2006年8月5日(土)「ハードキャンディ」

HARD CANDY・2005・米・1時間43分

日本語字幕:手書き書体下、稲田嵯裕里/シネスコ・サイズ(with Panavision)/ドルビーデジタル(IMDbではdtsも)

(日R-15指定、米R指定)

http://www.hardcandy.jp/
(入ったら音に注意。全国劇場案内もあり)


プロ・カメラマンのジェフ(パトリック・ウィルソン)は、インターネットのチャットで知り合った14歳の少女ヘイリー(エレン・ペイジ)と外で会い、自宅に連れ込む。しかしヘイリーに薬物を飲まされて気を失い、気が付いた時はイスに縛りつけられていた。ヘイリーは変態の男を去勢するとナイフを取り出す。

74点

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 気持ち悪い。けどスゴイ映画。若干くどい感じがするが、結末を読ませず、中盤〜ずっと緊張感が持続する。そしてラストはハッキリ描かず観客の判断に任せられる。しかも映画はすべてを描き切っていない。少女は一体誰なのか。オカルトチックに解釈すればロリコン殺人鬼の犠牲者の霊という考えたも出来るだろうし、深読みすると事件の関係者、被害者の親戚とか兄弟とか親友……。単純に考えれば、ロリコン殺人鬼を憎む一般少女ということだろうが。

 うまいのは、2人が外で会うとき行方不明の少女のポスターが貼ってあり、これがのちのち効いてくる構成になっていること。しかも男のほうは見た目誠実そうで、物腰も柔らか。ところが少女は自分を異常だと宣言し、攻撃を仕掛けていく。はたして、男は本当に悪人なのか、それとも少女のティーンエイジャーにありがちな極端な思い込みなのか。ハッキリわからない。たぶん男性の観客は最初ジェフを被害者として見ると思う。そして、ほとんど拷問のような仕打ちを受けるのをなんとかして助けてあげたいと思う。ところが映画が進むに従ってそれが揺らいでくる。すごいなあ。

 恐ろしい天才少女を演じたのは、エレン・ペイジ。カナダ生まれの19歳で、すでに10歳の時に出たTV番組で数々の賞にノミネートされたというのだから驚く。日本劇場公開作としては本作が初めてらしく、まもなく「X-MEN:ファイナルディシジョン」が公開される。これで一気に世界デビューとなるかも。注目の若手女優だ。

 もう1人の出演者、ケビン・コスナー似の二枚目は、パトリック・ウィルソン。デニス・クエイドが主演したリアル版「アラモ」(The Alamo・2004・米)で若きトラヴィス大佐を演じていた人だ。アメリカ生まれの33歳。ジョエル・シューマッカー版「オペラ座の怪人」(The Phantom of the Opera・2004・米/英)では、ヒロイン、クリスティーヌを怪人と取り合いする子爵を演じていた。この後にも3作くらい新作が控えている。この迫真の演技力ならそれも当然だろう。

 監督は、デイヴィッド・スレイドという人。イギリスの美術学校を卒業後、ミュージック・ビデオの監督をしてきたらしい。その手腕の評価は高く、賞のノミネートは60をくだらないという。短編を1本手がけた後、本作で劇場用長編映画の監督としてデビューを飾った。そして、実力を認められ、現在サム・ライミ監督のプロダクションで次作の製作準備に入っているらしい。まあ当然といえば当然か。

 脚本はブライアン・ネルソン。これまでTVで活躍してきた人で、イエール大学とUCLAの優等学位を持つという秀才。やはり本作が劇場用長編映画デビュー作であるらしい。次作はデイヴィッド・スレイドと一緒にサム・ライミ監督のプロダクションで製作準備中とか。

 男の家にはいざという時のために銃がベッドの下に箱に入れておいてある。これがまたドラマを盛り上げることになる。その銃はベレッタM92。確かにこれならどこにでもありそうだ。ただ、ところどころハンマーが起きていないカットがあって気になったが……。それより怖いのは、女の子が「今度、大声を出したら漂白剤を口にスプレーするから」というヤツ。そして本当にやる。これは怖い。

 明らかに低予算映画だが、工夫次第でここまで面白くできるというのが素晴らしい。わずか18日間で撮影されたらしい。自主映画に携わっている人達には励みになる実例かも。ただし、低予算とは言っても日本映画の低予算とはレベルが違うだろうけど。日本の場合は7〜10日間くらいで撮りきらなければならないわけだし……。撮影技法としてはシャロー・フォーカスを多用しているようだった。

 ちなみにハード・キャンディとは、公式ページによれば、普通のキャンディのことも指すが、勃起したペニスのことを指す言葉でもあるらしい。またヘロインの俗語とも。うーん、気安く使えないなあ。

 物語のヒントは、日本で起きた美人局事件だという。インターネットを使って女子高生がオヤジを引っかけてホテルに誘い、財布を盗んで逃げたというものらしい。たぶん日本で映画化するとしたら、事件に則して単なる美人局事件になっていたような気がする。ロリコン、殺人鬼、10代の失踪事件……などがアメリカは多いようだから、こういう話になりえるのだろう。最大のポイントは被害者と加害者を逆転させたことだが。
 ラスト、赤いフードを被って、あたかも赤頭巾ちゃんのようにヘイリーは歩いて行く。広告で言っているように「赤ずきんのオオカミ狩り」というわけだ。このへんもおもしろい。やはり日本だと発想しにくいことではないだろうか。ハリウッドには才能豊かな人材が多いにちがいない。

 オープニングの文字の見せ方は赤と白を使ったもので、おしゃれなデザイン。うまい。これから始まる映画に期待が持てる導入だ。クレジットにはタイトル・デザイナーがないので、デザインしたのはアート・ディレクターのフェリシティ・ノーヴか。

 公開初日の初回、渋谷の劇場は全席指定に変わったので、前日に確保しておいて25分前に到着。入り口前には10人ほどの行列が。老若比は半々くらいで、女性が2人。もの凄く暑い日だったが、やっと15分前に開場して場内へ。

 最終的には220席に5.5割くらいの入り。

 気になった予告編は、こま撮りえいが「こまねこ」。予告を見た限りでは面白そう。それとアニメの「秒速5センチメートル」、絵がうまいし、雰囲気がいい。




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