2006年5月14日(日)「ナイロビの蜂」

THE CONSTANT GARDENER・2005・独/英・2時間08分(IMDbでは129分)

日本語字幕:手書き風書体下、松浦美奈/ビスタ・サイズ(1.85、16mm、35mm ARRI)/ドルビーデジタル、dts

(英15指定、独12指定、米R指定)

http://www.nairobi.jp/
(入ったら音に注意。全国の劇場案内もあり)

アフリカのケニア、トルカナ湖でイギリス外務省一等書記官ジャスティン(レイフ・ファインズ)の妻テッサ(レイチェル・ワイズ)が何者かに斬殺された。ジャスティンは妻がなぜそんな場所にいたのか、疑問を感じて調査を始める。すると何者かからそれ以上首を突っ込むなという警告を受ける。

73点

1つ前へ一覧へ次へ
 うーん、このやるせない感じ。デッドエンド。どこにも行きようのない閉塞感。救われない気持ち。世の中にはこんなにも悪意がまん延していて、それに刃向かおうとすれば悲惨な運命が待ち受けているのかと。

 アフリカの悲惨な現状は、想像を絶するほど酷い。貧困、飢餓、エイズ……こんなことが起こっているなんて。そして、それが一体いつまで続くのか。まったく先が見えない。そして何もできない自分が情けなくなる。よくできた映画だが、これを見るのは相当の覚悟がいる。曲も心底悲しくせつない。

 そんな状況を知ってはいながら、あえて正面から向きあわなかった主人公である外務省一等書記官は趣味がガーデニング。それに情熱を注ぎ込み、仕事以外ではアフリカの問題に目を向けない。ところが、愛していた妻が斬殺されたことから積極的にアフリカの問題に立ち向かい、真実を明かそうとする。にも関わらず、彼を直接襲ってくるのは、あくまでアフリカ人なのだ。原題のガーデナーにはそういう意味があったのだ。

 部族間の争いというのは太古の昔からあって、それがずっと今に続いているのかもしれないが、銃などの兵器が持ち込まれてより悲惨になっているのではないただろうか。そしてそれに政治、国際関係が絡んでくる。同じことがニコラス・ケイジ主演の「ロード・オブ・ウォー」(Lord of War・2005・米)でも描かれていたし、アンジェリーナ・ジョリー主演の「すべては愛のために」(Beyond Borders・2003・米)でも描かれていた。

 本作ではそれに加えて、巨大製薬会社の金儲けのための陰謀が絡んでくる。国名は実際のものだし、よく映画化できたものだなあと感心する。

 妻テッサを演じたのはレイチェル・ワイズ。注目されたのは「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」(The Mummy・1999・米)から。その後「スターリングラード」(Enemy at the Gates・2001・米独ほか)「ニューオーリンズ・トライアル」(Runaway Jury・2003・米)、「コンステンティン」(Constantine・2005・米独)などハリウッド大作が続いた。よく本作のような作品に出たなあという感じだが、本作でアカデミー助演女優賞を受賞している。すばらしい。特殊メイク で妊娠した姿になり、それで入浴シーンまで演じている。

 夫役のレイフ・ファインズは、スピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」(Schindler's List・1993・米)で、イギリス生まれなのだがドイツ軍将校役で注目され、その後いろんな傑作や話題作、駄作などに出演。最近では「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(Harry Potter and the Goblet of Fire・2005・米)にヴォルデモート卿役で出ていた。静かな感じが庭いじりを趣味とする人らしくピッタリだった。

 イギリス政府の高官サー・バーナード・ペレグリンには、いかにも怖そうなビル・ナイ。「ラッキー・ブレイク」(Lucky Break・2001。英独)や「ラブ・アクチュアリー」(Love Actually・2003・英米)ではコミカルなキャラクターだが、「アンダーワールド」(Underworld・2003・米独ほか)では一転して恐ろしい悪魔のようなキャラクター。独特の存在感があって、いまやあちこちで引っ張りだこ。公開予定の作品もたくさんある。

 新薬を開発したという医師役に、これまたイギリス出身のピート・ポルスウェイト。「ラスト・オブ・モヒカン」(The Last of the Mohihicans・1992・米)や「ユージュアル・サスペクツ」(The Usual Suspects・1995・米独)、「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」(The Lost World: Jurassic Park・1997・米)などで知られる名バイプレーヤー。最近は「イーオン・フラックス」(AEon Flux・2005・米)で変な服を着て情報を管理するザ・キーパーを演じていた。この人もまた独特の味がある。無精髭がよく似あうんだ、これが。

 監督は、ブラジル生まれのフェルナンド・メイレレスで、リオデジャネイロのストリート・チルドレンを描いたドキュメンタリー・タッチの「シティ・オブ・ゴッド」(Cidade de Deus・2002・ブラジル仏米)を撮った人。小劇場での公開だったので見に行かなかったが、予告だけで打ちのめされるような衝撃的な内容だった。ブラジルの知人によれば、本当にそんな状況なのだという。IMDbでは全作品中17位というものすごい高評価。それで本作につながったらしい。

 撮影は一部に16mmフィルムも使われているらしく、ところどころに粒子の粗い絵もあれば、非常にきれいな絵もあるというちぐはぐさ。あるいは計算のうちなのかもしれないが、それは読み取れなかった。ARRIの35mmで捕らえられた絵はものすごく美しい。この監督、次はどんな衝撃作を撮るのだろう。

 原作はイギリス人、ジョン・ル・カレという人。映画化された作品では、「寒い国から帰ったスパイ」(The Spy who came in from the Cold・1965・英)、「リトル・ドラマー・ガール」(Little Drummer Girl・1984・米)、「ロシアハウス」(The Russia House・1990・米)、「テイラー・オブ・パナマ」(The Tailor of Panama・2001・米アイルランド)など、スパイものの佳作が多い。本作もスパイの暗躍が描かれているわけだが、よりアフリカの惨状や巨大製薬会社の陰謀といった所に力が入れられているので、ミステリーの感じは少なくなっている。

 アフリカにまん延している銃はやはりAK47。とにかく恐ろしい。一方、身を守るためか、もしくは拷問を逃れるためなのかはわからないが、ジャスティンがイギリス情報局の男から渡されるのは、布でくるんである時はリボルバーのグリップだと思ったのだが、あとで取り出した時はSIGのP226のようで、最後に取り出した時はグロックになっていた。

 公開2日めの2回目、こちらも前日に座席確保済み。銀座の劇場は25分前に着いたらちょうど前回が終了したところ。場内清掃があって、20分前に入場となった。

 観客層は20代〜中高年までまんべんなくいた感じ。男女比は半々くらいで、最終的には540席の5.5割くらいが埋まった。娯楽作とは違うので、これくらいの入りは良い方ではないだろうか。むしろ、こんなに関心がある人がいることに驚くくらい。ただ、全席指定ならレディース・シートはもういらないのでは。

 予告編は、ほぼ「アンジェラ」の劇場と一緒。なので書くことはほとんどなし、ということで。


1つ前へ一覧へ次へ