2006年4月22日(土)「トム・ヤム・クン!」

TOM YUM GOONG・2005・タイ・1時間50分(IMDbでは109分)

日本語字幕:手書き書体下、風間綾平/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタルEX

(シンガポールNC-16)

http://www.tyg-movie.jp/
(全国の劇場案内もあり)

タイのジャングルで、ムエタイ戦士の末裔で、父親と暮らす息子のカーム(トニー・ジャー)は、何代にもわたって国王に献上する優秀な象を育てていた。しかしもある日も密猟者によって、もう1人の父のような存在だった象のポーヤイと兄弟同然だった子象のコーンがさらわれてしまう。犯人の1人を追ったカームは、一味のアジトを突き止め、2頭の象がオーストラリアのシドニーに送られたことを知り、単身シドニーに向かう。

74点

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 面白い。トニー・ジャーを一躍、有名にし、タイ映画のミニ・ブームを作った「マッハ!」(Ong-bak・2003・タイ)以来、多数公開されたタイ映画とは、さすがにトニー・ジャー作品、一線を画する。レベルが違う。自身が殺陣も付けているというトニー・ジャーのアクションは冴え渡り、目を見張るばかり。ストーリーも「マッハ!」の仏像を生きた象に置き換えただけという感じがしないでもないが、よく練られていて楽しめる。悪党はとことん憎たらしいし、笑いもちゃんと盛り込まれ、絵も音もきれい。象も愛らしい。見る価値がある。

 予告の感じでは、もっとコメディっぽいものだと思っていたのだが、やはり「マッハ!」同様かなりハードなアクションだった。もちろんコメディの要素はあるが、それがすべてではない。広告や予告で使われていた「トニー・ジャーinオーストラリアwith象」というのは、間違っていないのだが、どうにも映画の本質を伝えていないというか、別なものとして伝えてしまっている気がする。

 前作の「マッハ!」と同じといえば同じだが、ちゃんと納得できる感動的なストーリーがあって、その上で超人的なムエタイ・アクションが見せ場を作っているわけだ。どちらか片方でも面白さは半減以下だろう。

 その脚本を書いているのは、製作と監督も務めているプラッチャヤー・ピンゲーオという人。「マッハ!」の監督を務め、世界的な大成功を収めて、それを本作につぎ込んだという。ただし「マッハ!」の脚本はスパチャイ・シティアンポーンパンという人で、まったく別。プラッチャヤー・ピンゲーオは、前作をなぞっているものの、受けた要素をしっかりと把握していたということだろう。

 ただし、プラッチャヤー・ピンゲーオがプロデュースした作品は、「バトル7」(Heaven's Seven・2002・タイ)、「ダブルマックス」(The Bodyguard・2004・タイ)、「7人のマッハ!!!!!!!」(Born to Fight・2004・タイ)……とどれも今ひとつ。昔の香港映画のようだ。

 アクション監督とチラシやウェブ・サイトにあるパンナー・リットグライという人は、「マッハ!」でもアクション監督を務めた人で、「ダブルマックス」と「7人のマッハ!!!!!!!」の監督でもある。ということはドラマ部分が問題ということか。

 映画のエンディング・クレジットとIMDbではアクション監督という名前ではなく、マーシャル・アーツ・コレオグラファー(振付師)として、パンナー・リットグライは上げられており、なおかつ2番目に出る。1番目は主演もしているトニー・ジャー自身だ。大変な素質だと思う。新作は現在製作中という「Sword」(剣)というらしい。ジャキー・チェンの大ファンらしく、オーストラリアの空港で、ソックリさんとすれ違い思わず振り返るシーンがある。

 本作で特にすごいのは、敵のビルに単身トニー・ジャーが殴り込みを掛けるのだが、1階から浸入して5階くらいの上に至るまでを、敵と戦いながらワン・カットで見せるのだ(1マガジン1,000フィートで10分)。こんなこと、誰が考えるだろうか。準備だけでも大変だ。そして、どこかで、誰かが1つミスしただけで、すべて最初からやり直し。しかもアクション・シーンなので壊れ物がたくさんある。それらをすべて片づけて、新品に入れ替えてやり直さなければならない。この振り付けをやったトニー・ジャーもまたスゴイ。「オールド・ボーイ」(Oldboy・2003・韓)のチェ・ミンシクのハンマー・アクション・シーンを超えている。恐るべし、プラッチャヤー・ピンゲーオ。恐るべし、トニー・ジャー。

