2006年5月28日(日)「デイジー」

DAISY・2006・韓/香・2時間05分(IMDbでは110分)

日本語字幕:手書き書体下、根本理恵/シネスコ・サイズ/ドルビーデジタル、dts

(韓15指定)

http://www.daisy-movie.com/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

オランダで画家を目指して勉強している韓国人女性のヘヨン(チョン・ジヒョン)は、平日は祖父の骨董品店を手伝い、土日は街の広場で似顔絵を描いて生計を立てていた。そして、毎日のように謎の相手からデイジーの鉢植えが届き、ヘヨンは送り主に淡い恋心を持っていた。そんなとき、デイジーを持ったカッコいい韓国人男性ジョンウ(イ・ソンジェ)が、似顔絵を描いてくれと現われる。鉢植えの送り主と勘違いしたヘヨンは急速にジョンウと親しくなっていくが、実際にはジョンウはインターポールの捜査官で、韓国への麻薬ルートを追って捜査していたのだった。そして、もう1人の韓国人男性、実は殺し屋のパクウィ(チョン・ウソン)も、広場の近くの部屋からヘヨンを見守っていた。彼こそがデイジーの送り主だった。

76点

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 ドラマの永遠の定石、男女3人の黄金のトライアングル。まっ、普通に言えば三角関係。よくあるパターンだが、よくできていて感動する。誰も相手を故意に騙そうとはしていない。相手を思い、ちょっと話さなかっただけ、という感じがいい。みな良い人なのに、幸せになれない……。わずかにタイミングがズレていれば、きっとこんな悲劇は起こらなかっただろうに。くうーっ、思わず涙が出そうに。

 しかし、この映画の凄いところは、ただの恋愛もの三角関係映画ではなくて、アクション映画としているところ。銃撃戦はスゴイ迫力で、かなり本格的。つまり、永遠の名作、ロベール・アンリコの「冒険者たち」(Les Aventuriers・1967・仏)のパータンなのだ。女性がアーティストの卵というところもそっくり。わざわざ全編をヨーロッパで撮影したというのは、その辺に理由があるのではないだろうか。

 しかも面白いのは、ヒロインが銃撃戦に巻き込まれて喉を撃たれ、声が出なくなってしまうこと。よけいに気持ちが伝えられなくなってしまうのだ。そして悲しみで絶叫したくてもできない。何かを叩くとか、じたんだを踏むしかないのだ。これがいい。

 うまくコミャニケーションが取れないもどかしさ。そしてそれが恋の障壁となる。ナイナイの岡村が主演した「無問題(モウマンタイ)」(無問題・1999・香)の日本人と中国人の恋、それも2台の電話で2人の通訳を介してコミュニケーションをとるパターンと似ている。障壁が大きいと、よけいに燃えるというヤツ。

 ヒロインのチョン・ジヒョンは「猟奇的な彼女」(My Sassy Girl・2001・韓)でブレイクした美女で、ホラーの「4人の食卓」(The Uninvited・2003・韓)はいちまちだったが、続く「僕の彼女を紹介します」(Windstruck・2004・韓)はアクション系ラブ・ストーリーでまたハマって泣かせてくれたし……本作も考えるとやっぱのアクション系のほうが向いているのかも。ただ、インタビューなんかをみると、愛想もあまり良くなく、可愛いキャラなのはスクリーンの中だけのような気も……。ちょっと古いがモニター一体のiMacのブルーを使っている。

 心優しい殺し屋は、退屈だった潜水艦映画「ユリョン」(Phantom the Submarine・1999・韓)や、チャン・ツィイーだけ良かった「MU武士SA」(Musa・2001・韓中)の二枚目チョン・ウソン。最近では「私の頭の中の消しゴム」(A Moment to Remember・2004・韓)が日本でもヒットし、広く知られるようになったらしい。高校生の時にモデルとしてデビューしたというだけあって、ホントカッコいい。端正な二枚目。狙撃に使う銃はたぶんH&KのPSG-1で、レール・マウントにスコープを装着していた。拳銃はこれもおそらくS&WのM27の357マグナム6インチ・バレル。リボルバーだと薬莢が現場に残らないし、弾丸もソフトポイント弾を使えば大きく変形するのでどの銃から撃ったかわからないと言っているあたりがリアル。

 インターポールの捜査官はイ・ソンジェ。寡黙な二枚目という感じで、地味だが人柄が良さそうでいい。傑作アクション・コメディの「アタック・ザ・ガス・ステーション」(Attack the Gas Station!・1999・韓)では襲撃犯の1人を演じていた人。日本ではいまひとつパッとしないかも。銃は定番グロック。ついでに警察が使っているPCはソニーのバイオ・ノート。

 監督は、驚くことに香港の名手、アンドリュー・ラウ。もともとは撮影監督で、ウォン・カーウァイ監督の「恋する惑星」(重慶森林・1994・香)も撮っている。監督になりたては千葉真一の「風雲ストームライダース」(風雲之天地雄覇・1998・香)とか、「拳神KENSHIN」(拳神・2001・香)などいまひとつだったが、瀬戸朝香が出た「バレット・オブ・ラブ」(不死情謎・2001・香)は素晴らしかったと思うし、「インファナル・アフェア」(無間道・2002・香)はハリウッドでリメイクが決まっているというし……「頭文字D THE MOVOE」(Initial D・2005・香)はちょっと……。

 手堅い脚本は、「猟奇的な彼女」の脚本家にして監督のカァク・ジェヨン。チェ・ジウとアン・ソンギが共演した「ピアノを弾く大統領」(The Romantic President・2002・韓)や自ら監督もした「ラブストーリー」(The Classic・2003・韓)と「僕の彼女を紹介します」もこの人の脚本。日本の慶応大学で心理学を専攻したというから、微妙な心の機微というものの表現がうまいのかもしれない。それでいて、単なるラブ・ストーリーに終わっていないところがスゴイ。

 劇中たくさん使われているクラシック曲が良い。特にタイトルがわからなかったが、よくかかるピアノ曲はジーンと来る。サントラに入っているのだろうか。

 ラストで、ボスとの対決でビルに入っていく時、2挺持っているうちのリボルバーを出すのだが、ビルに入るともう1挺の方のグロックになっているはご愛嬌。グロックが空になってオーブン・ストップするとM27を取り出すから、計算は合っている。

 すべて終わり、クレジットも出尽くすと、最後にTHE ENDの文字。やっぱり正当派の昔のパターンの映画が作りたかったのではないだろうか。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は初回のみ全席自由で、45分前についたらオバサンのみが10人ほど。40分前に開場となって、この時点で14〜15人。オヤジが5〜6人。徐々に人が増えだして、若い女性もポツポツと。若い男性は2〜3人。

 最終的には400席に3.5〜4割の入り。これも少ない。もっと人が入ってもいい作品だと思う。そろそろ韓流に陰りが見えてきたのか。男女比は1対3でやっぱり女性が多く、多くは中高年だった。

 予告はも9.11テロを描いた、たぶん消防士の話の「ワールド・トレード・センター」は「ユナイト93」同様、つらい。オリバー・ストーンが監督? どうやらビルで生き埋めになるらしい。「ワイルド・スピードX3」は、なんと東京が舞台。ストリートのドリフト競技が今回の話のようだ。「着信アリ3」はファイナルで、最初の予告バージョンはあまり良くなかったが、新バージョンは面白そう。劇場によっては見ても良いかも。


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