Flags of Our Fathers


2006年10月28日(土)「父親たちの星条旗」

FLAGS OF OUR FATHERS・2006・米・2時間12分

日本語字幕:手書き風書体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(レンズ、Panavision Platinumほか)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定)(日本語吹替版もあり)

http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/
(入ったら音に注意。全国の劇場案内もあり)


1945年2月16日から、アメリカ軍は硫黄島への爆撃機による爆撃と艦砲射撃を開始し、ついに2月19日、上陸作戦を開始した。熾烈な戦いの後2月23日、ようやくすり鉢山の頂上に星条旗が掲げられた。この時、AP通信のカメラマン、ジョー・ローゼンタールが撮った写真が、極端な戦費不足に悩む政府の目に留まり、旗を掲げた6人の兵士をヒーローとして本土に呼び戻し、全国を回って戦争債を買うように呼びかける広告塔として使おうとする。ところが生き残っていたのは3人で、しかも実際に最初の国旗を掲げた兵士ではなかった……。

76点

1つ前へ一覧へ次へ
 辛く、悲しい物語。そして戦場のリアルな恐ろしさに圧倒された。見終わってしばらくは声が出ない感じ。しかし、泣くというのとは違う。ほかのイーストウッド監督作品のように、感情を抑え、むしろ淡々と語る感じ。しかし、それがものすごい話なのだ。

 この戦いで日本軍は玉砕、陸海軍およそ2万名が戦死した。アメリカ軍は総計約11万1千名のうち約7千名が戦死、約2万2千〜2万6千名が負傷。海兵隊、陸軍、海軍からなるアメリカ軍は単一指揮系統で史上最大規模の部隊編成であり、第二次世界大戦中に海兵隊に授与された名誉勲章の1/4ほどがこの戦いで授与されたというのだから、どれほど激しい戦闘であったかがわかる。それをスクリーンに再現した。

 戦闘シーンの雰囲気はスピルバーグの「プライベート・ライアン」(Saving Private Ryan・1998・米)に近い。ウォッシュ・アウトしてモノクロに近い感じにされたカラー、ちょっと速めのシャッター(「プライベート……」ほどではないようだが)、リアルなサウンド、残酷表現。

 てっきり戦闘にスポットが当てられているのかと思っていたが、実際にはヒーローとして全国を回らされる3人の兵士の心の葛藤にスポットを当てた作品だった。その葛藤のベースとなる地獄のような体験として硫黄島がある。

 ちなみに「硫黄島」は日本語では「いおうとう」と読むのが正しいらしく、アメリカが「いおうじま」と呼んでいるのだとか。逆かと思ったが……。

 音響は「プライベート……」でもそうだったような気がするが、飛ぶ弾丸まで表現されている。つまり、それまではバンとかドカンという発射音と、撃たれた側のリアクションがあっただけ。せいぜい地面や壁に当たるバチンとかカキーンという音が足されているくらい。「プライベート……」や本作では、空中を飛ぶ弾丸のヒュンというような空気を切り裂く音と、地面ばかりか、スチール・ヘルメットに当たるカンというような音、体に当たるバツというような音までが付けられているのだ。しかもデジタル・サウンドでサラウンド。後ろから飛んできたり、頭の上を横切ったりする。だから、弾丸が飛び交うところにいるような臨場感がある。これがものすごく怖い。

 アメリカでは、日本のR-18(18歳未満入場お断り)に相当するR指定なので、相当の残酷表現がある。体に弾丸が当たれば血しぶきが飛ぶし、手首が落ちていたり、頭が飛んだりする。浜辺の死体をLVTが轢く、腹を撃たれた兵士からは内臓がもれ、自決した日本兵の体はズタズタになっている……。日本でも年齢制限があってしかるべきだと思うが。

 原作者ジェイムズ・ブラッドリーの父、ジョン“ドク”ブラッドリーを演じたのは、つい最近、感動名作「クラッシュ」(Crash・2004・米)に若い警察官役で出ていたライアン・フィリップ。ホラー「ラストサマー」(I Know What You Did Last Summer・1997・米)にも出ていた。近日ウェズリー・スナイプスと共演したアクション「カオス」が公開される予定。奥さんは「キューティ・ブロンド」(Legally Bronde・2001・米)のリース・ウィザースプーン。

