2006年5月27日(土)「夢駆ける馬ドリーマー」

DREAMER : Inspired by a True Story・2005・米・1時間43分(IMDbでは102分)

日本語字幕:手書き体下、伊原奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35、with Panavision)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG指定)

http://yumekakeru-uma.com/
(入ったら音に注意。全国の劇場案内もあり)

競馬馬の調教師ベン・クレーン(カート・ラッセル)は、娘のケール(ダコタ・ファニング)を連れて自分が調教したソーニャドールという牝馬のレースに向かう。しかし出走直前、ソーニャの前脚に異常を感じ、レースに出場するのを止めさせようとするが、馬主のパーマー(デイヴィッド・モース)はそれを無視し、出場させる。レースで先頭に立ったソーニャだったが、ゴールを目の前にして転倒し前脚を骨折してしまう。すぐに安楽死が検討されたが、娘がいたことから医師に見せることにして連れ帰る。そこへパーマーが現われ、事故の責任をとらさせてクビを言い渡される。ベンはそれまでのギャラとソーニャを引き取ることでそれを受け入れるが……。

74点

1つ前へ一覧へ次へ
 よくある再起ものの1本。しかも何のヒネリもない、わかりやすいストレートな話。予想したとおりの展開で、予想したとおりの結末にたどり着く。しかし、おもしろい。感動した。ちょっと涙が出そうに……。

 基本的に、古き良きアメリカというのだろうか、素晴らしいファミリーがいて、登場人物は1人を除いて皆いい人ばかり。唯一その損な役を引き受けるのは、金儲けしか考えない馬主のパーマーのみ。お父さんのベンも頼もしい理想的な父親だし、お母さんも頑張り屋で優しく美人で、娘は素直で明るく愛らしい。おじいちゃんもちょっと頑固だが陰でファミリーを支える優しい人。スタッフとして働くバロンも、マノリンも、冗談好きで陽気なナイス・ガイ。たぶん実際にはありえない環境。でも、ファンタジーだからこそ、その環境が暖かく、居心地が良くて、安心して見ることができる。

 雰囲気的には、なんだか同じ競馬ネタということで「シービスケット」(Seabiscuit・2003・米)に似ているかも。ただこちらの方が明確な悪役がいるので、物語にメリハリがついて面白くなっている気はする。競馬つながりでは「レーシング・ストライプス」(Racing Strips・2005・南ア米)と共通項もあるし、「モンタナの風に吹かれて」(The Horse Whisperer・1998・米)とも似ているところがある。

 まあ、言ってしまえば、ありふれたバターンの映画なので、キャラクターに頼っている部分はある。特に天才子役、ダコタ・ファニング演じる娘のケールと、温かくって優しい父カート・ラッセルが素晴らしい。彼らのキャラクターがきちっと出来た段階でこの映画の成功は決まっていたのではないだろうか。

 興味深いのは、ソーニャドールに一番入れ込んでいる12歳くらいの少女に、すべてやらせること。映画だからもちろん誇張はあるが、アメリカはだいたいこういう傾向がある。馬のことから、競馬の仕組み、馬主としての権利、レースへの参加、交渉……彼女を子供として扱うのではなく、1人の人間として認め、基本的には彼女にすべてやらせるのだ。もちろん大人のバック・アップなしにできることではないが、彼女を前面に立たせて大人はできるだけ出て行かない。なんか、素晴らしいなあ。

 ダコタ・ファニングはいうまでもなく、ショーン・ペンと共演した「I am Sam」(I am Sam・2001・米)で注目され、大スターとなってしまった天才子役。つづくスピルバーグのSF-TVドラマ「TAKEN」(Taken・2002)でも素晴らしい演技を見せ、ブリタニー・マーフィと共演した「アップタウン・ガールズ」(Uptown Girls・2003・米)でコメディもいけることを証明、アクションの「マイ・ボディガード」(Man on Fire・2004・米)でも重要な存在感を示した。まだ、わずか12歳だというのに。きっと普通に学校にも行っておらず、特殊な子になってしまっているんだろうなあ。ちょっと将来が心配でもあるが……。

 カート・ラッセルはロバート・ゼメキス監督の「ユーズド・カー」(Used Car・1980・米)の主演から、ジョン・カーペンター監督の「ニューヨーク1997」(Escape from New York・1981・米)、同じくジョン・カーペンター監督の「遊星からの物体X」(The Thing・1982・米)、のちに結婚することになるゴールディ・ホーンと共演した「潮風のいたずら」(Overboard・1987・米)、ホール・アンダーソン監督のSF「ソルジャー」(Soldier・1997・米)、悪人を演じた「スコーピオン」(3000 Miles to Graceland・2001・米)でさえも、いずれもどこか憎めないキャラクターばかり。それがこの人の本当のキャラクターなのかもしれない。

 優しいお母さんはエリザベス・シューで、「ベビーシッター・アドベンチャー」(A Night on the Town・1987・米)で注目され、「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART 2」(Back to the Future Part II・1989・米)で、前作で出演できなくなったクローディア・ウェルズの跡を継いで、マイレル・J・フォックスの恋人役を演じメジャーになった人。

 馬主のパーマーはデイヴィッド・モース。「ザ・ロック」(The Rock・1996・米)や「交渉人」(The Negotiatoe・1998・米)で特殊部隊隊員を演じた硬い感じの人。厩舎員ロックを演じたのは、刑事役の多いルイス・ガスマン。「ニューオーリンズ・トライアル」(Runaway Jury・2003・米)で陪審員の1人を演じていた。ジョッキーのマノリン役は二枚目のフレディ・ロドリゲス。本作で大きな役を得たようで、この後「ポセイドン」や「レディ・イン・ザ・ウォーター」などの大作が控えている。

 監督はジョン・ゲイティングズ。本作が監督デビュー作らしいが、「陽だまりのグラウンド」(Hardball・2001・米)や「コーチ・カーター」(Coach Carter・2005・米)の脚本を書いているとか。スポ根系か。しかし、決まり切った内容のものをキッチリ見せて、シッカリ感動させるのはなかなかのテクニックだと思う。今後にも期待したい。

 公開初日の初回、銀座の劇場は60分前についたらすでに開場済み。初回のみ全席自由で、数人が入っていた。30分前に25人くらいになって、6対4で男性が多い感じ。下は中学生くらいの女の子からいたが、ほとんどは中高年。特に白髪が目立った。最終的には654席に3〜3.5割程度の入り。これは少ない。ダコタ・ファニングなんだからもっと見に来ても良いと思うが。

 予告では「トリスタンとイゾルデ」が始まった。「ロミオとジュリエット」の元となった話だとかで、意外に面白そう。9.11テロで、唯一突っ込みに失敗した飛行機の運命を描く「ユナイテッド93」は、予告だけで泣けてくる話。これはつらいかも。驚いたのは「X-men 3」で、作られるんだ。予告はとてもカッコよく、良い感じ。スゴイ映像。監督はこれまでのブライアン・シンガーではなく、「ラッシュアワー」(Rush Hour・1998・米)のブレット・ラトナーだが、はたしてどうなのか。「インサイド・マン」は新しいバージョンになって、ようやく内容が見えてきた。もう前売りは買ってしまったが、面白そう。


1つ前へ一覧へ次へ