2006年7月30日(日)「ゲド戦記」

TALES FROM EARTHSEA・2006・スタジオジブリ/日本テレビ/電通/博報堂DYMP/ディズニー/三菱商事/東宝・1時間55分

ビスタ・サイズ/ドルビーデジタルEX、dts-ES



http://www.ghibli.jp/
(入ったら音に注意)


世界各地で異変が起こり、自然界の均衡が崩れつつあった。そんな時、父王(声:小林薫)を刺して剣を奪った王子アレン(声:岡田准一)は、国を棄て放浪の旅に出る。そして魔法使いの大賢人ハイタカ(声:菅原文太)に出会い、一緒に旅をすることになる。

72点

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 うーん、感動的な作品であることは間違いないが、完全燃焼しきれない何かがある感じも。そして、ほとんど大人向けの内容で、小中学生くらいには難しいかもしれない。腕が切り落とされて飛ぶし。歌は良いなあ。宮崎アニメの雰囲気もちゃんと継承はされている。

 ただ、話がとても個人的なレベルで進行し、最後の戦いも個人的なまま1対1の対決になるので、スケールが小さいままで終わってしまう印象。そしてせっかくのファンタジー世界で、魔法使いがいるのに、奇想天外な魔法合戦とかもない。魔法はやたらに使ってはいけなくて、主人公の剣は魔法の力がかかっていて抜けないと来た。うむむ。

 物語の前半で興味を惹く課題が掲げられるのに、いくつかは解決されないまま終わってしまう。ということは、続編が作られそこへ持ち越されるということか。影とはいったい何なのか? ラストにどうなったのか?

 それにしても、ジブリ作品として世に出す、しかも世界的な巨匠・宮崎駿の息子としてアニメ作品を世に出す、というのは、最初からハードルが高くて大変なのではないかと思う。絶対に比較される。大作だからガンガン宣伝もされるし、嫌が上にも注目される。そうすると見る方は最初から、映画を楽しむのではなくて、どこかに不手際がないかと批判するつもりで見てしまう。たいてい、こういう映画は公開直後から批判的な感想ばかりがあふれ返る。たぶん、同じくらいの出来で、ジブリ作品でなく、宮崎姓でもなかったら、きっと言われないだろう悪口雑言。それにあえて挑むとは……。

 気になったのは、なぜ宮崎駿作品のキャラクターを使ったのか。似ているというレベルではなく、そのままの引用という感じ。サービスだったのか……。

 答えはここにあった。宮崎吾朗監督は宮崎駿監督の長男で、設計事務所で都市緑化などの企画・設計を手がけたあと、ジブリ美術館をデザイン。その運営会社に移り、館長となってから「ゲド戦記」のスタッフとして加わった。それが、リーダーシップと絵が描けることから監督ということになったらしい。つまりオリジナルのキャラクターは持っていないのだ。

 あともう1つ気になったのは、冒頭の街シーンの背景が粗いような……描き込みが足りないのか、小さい絵を拡大しているのか。それ以降はあまり気にならなかったが……。ツルツルの床に姿が映るなど、細かい点にも気を遣っているのに。

 それにしても、声優陣が豪華。主人公アレンがV6(だったっけ?)の岡田准一、テルーは新人だが、ハイタカが菅原文太、魔法使いクモ(女と思っていたが男だったらしい)が田中裕子、その手下のよく見るキャラのウサギが香川照之、ハイタカの古い友人らしいテナーが風吹ジュン、父の国王が小林薫、ほんのチョイ役のベール売りが倍賞美津子、覚せい剤のようなハジアを売っている男が内藤剛志、一言くらいしかセリフのない母王妃(なんとなくクモに似ているような)が夏川結衣……という具合。すごい。ちょっと普通の声優さんがかわいそうな気もするほど。

 主題歌のようになっている挿入歌「テルーの唄」は抜群。萩原朔太郎の「こころ」に着想を得たという宮崎吾朗監督による詩も良いし、谷山浩子の曲も覚えやすくて心にしみる。ただ、あえて深読みをすると、孤独を歌ったようなこの唄は、超有名人を父の持った子供の孤独のようでもあるなあと。さらに言うと、本作の父殺しというのも、超有名人を父の持った子供の話、宮崎吾朗監督自身のことのようにも思えてくる。

 音響はとてもクリアで、聞き取りやすく迫力もあり、立体的。さすがにドルビーデジタルEXとdts-ESで作っているだけのことはある。銀座の劇場がどちらで上映していたのかはわからないが。これはデジタル・サウンドの劇場で見ないと損。

 一部、複製防止のドットのようなものがあるシーンがあったような気がしたが、ついに日本でも導入なのだろうか。ちょっとじゃまだなあ……。

 公開2日目の2回目、銀座の劇場で前日に座席を確保しておいて20分前くらいに着いたら、まだ開場しておらず、入り口前に人がたまっていた。30〜40人いただろうか。15分前になってやっと開場。ロビーは入場する人、トイレへ行く人、売店に並ぶ長い列で大混乱。とくに売店の列は長くなり、ロビーを横切って場内にまで。突っ切らないとトイレに行けない。やれやれ。

 全席指定で、カバーのかかった席が12席×2列。ここは高いらしい。予告が始まった時点で668席に、7割くらいの入り。下は小学生連れのファミリーからいた(1割くらい)が、内容的に小学生には難しいのではないだろうか。かなりシリアスで、雰囲気もちょっと暗い。上は髪の白い老人まで、ほぼ満遍なくいた。男女比はほぼ半々。これは宮崎父アニメの特徴だが……。

 予告編中に続々と入ってきて、ちょっとジャマ。最終的には8.5割ほどの入り。なかなかではないだろうか。カバーの席もほぼ前席埋まった。

 気になった予告編は……上下マスクで韓国映画の「サッド・ムービー」。キャッチ・コピーの「愛はどうして終わる瞬間に一番輝くんだろう」がグサリと来る。うまいなあ。曲も雰囲気タップリで素晴らしい。コリャ、泣いちゃうなあ、きっと。「デイジー」のチョン・ウソンと「猟奇的な彼女」のチャ・テヒョンが出てるもんなあ。


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