2006年4月29日(土)「Vフォー・ヴェンデッタ」

V FOR VENDETTA・2006・米/独・2時間12分

日本語字幕:手書き書体下、西島 健/シネスコ・サイズ(レンズ)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米R指定、日PG-12)(IMAX版もあり)

http://wwws.warnerbros.co.jp/vforvendetta/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

第三次世界大戦後の未来、イギリスはアメリカを植民地とし、終身議長の座についたサトラー(ジョン・ハート)に支配された独裁国家になっていた。夜は外出禁止となっていたが、つい外出したTV局に務めるイヴィー(ナタリー・ポートマン)は、自警団に捕まり乱暴されそうになる。その時Vと名乗る仮面を着けた男が現われ助けてくれる。そして、裁判所を爆破するところを彼女に見せる。しかし、それが仇となり、警察から目をつけられることに。

73点

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 うーん、あえて狙ったのだろうが、今この時期にテロリストの話か。それも圧制で苦しむテロリストの側からの視点で描かれたテロリストの話。もちろん徹底して悪の圧制者なのだが、この理論はいま世界中で起きているテロリストが主張することと同じだ。テロリストにとってアメリカは圧制国なのだ。この作品の評価がアメリカでというかIMDbで8.2点と高い評価なのか、ちょっとよくわからない。

 テロリスト側が正しいのか、為政者側が正しいのか、それは時代を経て後になってみなければわからない。テロリスト側の言うことが正しければ国を救った英雄になるだろうし、正しくなかったら世紀の大悪人になる。為政者側がウソを付いていたら、それこそ北の独裁者とかイラクの髭のオッサンみたいになる。ただ後にならなければわからない。

 この映画はテロを認めろといっているのか。しかし9.11であれだけ大きな被害を受けたアメリカがそんなことを言うとは思えないし。「銃弾では正義を殺せない」とか「必要なのは建物じゃなくて希望だ」というセリフは何だか陳腐に聞こえる……つまりこれは力で的外れな報復に出たブッシュ政権を批判しているのか。

 とにかく最後は大爆発で終わる。そしてVの正体もわからずじまい。驚くことにVを演じた「マトリックス」(The Matrix・1999・米)シリーズのエージェント・スミスことヒューゴ・ウィービィングは、最後まで一切顔が出ない。本人も納得しての出演だったというからスゴイ。常に仮面を着けているわけだから、演技は仕草と声の調子でしかできない。役者としてはチャレンジで面白いだろうが、顔を覚えてもらうことができない。リスクが大きいと思う。

 このVがあまりに大きな憎しみのため、だれも信じることができない。平気で人を残酷に扱ってしまう。そこがまた、人間臭くてリアルなのかもしれないが、完全に主人公を支持できないところ。

 そのVに放浪されるヒロインに、「レオン」(Leon・1994・仏米)で泣き虫の女の子を演じていたナタリー・ポートマン。25歳にしてすでに大女優の風格だ。本作では頭をスキンヘットにしての熱演だ。「コールドマウンテン」(Cold Mountain・2003・米)の子供を抱えた未亡人役が意外で良かったが、いろんな作品に出演して、女優としての幅を広げていると思う。

 独裁者、サトラー議長はジョン・ハート。「エイリアン」(Alien・1979・米)で胸を食い破られた人だ。「デッドマン」(Dead Man・1995・米)のヘンな判事もよかったなあ。ちょっと異常な感じがよく似合う人。

 Vを追いつめる警察のフィンチ警視に、ニール・ジョーダン監督のショッキングなテロ映画「クライング・ゲーム」(The Crying Game・1992・英)のスティーブン・レイ。独特の味があって、本作でもVを追いつめながら、次第に為政者のひどい仕打ちや、事件のからくりに気付き、次第に気持ちが揺れていく様子を微妙な感じでみごとに演じている。

 よくわからないのは、なぜVとヒロインの上司のゴードンが、朝食に同じようなフレンチ・トースト(のようなもの)を作るのか。てっきり同一人物かと思ったら、違うし……。ヒロインの傷が、1年後くらいのはずなのにまだ治っていなくて、髪も短いままとか……。Vを狙う銃のシリンダーの後ろからVを見る絵で、薬莢が撃つたびに無くなっていくのもおかしいし……。ラストで大勢のVのマスクを付けた人々がやってくるが、その中にゴードンなどすでに死んだ人もいるのは、なぜなのか。ファンタジーということなのか……などなど、わからないことは多い。

 監督は「マトリックス」シリーズで助監督を務めたジェイムズ・マクティーグという人。どうやらスタジオの使い走りから始めて、助手、サード助監、セカンド助監、ファーストと登り詰めて、ついに本作の脚本とプロデューサーでもあるウォシャオスキー兄弟に認められての監督デビューらしい。脚本にはあまり納得できなかったが、演出はなかなか良いのではないだろうか。

 銃器では、フィンチの同僚がUSPのコンパクトらしいスライド・シルバーを使い、一般警官はグロック。実験施設のカードマンたちはM4カービン、軍隊はG36カービンを装備している。微妙に変えているところがニクイ。Vを取り囲む男たちはベレッタM92。ティム・ビゴット=スミス演じる政府機関(名称を失念)の長官のクリーディが、S&WのM686らしい4インチ・リボルバー。

 ちょっと気になったのは、撃たれても立ち上がってくるアイディアは、イーストウッドのマカロニ・ウエスタン「荒野の用心棒」(Pur un Pugno di Dollari・1964・伊)と同じ。近未来なんだから、防弾チョッキで良かったと思うのだが。

 ちなみにヴェンデッタとは「血の復讐」のことだと劇中語られる。イタリア語?

 公開8日目の2回目、劇場はワン・ランク上がって広い劇場に。40分前に着いたらロビーには7〜8人の人。女性が3人。中高年は3人。すべて半々か。30分前くらいから増えだして、20分前には列を作るように案内があったが、自主的にほぼ列はできていた。15分前には入場となって、この時点で50〜60人。男女比は半々くらいだったが、老若比は8割くらいが20代の大学生といった感じ。

 ペア・シート最終的に全席自由で、ちょっと大きな赤いシートの席もOK。最終的には1,064席の6割くらいが埋まった。ペア・シートは0。

 予告はほとんど「ザ・ニュー・ワールド」の劇場と同じだったが、音が圧倒的に良い。迫力も違う。そしてあちらにはなかったM・ナイト・シャマラン監督の「レディ・シン・ザ・ウォーター」。どうなんだろう。「シックス・センス」以外、がっかりさせられ続けているが。予告編は面白そうなんだよなあ。


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