Paprika


2006年11月27日(月)「パプリカ」

PAPRIKA/2006・MADHOUSE/Sony Pictures Entertainment・1時間30分

ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル、dts

(米R指定)

http://www.sonypictures.jp/movies/paprika/
(画面極大化。音にも注意。全国の劇場案内もあり)


精神医療総合研究所から、開発中の最新テクノロジーによる他人の夢の中に侵入できる「DCミニ」が盗まれた。悪用されれば大変な事態をまねくとして、理事長の乾(声:江守徹)から即刻開発中止が命じられる。所長の島(声:堀勝之祐)は、腕利きのサイコ・セラピスト千葉敦子(声:林原めぐみ)と開発者の時田(声:古谷徹)、所員の小山内(声:山寺宏一)らとともに捜索を開始するが……。

73点

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 おもしろい。筒井康隆の原作は読んでいないが、90分の間、夢を見ていたかのような不思議な世界を疑似体験できる。リアル・タッチのアニメは最初ちょっとだけ違和感があったが、すぐに気にならなくなった。そして90分という時間も、意外なほど短く感じず、1時間50分くらいに思えた。

 ただ、原作ゆえなのか、ちょっとわかりにくい感じはある。それが狙いなのかもしれないが、もう1回見るのはちょっと疲れそうだ。

 特に良いのは、地下秘密クラブのようにして、夢からサイコ・セラピーを行なう“パブリカ”という女性セラピストの柔らかめの話と、精神医療総合研究所で起こった盗難事件という硬めの話を同時進行させて、やがてそれがつながりあい、夢の世界と現実世界の境があやふやになっていくあたり。話はどんどんエスカレートしていって、これは大風呂敷を広げて収拾がつかなくなり、投げ出して終るのかと恐れていたら、キッチリと落とし前をつけて終ってくれた。素晴らしい。

 それぞれの人の夢の世界の映像がおもしろい。なんだか本当に他人の夢をのぞき見ているかのような錯覚に陥る。たぶん狙い通りなのだろう。このへんも素晴らしい。キャラクターもよく描かれており、特に主人公であるパプリカと千葉敦子がいい。パプリカはキャラクターどおりものすごく魅力的だ。驚くことに、このキャラクターの違う2人の女性を林原めぐみが声を当てているのだが、完全に使い分けられ違う声になっている。素晴らしい。さすがプロ。

 特別治療を受ける粉川刑事(声:大塚明夫)が映画好きという設定で、夢に映画の断片が出てくる。それは「ターザン」だったり、サーカスを描いたセシル・B・デミル監督の「地上最大のショー」(The Greatest Show on Earth・1952・米)であったり、「ローマの休日」(Roman Holiday・1953・米)だったり、「007/ロシアより愛をこめて(007/危機一発)」(From Russia with Love・1963・英)だったり。ほかにもピーター・パンやティカー・ベルが出てくるし、パンフォーカスやイマジナリー・ラインの解説まである。学生時代作っていたのは、刑事が出てくるガン・アクションものだったりする。監督の好み、体験だろうか。異常なパレードの感じや、事件の伸展のさせ方……というか全体の世界観が押井守監督の世界観に何だか似ている気がした。

 その監督は、脚本も手がけている今 敏(こん さとし)という人。1963年生まれというから先にあげた映画はリアル・タイムで見ていないはず。漫画家としてデビューして、大友克洋監督の作品に関わり、「老人Z」(1991・日)の美術設定でアニメーション映画の世界に入ったらしい。「機動警察パトレイバー2 the Movie」(1993・日)で押井守監督作品の美術設定、レイアウトを担当していた。主な監督作品に「Perfect Blue」(1998・日)、「千年女優」(2001・日)、「東京ゴッドファーザーズ」(2003・日)などがある。

 脚本は1967年生まれの水上清資。TVのアニメを多く手がけ、「妄想代理人」(2004)というTVアニメで今 敏監督と組んでいる。

 そうそう、「東京ゴッド……」もそうだったが、オープニング・クレジットとタイトルの見せ方がうまい。イマジナリー・フォースっぽいというか、「パニック・ルーム」(Panic Room・2002・米)っぽいというか。

 アニメがここまでリアルになってくると(音などはむしろ実写映画より高音質)、夢と現実の境ではないが、アニメと実写の境もあいまいになってくる。実写には多くのCGが使われており、使っていない作品のほうが少ないくらい。主要キャスト以外、エキストラや背景までCGという作品さえある。ディズニー・アニメなどは人間の動きを一旦撮影して取り込み(今はモーション・キャプチャーか)、これをアニメに反映させているし。これから公開される実験的な作品の「スキャニー・ダークリー」などは実写撮影してそれを取り込んで画像処理し、アニメのようにしているし、フランス映画の「ルネッサンス」などは中間色のない白と黒だけのハイ・コントラストな絵で、描いた絵なのか撮影したのかわからない。一体どこからがアニメなのか。面白いことになってきた。

 公開3日目の初回、平日なので30分前くらいに着いたら、新宿の劇場はなんと7〜8人が並んでいた。ほとんど大学生といった感じ。なるほど。25分前くらいに案内があって、列は12〜13人に。営業途中のサラリーマンかオヤジが2〜3人。女性は若い人が2人。15分前くらいに開場となり、全席自由の場内へ。

 最終的には218席に30〜40人くらい。平日第1回目なら多い方かも。

 予告は、前述の気になる白黒2色フランス映画「ルネッサンス」、韓国映画の王道ともいうべき「百万長者の初恋」、上下マスクでフランス映画「あるいは裏切りという名の犬」、なぜシネスコなのか日本映画の「幸福な食卓」、よくわからなかったがレズ映画?「LOVE MY LIFE」、ビデオっぽい予告の離婚映画「イカとクジラ」、これもよくわからないが「マニアの受難」はロック・バンド、ムーンライダーズの30年をつづったもの? ペットにまつわる連作の「ペットボックス」はオムニバスでないのが驚き。あまり絵がきれいでなかった香港ノワール「エレクション」はなかなか怖そう。


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