2006年5月14日(日)「アンジェラ」

ANGEL-A・2005・仏・1時間30分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松岡葉子/モノクロ/シネスコ・サイズ(マスク、Technovision)/ドルビーデジタルEX、dts ES

(英15指定)

http://angel-a.jp/
(入ると画面極大化。全国の劇場案内もあり)

パリ、自称「バカでチビで無能の男」アンドレ(ジャメル・ドゥブーズ)は、街のチンピラやギャングに多額の借金があり、返さないと殺すと脅されていた。追いつめられたアンドレは身投げをしようと、セーヌ川にかかる橋から身投げをしようとする。するとアンジェラ(リー・ラスムッセン)と名乗る若くて背の高い美女が現われ、先に身を投げてしまう。慌てて後を追って飛び込んだアンドレは彼女を助ける。するとアンジェラはあなたの女になるという。アンドレは何をやってもダメな男だったが、アンジェラのおかげで、借金を返し、一目置かれるようになる。

72点

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 ヒネリも何もなし。予告で思った通りの内容で、予想できる結末。CMで「ラストの秘密は明かさないで」と言っているが、それほどの秘密はない、モノクロのシネスコで撮られた絵はとても美しくいい雰囲気だが、あまりに物語に工夫が足りないのでは。ほかの最近のリュック・ベッソン作品と同様。昔は良かったのに……。

 かつてボクの映画の師匠であるイラコバさんに、フランス映画で、ある男が橋から身を投げて水中に没するまでの一瞬を描いた作品があるということを教えてもらった。タイトルが不明なのだが、映画はその一瞬で主人公がそれまでの人生を振り返るという内容になっているらしい。それを思い出した。後半でアンドレが川から上がってきた時に、すべては川面へ落下するまでの一瞬に彼が見た夢のようなものだったのではないかと。ヒネリへの期待半分、真似かもという落胆半分で見ていたら、どちちらでもなく見たまんま。うーむ。

 「バカでチビで無能の男」がなんだか自分のことのようで落ち込んだ。ギャンブルはやらないが、自分に嘘をつかずに生きろ、人生を台無しにするなという言葉は胸に刺さる。自分で自分の人生を台無しにしていないか。うむむ。きれいな女が一緒にいるとみんなが一目置く、というのもグサリと来た。うむむむむ。

 あなたは内面が美しいと繰り返しアンジェラは言うが、一向に映像としては描かれない。そういうエピソードがないのだ。口でいわれるだけでは、観客はその言葉を信じることはできない。むしろ描かれているのは、せっかくアンジェラが体を張って稼いでくれた金をあっさり競馬につぎ込んで失ってしまう姿。その揚げ句に嘘をつく。どうにもアンドレを好きになれない。同情的に見ることができない。このへんも問題ではないだろうか。

 そのうち自分とダブらせた男の情けなさに、だんだん腹が立ってきて、不快になった。しかも男の未来はセリフとして語られるだけだが、自分でと努力したというより幸運が転がり込んできただけという感じがして、世の中そんなにうまくいかないよと思ってしまう。つまり希望ややる気を与えてくれるというよりは、その逆のような印象。ボクだけかもしれないが。IMDbで4.8という低得点には、そのへんが影響しているような気がするのだが。

 ワイプを多用していることからもファンタジー、大人のおとぎ話だとはわかるが、どうにも乗り切れない。

 でも、絵はいい。モノクロの画が絵はがきのようで美しい。神の視点といわれる俯瞰カットが多いわけだが、飛び降りようとする男の俯瞰や、歩道橋のような所にいるアンドレとアンジェラをバックにエッフェル塔を持ってきて、遠くから望遠で捕らえた画は息を飲むような迫力と美しさだ。

 撮影監督はティエリー・アルボガストという人。「最後の戦い」(Le Dernier Combat・1983・仏)は違うが、ずっとベッソン作品を撮ってきた人だ。他の作品は特にスゴイと思わなかったが、本作の画はすごい。

 監督のリュック・ベッソンは、本作で監督10作目なのでもう監督はやらないとか。デビュー作となる「最後の戦い」はモノクロ、セリフなしの近未来SFで、独特の味があって面白かったし、「レオン」(Leon・1994・仏米)も「ニキータ」(Nikita・1990・仏)も面白かった。ずっとジャン・レノと組んできたのに、なぜ最後の監督作品でジャン・レノが出ていないのだろう。「ニキータ」の主演女優アンヌ・パリローと結婚し、その後離婚して「フィフス・エレメント」(The Fifth Element・1997・仏米)の主演女優ミラ・ジョボビッチと結婚して離婚。今度は誰だというのも気になるが。

 そして、ジョージ・ルーカスみたいに、栄養事情が良くて太ってきた感じも。だいたいみな成功者になるとおいしいものをたくさん食べるようで、太る。役者は太るわけには行いかないが、監督はあまり関係ないらしく、たいてい恰幅がよくなるのだ。スティーブン・セガールは肉体派の役者なのに太ってきたが……。

 「バカでチビで無能の男」アンドレを演じたのはジャメル・ドゥブーズ。大ヒット作「アメリ」(Le Fabuleux Destin D'amelie Poulain・2001・仏)でちょっとおつむの弱い八百屋の店員を演じていた人。

 180cmの長身で物凄いスレンダーなボディの持ち主は、デンマーク生まれでモデル出身のリー・ラスムッセン。映画デビュー作はブライアン・デ・バルマ監督の「ファム・ファタール」(Femme Fatale・2002・仏)だとか。この撮影を本作のティエリー・アルボガストが担当している。

 銃はマフィアたちがピストルを持っているが、チラリとしか写らずよくわからなかった。後半の方でG36Kが出てきていた。

 最後までアンドレは右手をポケットから出さないが、その答えはついに明かされなかった。これは気になる。何か障害を持っているのかとは想像できるが、あまりに長く目立つので、ストーリーに関係する何かがあるのではと思うのが人情だろう。公式サイトのキャストの所で理由が明かされているが、こんなことハッキリと言われなければ観客にはわからないって。何度も見ないと気付かないような小さなことならそれでも良いが、一番映画で気になる部分なのだから、明かすのは必要なのではないだろうか。

 公開2日目の初回、前日に座席確保しておいたので20分前くらいに着くと、銀座の劇場はすでに開場済み。1F席には30人くらいの人が座っていた。

 2F席は最終的に20人くらいの入り。少なーい。あれれ、あれだけ広告していたのに。さすがにリュック・ベッソン印の神通力、効力は薄れてしまったか。内容の薄いのばかり続いたからなあ……。なぜか、ほとんど中高年で、男女比はほぼ半々。BGMに流れていたエンヤの曲は、イメージ曲で本編とは関係なかった。

 予告編で気になったのは……浅田次郎原作の「地下鉄(メトロ)に乗って」は絵が無かったので、まったく内容がわからない。「デス・ノート」も面白そうなのだが、本編の絵がないので何とも言えない。コナミのゲームを映画化したという「サイリント・ヒル」は、絵もショッキングなら音も大迫力。これは期待が持てるかも。「パイレーツ・オブ・カリビアン」は新予告になり、今まででていなかった映像が。面白そう。「ポセイドン」はたぶんヒットするんじゃないだろうか。IMDbでは5.7だけど……。


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