2006年8月15日(火)「ユナイテッド93」

UNITED 93・2006・仏/英/米・1時間51分(IMDbでは91分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/字幕監修:石川潤一/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35)/ドルビーデジタル、dts(IMDbではSDDSも)

(米R指定)

http://www.united93.jp/
(音に注意)


2001年9月11日、いつものようにユナイテッド航空93便は乗客を乗せ、ニューアーク空港からサンフランシスコへ向けて出発しようとしていた。しかし同空港は朝のラッシュ時で、前に15機もの離陸待ち状態だった。30分遅れで離陸したころ、ニューヨークの世界貿易センタービルへアメリカン航空11便が突っ込んだ。さらにユナイテッド航空175便が世界貿易センタービルへ突っ込む。そのころ、ユナイテッド航空93便では乗り込んでいたテロリストたちが行動を起こそうとしていた。

76点

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 怖い。まるでハイジャックされたユナイテッド航空93便に自分が乗り込んでいるかのような恐怖。そして、あのような状況で、果たして自分は行動を起こせるのか。少ない望みにすべてを掛けて、全力を尽くせるか……。たぶんボクは何もできないのではないか。実話であり、アメリカ人の凄さを感じさせる逸話だと思う。

 映画でも描かれているように、アメリカン航空77便もハイジャックされペンタゴン(国防総省)に突っ込んでいる。つまり4機がハイジャックされたのだが、ユナイテッド93だけが乗客の協力によってテロリストの狙いは阻止され、目標に到達しなかった……。乗員乗客40名の尊い命と共に散った。

 おそらく、これはユナイテッド93の離陸が遅れ、機内電話や携帯電話などで他機より多く情報が乗客に伝わったこと、あせったテロリストたちがリーダーの指示を待たずに早く行動を起こしてしまったために、乗客たちに相談し団結する時間を与えてしまったことなどが重なって、テロリストから飛行機を奪還するという奇跡が行なえたのだろう。たぶん、他機もそんなチャンスがあれば、おそらくアメリカ人だったら行動を起こすのではないかと思う。日本人はどうだろう。少なくともボクは……。

 アメリカ人は飛行機に乗る時も、フライト・アテンダントの挨拶にちゃんと応えて挨拶する人が多い。本作でもそんなシーンがある。飛行機に限らず、スーパーのレジでもそうだし、コーヒー・スタンドでもそう。日本の場合は、店員などの仕事上の挨拶は、セリフに近く心がこもっていない……ような気がしてたいてい聞き流す。客は挨拶されるのが当然という考えもあるのだろう。そんなこともあって、アメリカ人は知らない同士がすぐに仲良くなり(上辺だけかもしれないが)、団結力も強い……感じがする。

 実話であり、まだ深い悲しみが生々しく残っている事件なので、話に演出を加えるということはできなかったのだろう。ほとんどドキュメンタリー・タッチで仕上げられている。画調もちょっと色が浅めでビデオっぽい感じ。過剰に悲しみや怒りをあおり立てるようなことはせず、淡々と事実を重ねて行く。だから怖い。

 ググッと来たのは、もう最後の手段に出るしかないとなったとき、多くの人が機内電話や携帯電話で家族に愛しているというメッセージを伝えるところ。これも、やっぱり日本人は「愛してる」とは言わないだろうなあ。「誰々をよろしく頼む」とか「家族仲良く」とか。

 脚本を書いたのは、監督でもあるポール・グリーングラス。公式サイトのプロダクション・ノートによれば、事実のリサーチと関係者の遺族へのインタビューと協力要請で、可能な限り事実に忠実に描いたという。さらに地上からの視点を追加するため民間および軍関係者にもインタビューを行なった。そして、実際、航空管制官の中には一部本人が出演している。役者さんもあまり有名な人や個性的すぎるような人は出ていない。

 FAA(連邦航空局)の責任者ベン・スライニーは本人が演じている。FAAの職員は5万人だそうで、アメリカでは1日に20万回の離着陸を管制しているのだとか。映画でも、当日の事件当時、4,200機が飛んでいると言っている。アメリカの空は過密状態なのだ。

 テロがもたらす悲しみの連鎖。一体テロによって首謀者たちにどんなメリットがあるのか。

 辛い映画だが、そこに描かれているのが怒りや悲しみだけではなく、人間は協力して悪に立ち向かうことができるのだという前向きなメッセージと希望だから、打ちひしがれて劇場をあとにするようなことはない。ただ自分自身がそうできるのかという大きな問題を突きつけられるのだが……。

 公開4日目のお盆期間中の平日、9時からの1回目、40分ほど前に着いたら15人くらい、雨模様だったので階段に列ができていた。35分前くらいに開場になって場内へ。初回のみが全席自由。ただし基本的に予告編はなし(今回は「マイアミ・バイス」のシネスコの予告があった)。

 最終的に183席のほぼ9割くらいが埋まった。朝早いというのに、これは驚いた。ほぼ中高年。20〜30代は3〜4人くらいだろうか。男女比は半々くらい。


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