Thank You For Smoking


2006年10月22日(日)「サンキュー・スモーキング」

THANK YOU FOR SMOKING・2006・米・1時間33分(IMDbでは米版92分)

日本語字幕:手書き風書体下、松浦美奈/シススコ・サイズ(レンズ、In Panavision)/ドルビー・デジタル

(米R指定)

http://www.foxjapan.com/movies/thankyouforsmoking/
(入ったら音に注意。全国劇場案内もあり)


タバコ研究アカデミーに所属するロビイストのニック・ネイラー(アーロン・エッカート)は、ディベートの名人で毎日タバコ反対派との論争の矢面に立たされているが、いつも自分の有利に持っていくことができていた。しかし、ある日、女性記者のヘザー・ホロウェイ(ケイティ・ホームズ)の取材を受けて親しくなり、ベッドを共にすることに。そしてピロー・トークで言ったことを全て記事にされ、人生最大のピンチに立たされることになる。

73点

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 笑った。おもしろい。タバコ産業vsタバコ反対派の戦いを、うまくデフォルメして、明るいコメディにまとめ上げている。しかも、劇中いっさい喫煙シーンを入れないでそれを描いているのだからスゴイ。

 テーマとしてはタバコだが、実際にはタバコよりむしろディベートというか、主人公の巧みな話術によって、窮地をチャンスに変えていくような技にスポットがあたっている感じ。禁煙が進んでいるアメリカならではの映画かもしれない。でも、日本でも充分に笑える。ロビイストというのはこんな仕事をやっているんだと感心した。モッズ・スクワッド(Merchant of Reath=死の商人、の頭文字から)としてアルコール業界のロビイスト、銃器業界のロビイストも仲間として登場するのが、また笑わせる。

 驚くべきは、当然ディベートの技術で、相手を負かす必要はないんだと。まわりを納得させれば良いんだと。自分の息子にもその技術を教える。アイスのチョコ派とバニラ派でやって見せる。

 つまり、アメリカなどではハッキリ害があるものとして認識されている悪者のタバコ(喫煙)をいかに弁護するか、その技術……ディベートのすごさ(と恐ろしさ)を見せる映画、というふうに感じた。この技術に優れた人なら、ほとんど現行犯で捕まったような殺人犯でも、無実にできるかもしれない……実際にアメリカではあったようだが……というお話。笑ってばかりもいられないのでは。

 そして、スポットを浴びていた人が、ほんのちょっとしたことで葬り去られてしまう、生き馬の目を抜くような過酷な競争社会。アメリカ的な、学歴やコネによらない実力主義のクールな側面も描かれている。しかし、そこからはい上がるのもまたアメリカ的な感じで、すごいなあと。

 主演は、つい最近「ブラック・ダリア」(The Black Dahlia・2006・独/米)で刑事役をやっていたアーロン・エッカート。最近では地球の内部へもぐっていくSF「ザ・コア」(The Core・2003・英/米)とか、サイコ・キラーを追うスリラー「サスペクト・ゼロ」(Suspect Zero・2004・米)なんかに出ていた人。コミカルな役から、憎たらしい悪役、シリアスな役まで幅広く演じられる人。派手さはないが、今後も注目かも。

 息子役は、最近出まくりのキャメロン・ブライト。確かに、どこか説得力があって、すごい子役のような気はする。

 モッズ・スクワッドののアルコール業界ロビイストを演じているのが、「ワールド・トレード・センター」(World Trade Center・2006・米)でニコラス・ケイジ演じる主人公の帰りを待つ妻を好演していたマリア・ベロ。うまいなあ。

 タバコのパッケージのどくろのマークと毒という文字を入れろと主張する上院議員にウィリム・H・メイシー。ちょっと前、冒険活劇の「サハラ」(Sahara・2005・米)や「ジュラシック・パークIII」(Jurassic Park III・2001・米)にも出ていたが、やっぱり強烈だったのはコーエン兄弟の犯罪映画「ファーゴ」(Fargo・1996・)ではないだろうか。独特の個性と、確かな演技。新作が何本も控えている。うまい。