 共演で、ほぼ全編なまりのある英語を操っているのが、「マッハ!」でトニー・ジャーを騙すせこいチンピラを演じ、「ダブルマックス」では監督も務めたコメディアンのペットターイ・ウォンカムラオ。コメディ・パートのほとんどを1人で受け持っている感じだが、ちょっと違和感がなくもなかった。

 敵のボスがインパクトのある役者さんで、中国生まれのダンサーというかバレリーナのチン・シンという人。ゲイのため他のボスたちにバカにされるという役だが、実際に性転換手術して女性になった人なのだ。そしてダンサーであるがゆえにアクションの勘が良く、しかも体が柔らかいから実に殺陣がサマになっているのだ。演技もうまいようで、今後注目かも。

 そのボスの片腕になる二枚目で日本人っぽい人が、ジョニー・グエン。ベトナム人とアメリカ人のハーフだそうで、なかなか精かんなマスクでカッコいい。しかもアクションがいけてる。どうやらスタントマンとしても活躍していたらしい。「スパイダーマン」(Spider-Man・2002・米)や「スパイダーマン2」(Spider-Man 2・2004・米)、「ジャーヘッド」(Jarhead・2005・米)などでスタントをやっている。うまいはずだ。出演としては、「マーシャルロー」や「エイリアス」などのTVシリーズに出ていたのだとか。短編アクションで日本人役もやっている。やっぱりね。今後期待かも。

 巨大な用心棒には、オーストラリア生まれのWWE所属プロレスラー、ネイサン・ジョーンズ。 つい最近ジェット・リーの「SPIRIT」(Fearless・2006・中)に巨体格闘家で出ていた。さかのぼればジャッキー・チェンの「ファイナル・プロジェクト」(警察故事4・1996・香)、ブラッド・ピットの「トロイ」(Troy・2004・米ほか)にも出演している。

 劇中「海賊版のDVDは見るな」といって一瞬だけ登場するのは、「マッハ!」でストリート・チルドレンのような少女を演じていたプマワーリー・ヨートガモンではないだろうか。16歳くらいにしか見えないが、すでに24歳だという。なかなかの美少女。今後が楽しみだ。

 アクションなのでやっぱり銃も登場。ヤクザたちが使っているのが、シルバーのベレッタM92、強盗が持っていたのはとぉてのK38マスターピースのようなリボルバー。弾着もうまいし、頭への弾着という高度なテクニックも見事にこなしている。

 ちょっと気になったのは、演出なのだろうが、ときどき周辺をピンボケにするカットがあったことで、これはちょっと違和感を覚えた。なんだかわざとらしい、古くさい感じがした。ただ。画質やコントラストも全体にしっかりしていて、いい感じ。絵が締まっている。もちろん音質もいい。立体感もある。さすがドルビーデジタルEX。

 公開初日の2回目、新宿の劇場は狭いロビーが一杯になり入場制限で、階段室に列ができていた。まさか、「マッハ!」は別としてほかのタイ映画は混んでいないのに……。トニー・ジャーだけは別ということか。それとも有名人が雑誌などで誉めたか。小さい劇場での公開なのに、迷惑だなあ。

 僕が着いた時点で、階段室には15人くらい。8割は20代くらいの若い男性。格闘技ブームのおかげだろうか。若い女性は1〜1.5割くらい。他の映画では多い中高年はここでは1割程度。あらら。しかし、どんどん人が増えていく感じ。

 15分前くらいに前回が終了して、10分前くらいからやっと入場。指定席は無く、入った時点ですでに8割くらい埋まっていた。関係者らしい一団が10人くらいいて、それでなくても混雑しているというのに、入り口辺りに立っているからジャマでしようがなかった。本当に2人もいれば充分でしょ。劇場もそう言うべき。しかも本編が始まると出て行くから、場内に光りが入ってそこでもじゃまになる。

 5分遅れくらいで上映が始まり、ほぼ満席となった。もう少し大きな劇場にして欲しかったが、ほかのタイ映画では客が入っていないんだからしようがないか。

 予告は「ポセイドン」が新しいバージョンになった。ミラ・ジョボビッチの「ウルトラヴァイオレット」は「リベリオン」のガン=カタのような銃撃戦が大迫力でカッコミ良く、見てみたい気になった。刀持ってるし、新人類が出てくるし、うむむ。「トランスポーター2」は期待できそう。タイ映画「心霊写真」もかなり怖そうで、ぜひとも見たい。


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