2006年7月29日(土)「カクタス・ジャック」

MANTANDO CABOS・2004・メキシコ・1時間43分(IMDbでは米版94分)

スペイン語/日本語字幕:手書き書体下、林 完治/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル、dts(THX)(IMDbではdtsのみ)

(日R-15指定、米R指定)(レイト・ショー公開)

http://www.elephant-picture.jp/saboten/index.html
(音に注意。全国の劇場案内もあり)


超ワンマンでギャングのように暴力的な社長、カボス(ペドロ・アルメンダリス)の下で働くジャック(トニー・ダルトン)は、社長の娘ポリーナ(アナ・クラウディア・タランコン)とデキたことがバレて殺されそうになるが、たまたま社長が転倒して気絶したことからその場を逃がれる。そこへやって来た掃除夫は社長が気絶しているのを良いことに、身ぐるみはがし金品を奪って社長気取りでビルを出て行く。そこへ友人のムド(クリストフ)と共にもどったジャックは、この状況から疑われることを恐れて、とりあえずトイレに社長を隠すが……。

73点

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 マーティン・スコセッシ監督の傑作「アフター・アワーズ」(After Hours・1985・米)のような想像を絶する異常な一夜を、ドタバタチックに、時にシリアスに、描いた怪作! なんで2004年の作品が今ころになって公開されるのかよくわからないが、なかなか面白く、ちゃんと笑える。「バーニーズ/あぶない!?ウィークエンド」(Weekend at Bernie's・1989・米)の死体と過ごす週末みたいでもあるけど。

 ただし、かなり残酷。コメディでここまでやる必要があるかっていうくらい、暴力はシリアス。一見、人の良さそうな登場人物も、実はキレると何をやるかわからない。この怖さ。これがあるからこの映画には緊張感があって、それがメリハリとなって良いのかもしれない。ちょっと不快ではあるけれど、笑いと暴力の微妙なバランス。これは日本人にはわかりにくく、メキシコ人独特のものかも。ダメな人にはたぶん受け入れられない。そこが2年経ってしまった原因かも。目が不自由な人をおちょくってるし。

 何となく想像してしまうのは、メキシコ・シティあたりではこういう誘拐ビジネスがさかんで、ありふれているのかもしれないってこと。貧富の差もかなり激しく、それが犯罪の原因にもなっているかもしれないってこと。で、結構短絡的にカーッとなってしまう人も多いかもしれないってこと。確かに情熱的ではあるかもしれないけれど。

 主人公のジャックを演じたのは、アメリカ生まれでメキシコ育ちのトニー・ダルトン。見事なスペイン語を操っている。メキシコの映画やTVにあまり重要ではない役で出ていたのが、本作の脚本を共演のムド役のクリストフと、監督のアレファンドロ・ロサーと一緒に書き、主役デビューしている。メキシコ版「グッドウィル・ハンティング/旅立ち」(Good Will Hunting・1997・米)みたいなものか。はたしてトニー・ダルトンとクリストフは、マット・デイモンとベン・アフレックになれるのか。

 そのクリストフはメキシコのTVで1988年から活躍していた人で、やはり本作の脚本を書いて重要な役を演じたことで注目を集めたようだ。トニー・ダルトンと二人で「No te equivoques」(2001)というTVのコメディ・シリーズをプロデュースおよび主演している。

 残忍なボス、オスカル・カボスを演じたのは、1940年メキシコ生まれで、1966年から活躍しているベテランのペドロ・アルメンダリス。メキシコのTVや映画のほか、アメリカのTV「ポリス・ストーリー」(Police Story・1973〜1977・米)、「刑事コロンボ」(Columbo: A Matter of Honor・1976・米)、劇場作品「戦争の犬たち」(The Dogs of War・1980・英/米)、TV「ナイトライダー」(Knight Rider・1982〜1986・米)、TV「エアーウルフ」(Airwolf・1984〜1986・米)、「007/消されたライセンス」(Licence to Kill・1989・英/米)、「トゥームストーン」(Tombstone・1993・米)、「アミスタッド」(Amistad・1997・米)、「マスク・オブ・ゾロ」(The Mask of Zorro・1998・米)、「ザ・メキシカン」(The Mexican・2001・米/メキシコ)、「ポワゾン」(Original Sin・2001・仏/米)、「レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード」(Once Upon a Time in Mexico・2003・米)……とそうそうたる作品が並ぶ。出演した作品は20本以上とか。ハリウッド・デビューもした大ベテランだ。

 その社長の美人な娘ポリーナには、アナ・クラウディア・タランコン。TVを中心に活動してきた人で、2003年当たりから劇場映画の出演が多くなってきている。ハリウッド作品で主演も演じているが、日本公開されていないようだ。本作では全裸になってがんばっている。