 タバコ業界の重鎮、“ボス”には、まさに重鎮のロバート・デュバル。「地獄の黙示録」(Apocalypse Now・1979・米)で、“ワルキューレの騎行”と共に現われ、朝のナパームの匂いが好きだというギルゴア大佐を演じていた人。たくさんの映画に出ているが、最近良かったのは感動作「ウォルター少年と、夏の休日」(Secondhand Lions・2003・米)のおじいちゃん役。スゴイ存在感。でもどこかに怖い感じがあるのが、この人の味なのだろう。

 初代マルボロ・マンで、肺ガンになってタバコ業界を訴える老人に、サム・エリオット。SFXを駆使したコミックの映画化「ハルク」(Hulk・2003・米)にも出ていたが、もともととはウーピー・ゴールドバーグの傑作アクション「危険な天使」(Fatal Beauty・1987・米)とか、ハード・アクションの「シェイクダウン」(Shakedown・1988・米)とか、「トゥームストーン」(Tombstone・1993・米)などアクション系の人。クリスマスの感動トナカイ映画「プランサー」(Prancer・1989・米)には泣かされたけど、やっぱり西部劇がよく似合う感じ。

 女の武器を使ってでも記事をモノにしようとする敏腕記者に、トム・クルーズの奥さんで有名なケイティ・ホームズ。「バッドマン・ビギンズ」(Batman Begins・2005・米)以外、「鬼教師ミセス・ティングル」(Teaching Mrs. Tingle・1999・米)とか「ギフト」(The Gift・2000・米)とか、今ひとつパッとしない感じだが……。

 多くの俳優を抱えるハリウッドの大物タレント・エージェントに、最近ご無沙汰のロブ・ロウ。一時ほどの人気はなくなったのか、ずっとTVに出ていたようで、大作ではジョディ・フォスターのSF「コンタクト」(Contact・1997・米)以来だろうか。いかにもの業界人を演じて、みごと。

 監督は、脚本も手がけたジェイソン・ライトマンという人。聞いたことのなる名前だなあと思っていたら、セントバーナード犬が巻き起こす大騒動詠歌が「ベートーベン」(Beethoven・1992・米)などのコメディで知られるアイバン・ライトマン監督の息子だとか。本作が劇場長編映画の監督デビュー作になるそうで、それまでは数々の大手企業CMを作っていたらしい。驚くことに、1977年生まれの29歳。父の働く姿をずっと見てきて、本作のジョーイ少年のように父の仕事に興味を持ち、実力をつけていったのかも。これからが楽しみだ。

 ちなみに原作はクリストファー・バックリーの「ニコチン・ウォーズ」(東京創元社刊)だとか。ちょっと読んでみたい。

 公開2日目の3回目、初回以外は全席指定なので、1時間半くらい前に行って座席確保。25分くらい前に着いたら、前回が終了して清掃中とかでせまいロビーはごったがえしていた。15分くらい前に入場となり、10分前くらいから案内の上映。シネスコで開いていたスクリーンはビスタになった。

 最終的にスタジアム形式の224席はほぼ満席。前の方の端の席なんか見にくいだろうなあ。一度見たことがあるけど。

 男女比は4.5対5.5でやや女性が多い感じ。8割は20〜30代で、意外なほど若い人が多い。誰か有名人が誉めたんだろうか。

 明るいままに上映された予告は、どれもピンと来なかったが、「敬愛なるベートーベン」は面白いかも。でも“敬愛する”じゃなくて“敬愛なる”なのかなあ。ロベルト・ベニーニは、もうお腹いっぱいって感じ。ビックリしたのは「007/ユア・アイズ・オンリー」(For Your Eyes Only・1981・英/米)の美女、キャロル・ブーケが出ている新作「オーロラ」。まだ活躍していたんだ。しかもきれいだし。ダンス・シーンがすごかった。韓国映画「ユア・マイ・サンシャイン」は、エイズに売春……予告だけで泣きそうになった。


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