2006年8月20日(日)「花田少年史 幽霊と秘密のトンネル」

2006・バップ/読売テレビ/読売新聞/報知新聞/読売エージェンシー/松竹/STV/MMT/CTV/HTV/FBS・2時間03分

ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル



http://www.hanada-shonen.com/
(音に注意。全国劇場案内もあり)


9歳の男の子、花田一路(須賀健太)は、海の近くで、タクシー運転手の父、大路郎(西村雅彦)と、元気な母親、寿枝(篠原涼子)、中学生の姉、徳子(大平奈津美)と、ひょうきんな祖父も徳路郎(上田耕一)と暮らしていた。ある日、友達の壮太(松田昂大)と遊んでいて、トラックにはねられる。九死に一生を得た一路は、それから幽霊が見えるようになるが……。

76点

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 面白い。感動した。涙がちょっと……。子供向きのようでいて、意外にヘビーな内容。基本はちょっとノスタルジーを感じさせる、明るく軽いタッチのコメディなのだが、描かれているのは母の再婚だったり、父が猟師をやめたわけだったり、父と母の過去だったり、薄幸の少女だったり……。主に大人たち原因の問題。子供たちもその問題に直面して、真剣に悩む。何も考えていないように見えて、子供たちだって悩み、考え、苦しんでいるのだと。大人からはなかなかそれが見えないだけ。その姿がけなげで……。大人はできるだけ子供にこんな思いをさせないようにしなければと思わせる。いじめとか友達関係とか、子供は子供の問題があり、小さな心を痛めているのに、大人の問題で子供を悩ませるのはかわいそう。

 原作は、漫画家の一色まことが講談社「ミスターマガジン」(現在休刊)に1994年から連載した「花田少年史」。1995年度第19回講談社漫画賞受賞。2002年にTVアニメ化され、日本テレビの深夜枠で放送された。これは東京国際アニメフェア2003、第8回アジアン・テリビジョン・アワードなどで最優秀賞を獲得している。うーん、これは見たい……お得なDVD-BOXが期間限定で発売中だが……19,740円かあ。

 「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005)で火がついた昭和ノスタルジー路線。舞台は瀬戸内海、広島県の忠海(ただのうみ)というところ。時代としては現代ということになっているが、「ドロクエ9」というゲームが発売されたころという設定。庭があって、縁側があって、夏はすだれをたらして窓を全部開け放っているという昔スタイル。おじいちゃんも一緒に暮らしているし、子供はわんぱくで元気だし、親は子供を叱り飛ばすし、どこか懐かしさを感じさせる設定。今もこんなところ、あるんだろうか。

 うまいのは、ギャグがあまり滑らず、コメディとしてちゃんと成立していることとと、幽霊がテーマであるだけにホラーとしても全体の雰囲気を崩さない範囲でちゃんと怖いこと。幽霊の部分までおちゃらけてしまうと、たぶん感動が生まれない。生まれてもレベルが低い。いいバランスで怖い。そして、幽霊たちにはそれぞれ事情があって、この世に残っている。その思いが感動的だ。もす少し怖くても良かったくらい。

 そして、映画らしく、最後にはどでかいスケールの対決にまで発展し、デジタル・エフェクト使いまくりのクライマックスへ。この辺は日本映画の発想を超えているかもしれない。

 残念だったのは、まさにそのデジタル・エフェクト。クライマックスのエフェクトはあまり気にならないが、それより前の部分は、背景と合成するもののアングル(画角、レンズ)が合っていなかったり、ライティングが合っていなかったり、エッジがキレイでなかったり……アナログっぽいというか一昔前というか、TVっぽいというか……うむむ。

 頭をツルツルにしての名演で一路を演じたのは、天才子役「ALWAYS三丁目の夕日」(2005)の須賀健太。今年12歳の小学生。とてもその幼さとは思えない演技力。フジフィルムのTV・CMの素朴な少年もうまいし。

 江戸っ子みたいなさっぱりとした肝っ玉かあちゃんを演じた篠原涼子はハマリ役という感じ。すばらしい。「THE有頂天ホテル」(2005)も良かったが、さらにいい。

 そして、良いのが一路の友達の壮太役の松田昂大。須賀健太と同じセントラル子供劇団所属。役柄にピッタリ。素朴な感じの演技もうまい。彼の真っ直ぐな感じが大人を泣かせてくれる。これまで映画では「機関車先生」(2004)に出ているらしいが、今後にも期待したい。

 コミカルかつ嫌なヤツで、しかも恐ろしい霊を演じたのは北村一輝。「あずみ」(2003)でひときわ輝いていた人。確かあの「スカイハイ劇場版」(2003)でもひとり目立っていたのではなかったか。うまいなあ。特殊メイクも凄かった。

 幽霊役の安藤希もなかなか良かった。ちょっとオバサンっぼの見えたところもあったけれど、幽霊役だからしょうがないか。暗く沈んだ感じがそれらしい。でも笑うととてもかわいらしくて、地なのだろうがこれはカワイ過ぎてさすがに違和感があった。デビューは「ガメラ3邪神〈イリス〉覚醒」(1999)だそうで、翌年「さくや妖怪伝」(2000)で主役を演じていた。どこかで見たと思った。それ以降あまり見た記憶がないが、17歳でデビューして、もう24歳。それでもセーラー服に違和感はなかった。

 監督は水田伸生。日本テレビのディレクターから劇場作品「MAKOTO」(2005)や「いらっしゃいませ、患者さま。」(2005)のプロデューサーを経て、本作で劇場作品監督デビュー。うまい。今後の作品も期待したい。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は40分前に着いたら25人ほどの列。小学生くらいの子供を連れたファミリーが5組くらい、高校生くらいが2人、後は中高年。20代〜30代がいない感じ。男女比は4.5対5.5くらいで、やや女性が多いか。

 35分前になってボックス・アフィスが開いたが、当日券の販売と前売り券と当日券との引き換えがあり、銀座シネマカードのチェックまであるのに、1人しかいないので時間がかかっている。列は30〜40人くらいに。入るのに10分ほどもかかった。暑い日で、みんな強い日差しの中待っているのに……。途中から2人になって流れ始めたようだが。

 スクリーンはビスタで開き、場内案内が流れていた。最終的に435席に4.5割くらいの入り。舞台あいさつのあった翌日ということで少ないのかも。もっと入って良い映画だと思うし、大人が見ても充分楽しめるっていうか、泣ける。

 予告では、ジャック・ブラックの「ナチョ・リブレ」が面白そう。どこかで聞いたような話をいくつかくっつけただけ、という感じもしたが、予告編の雰囲気とジャック・ブラックのキャラクターが魅力的。日本映画「地下鉄に乗って」は、ないようがあまりわからず、どうなんだろう。原作は素晴らしいらしいが、先に読むとたいていがっかりすることになるので読まない方が……。


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