Letters from Iwo Jima


2006年12月9日(土)「硫黄島からの手紙」

LETTERS FROM IWO JIMA/2006・米・2時間21分

日本語字幕:手書き下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米R指定)

http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/
(全国の劇場案内もあり)


昭和19年(1944年)6月、硫黄島に1人の司令官が派遣されてくる。栗林忠道陸軍中将(渡辺謙)である。陸軍と海軍からなる小笠原兵団の総指揮官として赴任した栗林は、敵の上陸時を攻撃する水際作戦ではなく、地下壕を張りめぐらせゲリラ敵持久戦を仕掛ける作戦に出た。参謀や古参兵たちの反発を受けながらも、栗林は兵たちに地下壕を掘らせる。そして昭和20年2月19日、3日間の激しい空襲、艦砲射撃の後、ついにアメリカ軍が上陸してくる。

78点

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 たぶん実際の戦場であったことの何分の一かのソフトな描写なのだと思うけれど、恐ろしく残酷でリアルな戦場が描かれている。恐怖、上官の暴力、無意味な自決の強要、決死の突撃、作戦思想の衝突……そしてほとんどの一般兵士は何もしないまま銃弾や砲弾、ときには火炎放射でやられてしまう。

 全編ほぼ日本語で、出演者もほとんど日本人。アメリカ人が見たどこかヘンな日本ではなく、ちゃんとした日本像。しかも多くの現在の日本人が知らない日本の姿。何も説明されなければ、日本映画かと思うような作品。

 単なる悲惨な話でもないし、お涙頂戴でもない。戦艦大和の映画とはかなり異なる描き方。あれは違和感がアリアリだったけれど、本作はそんな感じがしない。逆に同じ日本人だから描けない部分というのがあるということか。

 劇中、負傷したアメリカ人捕虜が持っていた母からの手紙を伊原剛志演じるバロン西が読むシーンがある。それが自分たちの母の手紙と同じ内容で、がく然とする兵士たち。傑作「クラッシュ」(Crash・2004・米)のポール・ハギスが原案に加わっているだけある。戦う相手のことを知っていたら戦争はむずかしい。バロン西と栗林は留学経験があり、アメリカ人を知っている親米派。だからこそ硫黄島へ派遣されたという話もあるが……。

 劇中、日本軍が使っている銃器は当時の実銃を集めたそうで、九九式小銃などはアメリカ本土にたくさんあるだろうが(1挺200ドル前後)、九九式軽機(7.7mmの一式軽機かも)や三年式重機(あるいは7.7mmの九二式重機)なども、アメリカのコレクターからわざわざ借りて、空包を撃てるように加工した上で使っているらしい。九四式拳銃も出てきて、しかも撃っている。大砲もそれっぽいし、ひょっとしてロケットのような砲弾を飛ばしていたのは九八式臼砲か。固定砲台として使用されたバロン西の戦車(九七式?)や、栗林が赴任する時乗ってきた輸送機も本物? とにかく、これらだけでも大変なお金がかかっている。

 弾着効果なども近来まれに見るリアルさ。マシンガンの薬莢はキンキンという音を立てて飛び、トレーサーが混ぜられていて弾道がわかるし、空から振ってくる爆弾も、ちゃんと砲弾が見えて落ちたところで爆発が起きている。ただ爆発だけでなく一手間掛けているのだ。まるで高級料理のよう。家庭料理とはわけが違うと。

 色調はほとんどモノクロに近いセビア、というかごく浅いカラー。ドキュメンタリー・タッチにしたかったのだろう。そして軍服がTVなんかと違ってリアルな感じ。特に一兵卒の着古してヨレヨレで、しかも汗や垢で汚れた感じが素晴らしい。

 ちなみに「硫黄島」は「いおうじま」となっているが、軍では「いおうとう」と呼んでいた。かつて戦争に行った人たちのインタビューを見ると、みなさん「いおうとう」と言っている。ただ現在の地図表記は「いおうじま」。ウィキペディアのフリー百科事典によれば、アメリカ軍は日本海軍が作成した海図のローマ字表記から「いおうじま」と呼んでいたらしい。

