2006年8月14日(月)「狩人と犬、最後の旅」

LE DERNIER TRAPPEUR・2004・仏/加/独/スイス/伊・1時間41分(IMDbでは94分)

日本語字幕:手書き書体下、松田葉子/シネスコ・サイズ(マスク)/英語/ドルビーデジタル、dts(IMDbではドルビーのみ)

(スイス6指定)

http://www.kariudo.jp/
(音に注意。全国劇場案内もあり)


ロッキー山脈の山奥で暮らすトラッパーのノーマン・ウィンター(本人)は歳をとり、山が開発のため荒らされて獲物が取れなくなってきていることから、過酷な猟師という仕事を辞めて町へ降りようかと迷っていた。そんなとき、長年相棒として暮らしてきたソリ犬のリーダー、ナヌークを交通事故で失う。ノーマンの深い悲しみに同情した友人が15カ月の子犬をくれるが、それはレース犬だった。

71点

1つ前へ一覧へ次へ
 登場人物がすべて実名で自分の役を演じているという、ドキュメンタリー・タッチのドラマ。そのためか、大自然は素晴らしいのだが、登場する主要な動物たちはいずれも芸のできるタレント動物で太っており、大自然で生きるリアルというか精悍さはない。しかも、ストーリーが日記的で、いまひとつメリハリに欠ける感じ。起承転結がないというか。

 主張はハッキリしている。大自然は人間が手を貸して生態系のバランスを保たないとと荒野になってしまう。しかし、摂理に逆らって過剰に手を加えれば簡単にバランスは崩れ、大自然が崩壊してしまうと。

 ハリウッドが作れば、有名俳優が出演して偏屈な山男を演じ、自然を荒らす開発業者のボスが現われて対決となるか、大自然から手痛いしっぺ返しをくらい危機に陥ったところを主人公から助けてもらう、なんていう話になるのではないだろうか。たぶんそれはそれで、パターンだが、そこそこ感動的な話になるはず。そこをヨーロッパ資本の本作は、そうはしない。ちょっと哀愁を帯びた感じで、過酷な毎日をむしろ淡々と描いて行く。だから作り物なのに、ドキュメンタリーと錯覚するようなリアルさがある。ただ、演技は、そんなに必要ないとしても、どこか違和感があって、いまひとつ感情移入できない気もする。動物とスタッフ以外、全員シロートなんだから。

 主役のノーマン・ウィンターという人は、本物のトラッパーで、今も山で猟をして暮らしている伝説的人物なんだとか。ちょっとバート・ランカスターっぽい感じのタフ・ガイ。本当に自然を愛し、プロの猟師なんだろうなと思わせる雰囲気をブンブン発している。こういう人と一緒なら安心してどんな山へも入って行けそう。ボクの師匠、アラスカのウッディ小林さんの雰囲気とどこか似ている。ウッディさんは罠を仕掛けて猟をするトラッパーではなく、猟銃を使うハンターなのだが。

 共通しているのは、やはり自然と共生して暮らしている人達は、自然の怖さもありがたさも良く知っているということ。本当に地球の自然はどうなってしまうんだろうか。アラスカも永久凍土が溶け出して、道路が波打ちだしているという。今年6月に行った時、あちこちで道路工事をやっていた。

 ノーマンが使っている銃器はたぶんウインチェスターM94。カウボーイのようにガン・ブーツに入れて馬の鞍に着けている。銃身の短いトラッパー・モデルではなかったと思うが……。そして、後半に使うのは、なんとイギリスの制式軍用銃SMLEライフル。それも銃身の短いNo.5のジャングル・カービンだったような気がする。

 心に残る言葉もいくつも用意されている。例えば「動物を殺し皮と肉を取る。しかし許しは請わない。感謝するのだ」とか、「生きるとは、生をつなぐこと」とか、ずっしり来る。「TVや映画の中のように、狼は人を襲わない」というのは驚きだった。犬は狼から憎まれていて襲われるので、飼い主は犬の側から離れてはいけないのだそうだ。

 脚本・監督はニコラス・ヴァニアという人で、フランス生まれの44歳。自身、冒険家だそうで、シベリアやアラスカを舞台とした実体験に基づく小説や短編映画を作っているらしい。今年3月、犬ぞりでシベリアを横断したのだとか。

 本作はドキュメンタリー・タッチということもあってか、画調はややハイキーで生々しい感じ。重厚さはないが、作り物っぽさはない。雪のシーンも多いので、画面が白っぽくなるのはしようがないのだろう。

 丸太小屋の作り方はとても興味深かった。

 ちょっと気になったのは、画面下の字幕の部分のピントがあまかったこと。読みにくかった。

 新宿の劇場は全席自由なものの定員制なので受付が必要。公開3日目の平日の初回、お盆休みのせいか意外に混んでいて、30分前で51番。最終的には340席の8.5〜9割が埋まった。これはビックリ。すごいなあ。

 観客層は、下は小学生連れのファミリーからいたが、多いのは中高年というか高齢者が目立つ感じ。男女比は4.5対5.5くらいで、やや女性が多いか。ぴあ席が2席。場内でサンドイッチとホットのレギュラー・コーヒーを売っていたので、買ってしまった。うまかった。が、ここのシートは硬い。シリが痛くなる。

 気になった予告編は、「ルイーズに訪れた恋は…」はまあラブ・ストーリーなのだが、39歳の女性の前に死んでしまった昔の恋人とソックリで、名前も同じ15歳年下の男が現われるというもの。面白いかも。車イスのバスケは過激なのでこう呼ばれていたという「マーダーボール」には驚いた。しかもドキュメンタリーらしいし。上下にマスクがついて始まったのは、アンソニー・ホプキンスの「世界最速のインディアン」。バイクで世界最速を目指す老人の話らしい。「年寄りは死ねばいいと思っているんだろう。冗談じゃない」このセリフが素敵だ。見たい。ジャック・ブラックが子供たちのために覆面レスラーに扮する「ナチョ・リブレ」。感動のコメディらしく、なかなか面白そう。


1つ前へ一覧へ次へ