 帰国したくて結果的に嘘をついてしまうレイニー・ギャグノン(エンド・クレジットにでる本人の写真にそっくり)には、ジェシー・ブラッドフォード。あのガッカリ映画「プール」(Swimfan・2002・米)のダメ主役を演じていた人。

 みんなからチーフと呼ばれる(これって差別じゃないの)アメリカ先住民のアイラ・ヘイズには、同じく太平洋戦争を描いたニコラス・ケイジの「ウィンドトーカーズ」(Windtalkers・2002・米)のアダム・ビーチ。

 他に、戦闘中に日本軍の地下壕に落ちて拷問を受けて戦死するイギーに「リトル・ダンサー」(Billy Elliot・2000・英仏)のジェイミー・ベル。拷問シーンははなく、斬殺体も映らないが……。

 ハーロンと間違われてヒーローになり損ねた最初の星条旗を掲げたハンクに、「ワイルド・スピード」(The Fast and the Furious・2001・米独)のポール・ウォーカー。

 すり鉢山の頂上に国旗を掲げさせるチャンドラー大佐に、「ターミネーター2」(Terminator 2: Judgement Day・1991・米)のT-1000ことロバート・パトリック。部隊のまとめ役で頼りになるマイク軍曹に、「プライベート・ライアン」(Saving Private Ryan・1998・米)のサウスポー・スナイパー、バリー・ペッパー。

 それぞれちょっとずつしか出ないが、主役をはれる人ばかり。そりゃ、イーストウッドの監督でスピルバーグのプロデュースとなったら、チョイ役でも出たいという人は多いだろう。

 監督は今年76歳のクリント・イーストウッド。老いてますます盛んという感じ。すごいなあ。監督作は、本作で29本目というから、大ベテラン。次の「硫黄島からの手紙」が記念すべき30作目に当たる。もちろん俳優も続けている。個人的には監督作で言うと「恐怖のメロディ」(Play Misty for Me・1971・米)と「アウトロー」(The Outlaw Josey Wales・1976・米)が好きかなあ。最近だと「スペース・カウボーイ」(Space Cowboys・2000・米)とか。

 脚本に「アポロ13」(Appolo・1995・米)のウィリアム・ブロイルズ・Jrと、「ミリオン・ダラー・ベイビー」(Million Dollar Baby・2004・米)でアカデミー脚本賞ノミネート、傑作「クラッシュ」(Crash・2004・米独)でアカデミー脚本賞を受賞したポール・ハギス。

 銃器は米軍が当然M1ガーランド、M1カービン、トンプソンなど。火炎放射器も多用されている。日本軍はたぶん三八式歩兵銃、九九式軽機関銃、九二式重機関銃など。日本の兵器を良くそろえたものだ。さすがイーストウッド。武器係に、世界早撃ちチャンピオンになったセル・リード。反動をつけて撃っているのはこの人の指導のおかげだろう。

 公開初日の初回、新宿の劇場は65分前に着いたら0人。55分前に7〜8人になって、45分前に案内があって2列に整列。老若比は4対6くらいでやや若い人が多い感じ。これは意外。女性はオバサンが2人。

 35分前くらいになって列は50人くらいに。さらに25分前に会場となったが、この時点でどっと増えて100人以上の長蛇の列に。

 ペア・シート以外は全席自由で、最終的に1,064席の6割くらいの入り。満席になるかと思ったら、やっぱり戦争映画は、という人も多いようだ。

 予告は明るいままの上映でよく見えない。特に暗いシーンが多い作品は見えない。暗くして欲しいなあ。遅れてくるヤツが悪いんだから。「テキサス・チェインソー・ビギニング」はどうなんだろう。ちょっとタイトルが、酷かった「エクソシスト・ビギニング」みたいで嫌な予感がするが……。日本でR-15なので半端なことにはならないだろうけど。

 上下マスクの「ディパーテッド」は新バージョンに。面白そう。007も新バージョンに。見たい。

 場内が暗くなり、上映直前「終了後に『硫黄島からの手紙』の予告編があるので席を立たないように」という案内あり。それでも何人かは出て行った人がいたが……。ここの劇場は全館禁煙なので、直前までタバコを吸っていてタバコ臭い人が入ってこないので嬉しい。自分ではわからないだろうが、タバコ臭い人って、いるんだよなあ。


1つ前へ一覧へ次へ