Metro ni Notte


2006年10月22日(日)「地下鉄〈メトロ〉に乗って」

2006・ギャガ・コミュニケーションズ/ジェネオン エンタテインメント/テレビ朝日/メ〜テレ/電通/松竹/IMAGICA/LDH/アドギア/ミコット・エンド・バサラ/デスティニー・2時間01分

シネスコ・サイズ/ドルビーデジタル



http://www.metro-movie.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)


小さな下着メーカーの営業マン、長谷部真次(堤 真一)は、ある日、地下鉄で在りし日の兄にソックリの人影を見かけ、後を追う。そしてある出口を出るとそこは東京オリンピック開催を間近に控えた1964年10月5日だった。それは兄が事故死した日で、真次は兄を追い、オジだと名乗り今日は家に帰ったら外に出ないようにと言い聞かせて家に送り届けるが……。

72点

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 メトロがキーになっているレトロな味付けの感動作。さすが「鉄道員〈ぽっぽや〉」の浅田次郎原作だけあって、グッとくる。まわりでもけっこうグシュグシュ聞こえていた。

 ボクは原作を読んでいないので、どこまで原作に忠実なのかわからない。ただ、どうにも気になったのは、最後に誰かが犠牲になることで現在が変わってしまうという大どんでん返しは、どうにも納得しにくく、スッキリしない終わり方だった。そのため、なんだか暗い気持ちで劇場を後にせざるを得なかった。

 父親がまだ父親になる前の昭和にタイムスリップし、父親の人生の一部を垣間見ることによって、父を初めて理解し、許せるようになるというコンセプトは非常に面白い。ただ、なぜタイムスリップが起るのか、なぜ主人公の長谷部真次とその愛人のみち子だけがタイムスリップするのか、なぜ父親の過去だけなのか……などは一切明かされない。「地下鉄は思った場所へ自在につれて行ってくれる」という恩師の言葉があるだけ。それはタイムマシンのようなものだという感じだろうか。

 映画の進行に従って、観客も真次と同時に不条理なまでの父、佐吉の別な一面を知り理解していくことになるのだが、それでも母親(妻)や子供たちに対してとった行動は理解できない。理由があったことだけはわかったが。

 それぞれの時代感はものすごく良く出ていたと思う。満州の戦場はいかにもという感じで違和感があったが、九六式軽機関銃らしいプロップは良くできていた。ちゃんと薬莢が飛び、電着らしいマズル・フラッシュがキレイに出ていた。それ以外、戦中の銀座線、戦後の闇市、昭和39年(1964年)の中野・鍋屋横丁などは素晴らしい。こりゃ、お金掛っているんだろうなあ。

 しかもシーンのつなぎが地下鉄のトンネルの映像。バックすると現代に戻る。前に進むと過去にさかのぼる。なかなかわかりやすく、うまい編集。

 ちなみに米軍の横流し品を奪う場面で使われていた銃はFN380。

 気になったのは、初めてタイムスリップし、家に電話をかけるのに携帯を使わずわざわざ道端の赤電話を使うこと。営業職で、あきらかに携帯を持っているのに、なぜ。過去の家に電話したのかと思ったら、現代の母親に電話してるわけだし……。

 とにかく真次役の堤 真一がいい。変に力が入らず、自然な感じがとてもリアル。「ALWAY三丁目の夕日」(2005・日)での評価が高いようだが、ボクは「MONDAY マンデイ」(1999・日)とか「姑獲鳥の夏」(2005・日)とか本作が良かったと思う。

 愛人役の岡本 綾は、いかにもそんな雰囲気。ヒマワリとはちがう、ちょっと日陰に咲く花の感じが見事。しかも、ラストの方で一気にすべてをかっさらっていく。なかなか怖かった「学校の怪談」(1995・日)でも、最後に消えてしまう少女を演じていた。「あずみ」(2003・日)では女旅芸人やえ役で、出番はそんなに多くないのに強い印象を残した。キラキラ輝いていたもんなあ。

 監督は、オバサンvs悪ガキの壮絶な殺し合いを描いた傑作「昭和歌謡大全集」(2002・日)を手がけた篠原哲雄。話題作「天国の本屋〜恋火」(2004・日)の監督もやっているらしい。1962年生まれというからまだ若い。よく戦中の銀座線、戦後の闇市、昭和39年(1964年)の中野・鍋屋横丁などが描けたものだと感心させられた。どのくらい正確なのかはわからないが……。

 撮影は、屋外ロケ以外、色が濃い。映画らしい絵。アベイラブル・ライトの場合、どうしても浅い絵になるようだ。予算があって、日中ロケでもガンと光を当てることが出来たら色の濃い絵が撮れるんではないだろうか。そのため画調はちょっとバラバラの印象。

 「あの頃は〜」と歌う主題歌は素晴らしい。実にいい雰囲気。salyuの「プラットフォーム」というらしい。

 公開2日目の初回、前日に座席を確保しておいたので、25分前に着いたら銀座の劇場はすでに開場済み。2F席は、浅田次郎ファンとレトロからだろうか、老夫婦が多い感じ。若いカップルは少なかった。

 15分前から案内が上映され、最終的には2Fは6割ほどの入り。男女比は半々で、若い人は2割くらい。話題になっている割には少ないかも。

 新しい予告編は、リリー・フランキー原作の「東京タワー」、井ノ原快彦と岡本 綾の「天国は待ってくれる」(どこかで聞いたようなタイトル)、またまた浅田次郎原作の「椿山課長の七日間」(これも天国が待ってくれる話)、吉川英治新人文学賞を受賞した「幸福な食卓」……などなど。でも一番気になった新しい予告は、ウェンツ瑛士の実写版「ゲゲゲの鬼太郎」。これは見たいかも。

 それ以外では、日中韓合作の「墨攻」が気になった。


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