Casino Royal


2006年12月2日(土)「007/カジノ・ロワイヤル」

CASINO ROYAL/2006・米/独/英/チェコ・2時間20分(IMDbでは144分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35、with Panavision)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定、独12指定、英12A指定)

http://www.sonypictures.jp/movies/casinoroyale/index.html
(全国の劇場案内もあり)


“00”ナンバーを取得したジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、M(ジュディ・デンチ)からテロリストに資金提供している謎の人物について調査するように命じられる。爆弾魔を追って彼の携帯を手に入れたボンドは、通信記録からバハマのカジノヘ飛ぶ。そしてそこで怪しい人物ル・シッフル(マッツ・ミレルセン)に行き当たる。

73点

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 IMDbでは8.0とういう高得点。でも……うーん、原点回帰というかリアル路線に軌道修正したのはわかるが、なんだかボンド映画ではなくなってしまった印象。007映画でないのなら、これはこれでありだと思う。つまり007でなくても成立するわけで、どうなんだろうか。007でないなら、こういう映画はたくさんある。

 たぶん古いファンの人はショーン・コネリーをベストのボンド俳優に挙げると思うし、ボクもそうだと思う。しかしショーン・コネリーの時代から007映画はファンタジーだったと思う。スパイをリアルに描いたらもっとダークなものになったはずだし、そういうスパイ映画も多い。

 ただボクがリアル・タイムで劇場で見ているのは第8作の「007/死ぬのは奴らだ」(Live and Let Die・1973・英)からで、ロジャー・ムーアがユーモアとファンタジーの部分を膨らませてから。といっても、ショーン・コネリーのボンドにもちゃんとイギリスらしいユーモアとファンタジーはあった。それがエスカレートして第5作「007は二度死ぬ」(You Only Live Twice・1967・英)となり、その反動で原作に忠実にジョージ・レイゼンビーの「女王陛下の007」(On Her Majesty's Secret Service・1969・英)が作られた。それが受けなかったので、007を卒業したショーン・コネリーを再び担ぎ出して思いっきりユーモアとファンタジーの振った「ダイヤモンドは永遠に」(Diamonds are Forever・1971・英)が作られて、ロジャー・ムーアに交代する。

 たぶんショーン・コネリーが作ったほどよいイギリスらしいユーモアとファンタジーがベースというか軸にあって、常にボンド映画はリアルとファンタジーの間で揺れ動いていたのではないだろうか。ロジャー・ムーアはユーモアとファンタジーにシフトして、第15作となるティモシー・ダルトンの「007/リビング・デイライツ」(Living Daylights・1987・英/米)でリアルにシフト、第17作のピアース・ブロスナンの「007/ゴールデンアイ」(Goldeneye・1995・英/米)でまたユーモアとファンタジーに戻したから、第21作の本作で、リアルにシフトさせたと。

 だいたいリアルにシフトするとボンドは1人の女を本気で愛する。「女王陛下の007」も、「007/リビング・デイライツ」も、そして本作も。不安要素はリアルは長続きしないということだ。

 本作はボンドがダニエル・クレイグで38歳に若返ったので、本当に体が良く動いている。ピアース・プロスナンも悪くなかったが、本作のダニエル・クレイグはとにかく走る。そこに一生懸命さが良く出ている。

 アメリカ資本の方が強くなったためか、イギリス的な味がだんだん薄くなってきたような気もする。本作ではユーモアもほとんどなくなり、イギリス的(シニカル)ではない感じ。ちょっとしか笑えない。プロスナンは笑えたのに。ボクとしては、やっぱりショーン・コネリー調にもどって欲しいなあ。

 アクションを撮る多くの監督がボンド映画を目指しているところもあって、ボンドが出てこないのに本作よりボンド映画ッぽい作品も多い。ということは、プロデューサーの責任ということか。

 広告では「007が誕生するまでの物語」と言っているが、そんなことはなく、007になってからのお話。アバン・タイトルでモノクロで描かれているのが「007が誕生するまで」で、ごくわずかの時間。そして、ラブ・ストーリーがメインということになっているものの、ラストの定石部分は感動的で良いとしても、そこへ至るための恋愛ものでは一番大切な二人が親しくなっている過程がほとんど描かれていないので、ラストがいまひとつ効いてこない。だいたいショーン・コネリーの時代から、いつもボンド・ガールとラブ・ストーリーの構造は持っていた。あえてそこを言うところが

 原作は高校の頃に読んだので、もう覚えていないが、トランプによる対決はポーカーではなく、バカラだったと思うのだが。アメリカ資本が強いからアメリカ人が理解しやすいポーカーに変えたとか?

