The Wind that shakes the Barley


2006年11月25日(土)「麦の穂をゆらす風」

THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY・2006・独/伊/西/仏/アイルランド/英・2時間06分(IMDbで英版127分)

日本語字幕:手書き書体タテ、下、齋藤敦子/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル

(アイルランド15A指定)

http://www.muginoho.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)


1920年、アイルランド南部のコーク市に住む青年デミアン(キリアン・マーフィー)は、近郷一番の秀才で、医師としてロンドンで就職することになっていた。ところが出発直前に、支配者であるイギリスが送り込んだ治安警察補助部隊によって若者たちが厳しい尋問にあい、名前を英語で答えず自分たちのゲール語で答えた17歳の少年がリンチを受けて殺される。さらに出発の朝、鉄道の駅でも横暴なイギリス治安部隊の姿を見たデミアンは、ロンドン行きを諦め、兄のいるアイルランド共和国独立のための戦いに身を投じていく。

74点

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 ショッキングな映画。しかもベースは実話。世界中に植民地を持っていた大英帝国の横暴、搾取、貧困、血みどろの戦いがリアルに描かれている。人間の歴史は戦いの歴史だとよく言われるが、まさにそれを強く感じる作品。従順に従っても傷つき、逆らったら必ず傷つけられる、ならば戦うしかないという状況。

 しかも、独立ではないが完全自治を獲得した後は内戦となり、かつての戦友同士、兄弟までもが銃を向けあう悲劇に発展する。こんな大変な事態を経て今のアイルランドはあるのだということが、驚きでショッキング。知らなかった。学校で習ったとしても、こんなに具体的で詳細ではなかったはずで、勉強になった。珍しく700円もするプログラムまで買ってしまった。

 ロマン・ポランスキー監督の「戦場のピアニスト」(The Pianist・2002・英ほか)で描かれているが、第2次世界大戦中、ポーランドへ侵攻したドイツ軍もそうだったように、他国へ派遣されると、旅の恥はかき捨て的な発想と与えられた大きな権力を傘に、自国内では出来ないような横暴で残虐な振るまいが出来るのだろう。終始ヒステリックに叫びまくっている英軍は、英軍だからということでなく、普通の人間が陥るある種の異常心理状態なのだろう。本当にこんな時代、こんな状況に生まれなくてよかった。ボクは生きていけない。

 ただ、非常に長く感じた。140分から160分もあるのではないかと思ったら、126分。しかもエンディングがあっけなく、あんなに激しい中盤がありながら、これで終わり?って感じ。

 恋人が髪を暴力的に刈られてしまうのに助けにいけないシーンや、兄弟が敵味方同士として決別を迎えるシーンでは、まわりからたくさんグシュグシュ聞こえていた。テロか正義か、それは後世にならないとわからないのかもしれない。

 メインの銃はリー・エンフィールド(SMLE)のたぶんNo.1 Mk3ライフル。銃剣がものすごく怖かった。そしてリボルバーはウェブリー&スコット、コルトのポリス・ポジティブっぽいものも。水冷のマキシム・マシンガンも出ていたような。デミアンのライフルはモーゼルKar98aカービンだったようだ。

 アイルランド独立の話といえば、アイルランド出身のニール・ジョーダン監督が撮った「マイケル・コリンズ」(Michael Collins・1996・米)を思い浮かべる。あわせて見ると良いと思う。

 主役のデミアンを演じたキリアン・マーフィーはアイルランド生まれ。ダニー・ボイル監督のゾンビ映画「28日後...」(28 Days Later・2002・英)で主役をやっていた人。まあ作品がパッとしなかったので、あまり注目されなかった。その後、コリン・ファレルの「ダブリン上等!」(Intermission・2003・アイルランド/英)や、「真珠の耳飾りの少女」(Girl with a Pearl Earring・2003・英/ルクセンブルグ)、ニール・ジョーダン監督の「プルートで朝食を」(breakfast on Pluto・2005・アイルランド/英)と、いずれも日本では小劇場公開作品が続いた。大作は「バットマン・ビギンズ」(Batman Begins・2005・米)のザ・スケアクロー役か。

 兄のテディを演じたのは、ポードリック・ディレーニーという人。もちろんアイルランド生まれ。どこかで見たことがある感じなのだが、これまではTVで活躍していたらしい。

 恋人のシネード役はオーラ・フィッツジェラルド。髪を切られるシーンは壮絶。アイルランド生まれで、TVで活躍していたらしい。今後が楽しみ。

 反骨の機関車運転手ダン役は、リーアム・カニンガム。アイルランド生まれで、ちょっとフランス人俳優のジャン・レノみたいな雰囲気の人。最近では特殊部隊が人狼と闘う血みどろ映画「ドッグ・ソルジャー」(Dog Soldiers・2002・英)に出演していた。ほかに「プルートで朝食を」や小公子の映画化「リトル・プリンセス」(A Little Princess・1995・米)、ショーン・コネリーとリチャード・ギアの「トゥルーナイト」(First Knight・1995・米)などに出ている。

 地元の地主を演じたロジャー・アラムは、「Vフォー・ヴェンデッタ」(V for Vendetta・2005・英/独)にも出ていた人。

 監督は、今年70歳のケン・ローチ。意外なことにイギリス生まれだ。名前は良く聞くのに、ボクはこれまで見ていなかったりする。アート系の小劇場での公開が多かったようだ。「夜空に星のあるように」(Poor Cow・1968・英)で劇場長編作デビュー、「ケス」(Kes・1969・英)や「大地と自由」(Land and Freedom・1995・英ほか)など評価が高い。

 ちなみにタイトルの「麦の穂をゆらす風」は、アイルランドで戦友などを弔う時に歌う伝統歌。

 8日目の初回、銀座の劇場は当日の全席指定なので、朝一に座席予約しておいて15分前に到着。朝一は「フラガール」を上映。すでに開場していて、256席の7割くらいが埋まっていた。

 ほとんど中高年で、白髪が目立っていた。男女比は4対6で女性のほうが多い感じ。最終的にはほぼ満席に。これはビックリ。

 半分暗くなったくらいで始まった予告は、上下マスクでエド・ハリスの「敬愛なるベートーヴェン」(なんで敬愛するじゃなく、敬愛なるなんだろ)、ハリウッドでリメイクされるという実話に基づくフランス映画「あるいは裏切りという名の犬」はおもしろそう。ビデオ予告らしい画質の日本映画「気球クラブ、その後」はどうなんだろう。日本映画「フリージア」は「鬼畜大宴会」がどうたら、こうたら、なんだかわからなかった。ケン・ローチ監督のオムニバス「明日へのチケット」はちょっと面白そうだったが、今もやっているのか。桐野夏生原作の「魂萌え!」は、なんだか三田圭子が怖かった。ドイツ映画「みえない雲」はベストセラー小説の映画化だそうで、原発事故を描いたもの。監督は「レボリューション6」を手がけた人だそうで、それも評判が良かったらしいので、期待できるかも。でも恋人が放射能にやられるという悲しそうな設定は暗そう。

 予告が始まると携帯を開いてメールチェックするヤツが必ずいる。注意の放送を全く聞いていないし、画面の案内も見ていない。やれやれ。


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