木敏夫社長、樋口真嗣監督、作曲家の川井憲次、造形師の品田冬樹……もちろんガンコンの審査員である大川俊道、きうちかずひろ(しかも夫婦で!)といった人まで出演。1回見ただけではすべてわからないほど。これはDVDを買いなさいという伏線かも。「イノセンス」(2004)もそうだったけれど、とにかく情報量が多いのだ。

 押井監督だから、銃器もちゃんと出てくる。闇市ではそば屋のオヤジの背中に進駐軍のガバメントがあるし、監督自身モーゼル好きなので、「月見の銀二」と「モーゼルの銀二」と同一人物という話が出てくる。女立喰師はAK47を持ったゲリラだったり。

 実話というか、実際の歴史に基づいているわけで、ねずみのキャラクターがいる○○ランドも出てくるが、「ピーッ」が重ねられていて笑いを誘っていた。しかし立喰師の攻撃を受けるハンバーガー・チェーンに「ロッテリア」は実名で出ているのだ。なんと、脚本を読んで内容を理解した上でOKしたのだとか。企業人にも押井ファンは多いと聞く。アニメであり、コメディであり、イメージのマイナスにはならないという判断らしい。素晴らしいなあ。

 公開9日目の初回、30分前に着いたら、ちょうどエレベーターが動き始めたところで、しかしすでに25人ほどの列が。20分前くらいにロビーがいっぱいになってきたので、階段室に移動。なんでもこの前に試写会をやっているらしい(なんで?)。15分前くらいには50人以上になった。ほとんどは大学生くらいの、人目でそれとわかる、いわゆるアニメ・ファン。女性は1割ほど。中年も1割くらい。

 それにしても、この劇場も千鳥配列とか、床に緩い傾斜とかつけられているのに、天井が低くスクリーンも低いことから、前席の人の頭がジャマになってスクリーン下が見えない。日本映画だったからわかったようなものの、字幕映画だったら字幕が読めないことになる。うーん。

 最終的には227席に8割ほどの入り。二週目に入ってこの入りはなかなか良いのではないだろうか。

 初回は予告なしということだったが、場内が明るいうちに、劇場案内とともに少し上映された。「スポンジ・ボブ」、「嫌われ松子の一生」、タイトルは忘れたが「ストーンズ」関連の映画があるらしい。


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