 銃はブロスナンから引き続いてワルサーP99。サイレンサーも使用。ちょっと音が小さ過ぎる感じだったけど。片手でデコックするところがプロっぽかった。ほかに、アフリカのナムブリ大使館での戦いは敵から銃を奪うが、それがどうやらFNハイパワーMK3のようだった。逃げたヤマカシ見たいな爆弾魔が持っていたのは、どうもHKのP2000のように見えた。その後、ボンドはバック・アップの銃ですごい抜き撃ちをして見せるが、それが見事。シューティング・ポーズはウィーバー・スタンス。アメリカっぽいがうまい。ラストではHKのUMPサブマシンガンにサイレンサーを付けて登場するが、官給品なのか、敵から奪ったものなのか。その前の戦いで、古いビルの中で襲ってくる奴らがサイレンサー付きUMPを持っていた。

 ラストの話の展開がよく見えない。キレも悪い。だらだら続くような印象。

 監督はピアース・ブロスナンがボンド・デビューした「ゴールデンアイ」を監督したニュージーランド生まれのマーティン・キャンベル。TV時代にあの面白いスパイ・アクション「特捜班CI☆5」を監督しているそうで、レイ・リオッタの面白いSF脱出もの「ノー・エスケイプ」(No Escape・1994・米)を撮って認められ「ゴールデンアイ」を監督している。ほかに「マスク・オブ・ゾロ」(The Mask of Zorro・1998・米)、「バーティカル・リミット」(Vertical Limit・2000・米/独)などヒットを飛ばし、「すべては愛のために」(Beyond Bosrder・2003・米/独)はちょっと重かったが、本作の前がガッカリだった「レジェンド・オブ・ゾロ」(The Legend of Zorro・2003・米)だからなあ……。

 脚本は「ミリオンダラー・ベイビー」(Million Dollar Baby・2004・米)と「クラッシュ」(Crash・2004・米)で一気に有名になったポール・ハギス。イーストウッドの「硫黄島からの手紙」(Letters from Iwo Jima・2005・米)の原案も手がけている。それを、面白かった「プランケット&マクレーン」(Plunkett & Macleane・1999・英)、「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ」(The World is not Enough・1999・米)、「007/ダイ・アナザー・デイ」(Die Another Day・2002・米/英)、ローワン・アトキンソンの「ジョニー・イングリッシュ」(Johnny English・2003・英)のコンビ、ニール・パーヴィスとロバート・ウェイドが手を入れて007映画っぽくしたのか、クレジットの順位は2人のほうが上。

 ダニエル・クレイグはアリだと思う。ただ、本作のボンド像ではシニカルなジョークはあまり似合わない。しかも助けようとした女性に助けられる。せっかく走るボンドなのに……。

 テーマ・ソング、クリス・コーネルの「ユー・ノー・マイ・ネイム」も、曲としては良いのに、ボンド映画としてはぴったり来ない感じがした。ワクワクするような感じが希薄というか……ボンド映画でなければアリだと思うけど。

 タイトル・デザインはダニー・クライマン。本作はアニメっぽい仕上げで、実写がちょっと混じる演出。これもボンド映画っぽくない。ただ、この人は第17作の「ゴールデンアイ」からずっとタイトルを担当しているらしい。でも冒頭、トイレでの射撃を銃の銃身からのぞいて、血が流れてタイトルになるシーケンスは今ひとつ。ライフリングの本数が多過ぎ。マイクロ・ライフリングのピストルってことはないだろう。

 なんと初日は映画の日で、1,000円均一の日。これだけの話題作を思い切ったものだが、おかげで最初の土曜日はそれほど混雑しなかった。公開2日目の初回、65分前に着いたら、新宿の大劇場は10人ほどの行列。ほとんど20〜30代で、40代以上は3人くらい。

 50分前に20人くらいになって、やっと女性が1人。ラブ・ストーリーって宣伝しても、女性はあんまり見に来ていない。40分前くらいに案内があって、2列に並ばされた(ハトのフンには要注意)。この時点で30〜40人くらいに。中高年が増えて老若比は半々に。

 35分前くらいに開場となり、場内へ。ペア・シート以外全席自由。最終的には1,064席の6.5割ほどが埋まった。これは多いのかどうか。ペア席は3組ほど。座る人がいるんだなあ。ビックリ。

 プログラムは大判の豪華版で800円。しかも007の秘密の本まで売っていた。欲しかったけど、3,990円じゃなあ……。多くの人が買っていたけど。

 明るいまま始まった予告編は、大久保駅の人身事故を描いた「君を忘れない」、上下マスクでイーストウッドの「硫黄島からの手紙」、さらに上下マスクで早くも7月公開の新作「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」(3人が大人になっちゃったけど)、まだまだ内容のわからないホラーらしい「パフューム」。そして「インファナル・アフェア」のハリウッド・リメイク版、上下マスクで「ディパーテッド」、豪華キャストだし、マーチン・スコセッシ監督だし、めちゃくちゃ面白そう。オリジナルを越えるかも。

 それにしても、観客のマナーの悪さ。携帯でメールチェックするヤツがあちこちに。劇場の案内というか注意など、誰も聴いていない。むしろ案内があると、「あっ、忘れていた」とばかりにチェックする。中には、遅れて入ってきて場内が暗いからと、携帯を付けてその灯で足下を確認するヤツも。やれやれ。


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