 ポリーナの母親で、物に動じない社長夫人カブリエラ・カボスは、イギリス出身のジャクリーヌ・ヴォルテール。モデル出身で、歌手やダンサーを経て女優になったらしい。すでにメキシコに住んで30年以上とか。モデル時代はシャネルやマリー・クワントなどの仕事をしていたそうで、どうりでスマートなわけだ。

 誘拐を思いつくボチャは、ラウル・メンデス。2000年くらいからTVで活躍を始め、2003年からは劇場作品が増えている。「レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード」にも出演しており、キレた演技はなかなかの迫力。うまい。いい味を出している。

 ちょっとおつむの弱そうな相棒のニコを演じたのは、グスターヴォ・サンチェス・パラという人。ほとんどTVは出ず、劇場映画にかけているようだ。ハリウッド作品にも出ていて、「マイ・ボディガード」(Man on Fire・2004・米)、トミー・リー・ジョーンズが監督した「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」(The Three Burials of Melquiades Estrada・2005・米/仏)に出演している。

 ボチャの恋人らしい美女は、ロシオ・ヴェルボ。やっぱりTVで活躍してきた人で、2000年がデビューらしいので、まだ新人の部類かも。本作が初の劇場長編映画ということになる。ハリウッド進出して欲しいなあ……っていうか、もっとスクリーンで見たい。

 もっともキャラクターが立っていた1人が、もとプロレスラーで、リング・ネームのマスカリータと呼ばれると逆上するというルベン役のホウキン・コシオ。いきなり2002年に映画でデビューしている。本作の後でTVにも出るようになり、メキシコ映画も何本か控えている。この人ももっとスクリーンで見たい。

 その用心棒役、小柄なのに「人喰い」の異名を持つトニーにシルヴェリオ・パラシオス。TVより映画の出演がはるかに多い人で、どこかで見たなあと思ったら「レジェンド・オブ・ゾロ」(The Legend of Zorro・2005・米)に出演していた。とぼけた味が素晴らしい。

 と、以上のように、とにかく登場するキャラクターが見た目も性格も個性的でそれぞれ生き生きとしていて素晴らしいのだ。展開も先が読めず、一体どうなるのかと心配になるほど。

 これをまとめた監督は1975年生まれというから、まだ30歳そこそこの若手、アレファンドロ・ロサーノ。大学を出てから製作会社で助監督を務め、2002年に監督デビュー。本作は2本目に当たるらしい。2本目でこれだから、かなりの才能の持ち主に違いない。

 ボチャが使っている銃はベレッタM92。ジャックの部屋の向かいに住んでいるうるさい鳥を飼っている男が持っているのは、たぶんKG9サブマシンガン。それも2挺拳銃状態。

 なんとなく低予算映画なのかなあと思って見ていたら、なんとアウディがスタジアムに突っ込み……。意外とお金を贅沢に使っている。たぶんデジタル合成ではなく実際にやっているのだと思うけれど、こんなことをやるなんて想像を絶している。

 オープニングの赤と白の文字がスライドするキャストの見せ方はうまい。シンプルだがキレイにまとまっている。誰がデザインしたのかわからないのだが。
 ちなみに、エンドロールが終わった後に、小さなオチが用意されているので、すぐに席を立たないように。

 初日、渋谷の劇場では先着プレゼント(たぶん100名くらい)があって、リキュールの「テキーラ・スラマ&レモン」の275mlボトル(オーストラリア産)と、東ハトのスナック菓子「暴君ハバネロ」55gパックをもらった。メキシカン・レストランのチラシも入っていたけど。

 お昼に受付をすませてておいたので、20分前くらいに着いた。整理番号順に5人ずつの入場で、100番まではロビーで待ち、それ以上は劇場外で待つらしい。すでに外で待っている人も多かった。ロビーはいっぱいの状態。

 全席自由で、15分前から入場開始。最終的には221席のほぼすべてが埋まった。これはすごい。中高年は少なめで、1/4くらいか。ほとんどは大学生くらい。男女比は最初半々くらいだったのが、最後にはやや女性のほうが多くなった。4.5対5.5くらいか。

 劇場内は全面的に禁煙。最近こういう劇場が増えてきた。吸わないボクとしては、とても嬉しい。カーテンが開いてやや明るい状態でCMと予告編が始まった。

 気になった予告編は、アフガンの実録調ドラマ「セプテンバー・テープ」。アフガンではまだ戦闘が続いており、カメラに向かってミサイルが飛んでくるシーンは本当にぞっとした。8時間分の映像がアメリカ国防省に押収されたままだという。一体に何が映っていたのか。見たいが、劇場が……。



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