2006年7月13日(木)「ローズ・イン・タイドランド」

TIDELAND・2005・加/英・1時間57分

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(ARRI 535)/ドルビーデジタル

(日R-15指定、仏12指定)


http://www.rosein.jp/
(入ったら音に注意。全国の劇場案内もあり)

ジェライザ=ローズ(ジョデル・フェルランド)は、ジャンキーの父のノア(ジェフ・ブリッジス)がグンヒルド王妃と呼ぶジャンキーの母親(ジェニファー・ティリー)が麻薬のショックで死んだことから、父とおばあちゃんが住んでいたという大草原の1軒屋へ行くことになるが……。

72点

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 うーん……これもグロテスクで、気持ち悪くて、フリークス・ショーのようで……ギリアム・ワールド炸裂の1本。ブラックな笑いが満載で、これで笑えるのかどうか。冷静に事実だけを見れば悲惨で、とんでもない悲劇だし、普通の少女だったら耐えられなくて発狂するか、死んじゃうか、家出するか。しかし明るくて、かわいい主人公の少女のキャラで、全く暗くならず、奇妙な雰囲気が醸し出されている。何なんだろう、これは。

 もう少し「不思議の国のアリス」(Alice in Wonderland、正確にはAlice's Adventures in Wonderland)と関係があるのかと思ったら、そうでもなかった。ようするに創造力豊かな少女が悲惨な状況を、話し相手の人形(の頭)などを使いながら、自分に都合が良いように解釈を加え、ファンタジー世界の中で暮らしていくというものだった。これは「不思議の国のアリス」のアリスが、現実世界をベースに不思議の国を作っていったという構造と同じ。原題は単なる「タイドランド(干潟)」だけど。日本で関連性を感じてこういうタイトルにしたのではないだろうか。でも、良いのかなあ、勝手な解釈をタイトルでしてしまって……。

 ただ、たぶん大人向けのダーク・ファンタジーなので、少女らしい残酷さとか、性的にオマセなところとかも描かれている。一方、若い男はローズより年上なのに子供っぽく描かれていて、対照的だ。ローズが「あなたの秘密を見せて」と言うのを、ストレートに受け取って本当のお宝を見せたりする。一方のローズはマスしただけなのに子供ができたと思ったりするのだが。

 それでもラストは、ローズに良いことが起きそうな予感を感じさせて終わる。そうでなかったら、これは辛すぎて見たことを後悔する作品になったかも。

 主役のローズを演じたのが、「サイレントヒル」(Silent Hill・2006・加ほか)でさらわれる娘を演じていたジョデル・フェルランド。順番としてはこちらの方が先なのだが、公開はほぼ同時期となった。「サイレント……」は出番が少ないので印象が薄いが、本作では素晴らしい演技だと思う。カナダ生まれで、これまではTVでの活躍が多かったようだが、本作をきっかけに劇場映画に出ようになったらしい。1994年生まれというから12歳。5歳でデビューというから、第二のダコタ・ファニングになるか。次作に期待したい。

 脳手術を受け頭に大きな傷のあるディケンズを絶妙に演じて見せたのは、本当は美男子のブレンダン・フレッチャーという人。ロビン・ウィリアムスのSF「ファイナル・カット」(The Final Cut・2004・米)のたぶん若い同僚役、最近では「アローン・イン・ザ・ダーク」(Alone in the Dark・2005・加ほか)にも出ているらしい。それにしても、演技もスゴイが特殊メイクもスゴイ。驚いた。

 そのディケンズのエキセントリックな姉、デルを演じたのは、ジャネット・マクティア。イギリス生まれの普通の美人で、この不気味な感じはやはりメイク。まるで「ツインピークス」のアイパッチのネイディーンみたい。日本劇場未公開の「Tumbleweeds・1999・米」でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされているらしい。

 どうしようもないジャンキーの父は、ジェフ・ブリッジス。本作では「ビッグ・リボウスキー」(The Big Lebowski・1998・米/英)並みに汚らしい感じだが、感動作「シービスケット」(Seabiscuit・2003・米)で馬主を演じていたくらい品のある人。古くは「トロン」(Tron・1992・米)とか「スターマン/愛・宇宙はるかに」(Starman・1984・米)、「カリブの熱い夜」(Against All Odds・1984・米)なんかにも出ていた。

 その妻で、出てきてすぐに死んじゃうグンヒルド王妃ことママには、「バウンド」(Bound・1996・米)のジェニファー・ティリー。「チャイルド・プレイ/チャッキーの花嫁」(Bride of Chucky・1998・米)や「コード」(Hide & Seek・2000・米)は強烈だった。本作では凄く太っているように見えたが、まさか本当に……。メイクだろうなあ。ビックリ。

 監督はイギリスのコメディTV「モンティ・パイソン」(1969〜1973)に参加していた人で、劇場版の「モンティ・パイソン」を脚本・監督。「バンデッドQ」(Time Bandits・1981・英)、「未来世紀ブラジル」(Brazil・1985・英/米)、SFの「12モンキーズ」(Tewelve Monkeys・1995・米)などで知られる。最近は撮影途中でポシャッてしまった映画のメイキング「ロスト・イン・ラマンチャ」(Lost in La Mancha・2001・米/英)が話題になっていた。最新作はハリウッドで撮ったためか、個性があまり発揮できなかった「ブラザーズ・グリム」(The Brothers Grimm・2005・米/チェコ)がある。本作の脚本も手がけている。原作はミッチ・カリンの同名小説。

 公開6日目の平日2回目、232席に4.5割くらいの入りはリッパ。驚いた。半分くらいは大学生くらい。半分が中高年。男女比は4対6くらいで女性のほうが多かった。平日はとにかくゆったりと見ることができて良い。ただしも人数が少ない分、一抹の寂しさはある。面白い作品ほど、多くの人とそれを共有したいと思うものなのだ。

 気になった予告編は、アニメの「時をかける少女」。なんで今アニメで「時をかける少女」なんだろう。よくわからない。9人の女優が共演する「美しい人」。上下マスクされた3D-CGの「アタゴオルは猫の森」は、入場の際ステッカーまでもらったが、確かに子供には受けそう。「マッチポイント」はウッディ・アレンなので、好き嫌いがはっきりしているかもしれない。ただスカーレット・ヨハンソンはきめちゃくちゃきれいで、しかも脱いでいる。うーむ。いま「M:i:III」で憎たらしい悪役をやっているフィリップ・シーモア・ホフマンがアカデミー主演男優賞を獲得した「カポーティ」は面白そうだが、なんだかかなり重そうな内容。実写版アルプスの少女「ハイジ」は、アニメに夢中になった人なら楽しめそうな感じ。


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