 ストーリーはポール・ハギスと日系二世のアイリス・ヤマシタ。アイリス・ヤマシタはビッグ・ベア・レイク・スクリーンライティング・コンペティションで第1位となってポール・ハギスの目に留まったのだとか。それでこのプロジェクトに引き込んだらしい。そしてアイリス・ヤマシタが脚本を書いた。それを日本語に訳して日本に持ち込み、専門家数名に検討してもらったという。さらに監督のクリント・イーストウッドとプロデューサーのロバート・ローレンツは栗林中将の遺族、バロン西の遺族、硫黄島協会の会長らと会い、話を聞いたという。そこまでやるかという感じ。

 ちょっとコピー防止のドットが目立つところがあったのは残念。回りからはグシュグシュと聞こえていたから泣いた人が多かったのでは。

 製作総指揮はポール・ハギスで、プロデューサーにはクリント・イーストウッドとスティーブン・スピルバーグも名を連ねている。

 音楽は、前作「父親たちの星条旗」(Flags of Our Fathers・2006・米)、前前作「ミリオン・ダラー・ベイビー」(Million Dollar Baby・2004・米)でも音楽を担当したクリント・イーストウッド。物悲しいピアノ曲を提供している。すごい才能。

 栗林中将には、もうめちゃくちゃうまい渡辺謙。一兵卒の西郷にはリアルな若者を演じた“嵐”の1人、二宮和也。その妻に「北の国から'92巣立ち」の裕木奈江。憲兵くずれの清水にボクはあまり知らなかったのだが、TV・CM・映画で活躍する加瀬亮。バロン西にNHKの「新撰組」や「半落ち」(2003)などの演技が光る伊原剛志。栗林の命令に逆らう伊藤中尉に最近何かとお騒がせな中村獅童。

 西郷の戦友、野崎には「ラスト・サムライ」(The Last Samurao・2003・米)で勝元の息子のまげを切った兵士を演じていた野崎悠希。ハリウッドで役者としてがんばっているらしい。栗林の副官というか栗林付き士官?に「ラスト・サムライ」で勝元を幽閉していた屋敷の門番をしていた渡辺ヒロシ(漢字不明)。最初に赤痢で死んでしまう関西弁の兵士は、何という人だろうか。いい味を出していた。

 公開初日の初回、用心して65分前に着いたら若い男性と中年男性の2人。あれれ……。50分前くらいから増え出して、11人に。うち女性はわずかに2人。まあ女性はあんまり戦争映画は見ないもの。45分前くらいには30人ほどになって、40分前に当日券売り場が開く。

 35分前に案内があったが、その時点ですでに劇場の角を曲がる当たりまでの行列。30分前に開場になって、ペア・シート以外、全席自由。下は小学生くらいからいたが、アメリカではR指定の大人向き映画。手が飛んだり、手榴弾で自決して体が炸裂するシーンまであるというのに、見せていいものだろうか。あまりにショッキングだと思うのだが。トラウマにならないことを祈るばかり。

 さすがに白髪が目立つものの、比較的広い年齢層がいた。男女比が半々くらいとは意外。最終的には1,064席がほぼすべて埋まった。久しぶりに見た気がする。ただペア・シートは誰も座っていなかったようだ。

 気になった予告編は(明るいままの上映で黒がよく見えない)……上下マスクで流れた「鉄コン筋クリート」は、内容が少しわかるものになった。そしてウェンツ瑛士の「ゲゲゲの鬼太郎」もついに映像が。内容はさっぱりわからないけど。内容といえば日本の漫画が原作という「墨攻」も内容がわかるものに。面白そう。アンディ・ラウ、いいなあ。「パフューム」は相変わらず、何だかわからない。

 スクリーンがシネスコになってから、「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」はさすがに迫力。音も絵も良い。そして「ディパーテッド」はより突っ込んだものになって、ますます面白そう。見たい。



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