Wang-ui namja


2006年12月17日(日)「あるいは裏切りという名の犬」

36 QUAI DES ORFEVRES・2004・仏・1時間50分(IMDbでは119分)

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、Panavision、Super 35)/ドルビーデジタル

(英15指定)

http://www.eiga.com/official/aruinu/
(全国の劇場案内もあり)


パリで現金輸送車を襲って現金を強奪する事件が多発。フランスの内務省からも“オルフェーブル36番地”にあるパリ警視庁に、直々に速く事件を解決するように指示が下った。BRI(探索出動班)のレオ・ヴリンクス警視(ダニエル・オートゥイユ)とBRB(強盗鎮圧班)のドニ・クラン警視(ジェラール・ドパルデュー)の2人はそれぞれ捜査を始める。レオは情に篤いが、強引に捜査を進め、一方ドニはこの事件を足がかりに次期パリ警視庁長官を虎視眈々と狙う。そしてレオは情報屋の罠にはまり、強盗団の情報と引き換えに事件に巻き込まれるが、ドニがそれに気付きレオを逮捕しようとする。

74点

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 うーん、暗い。落ち込んだ。よくできた作品だと思うが、「ミュンヘン」(Munich・2005・米)のように憎しみと暴力の連鎖。ポリス・アクションということになってはいるが、中身は仁侠ものと一緒。そして昔のフランス映画のフィルム・ノワールの雰囲気もあるから、「サムライ」(Le Samourai・1967・仏)とか「仁義」(Le Cercle Rouge・1970・仏)、「リスボン特急」(Un Flic・1972・仏)、「ビッグ・ガン」(Tony Arzenta・1972・伊、仏)とかのような感じといえばいいか……全部アラン・ドロンだけど。

 話は、オリヴィエ・マルシャル監督の警察官時代の経験に基づくものだという。フランスで第30回のセザール賞8部門にノミネートされたというのに、バイヤーは何をしていたのか日本公開されることはなかった。評判を聞きつけたハリウッドでロバート・デ・ニーロがリメイク権を獲得したということで、日本公開されることになったのか。どうしてヨーロッパ作品だと、アクションものとかではなくアート系なのか。かろうじてリュック・ベッソン作品だけが(面白いかどうか別にして)アクションものでも公開されるという偏り方。

 現代の映画らしく、アクション・シーンは銃撃戦もたっぷりで派手。ただハリウッドのようにカラッとはしていない。銃声も爆発音もリアルだし、怖い。

 銃は、BRIの刑事たちはみなベレッタM92。当然ダニエル・オートゥイユもベレッタM92。でも腰のベルトに革のホルスターで、クロス・ドロウに吊っていたのはなぜなのか。ポンプ・アクションのショットガンも使っていたが、あれは何だったろう。ラストではたぶん軍用のガバメント。ジェラール・ドパルデューは4インチのステンレス風リボルバー。ベンチレーテッド・リブの感じはコルトのパイソンぽかったが……。銀行強盗たちは様々な銃を使っていた。AK系のライフルに、M60マシンガン、M93R……珍しい銃オンパレード。水銀弾だとかも言っていた。そして刑務所から許可を得て外泊するシリアンが使う銃も、たぶんガバメント。ダブル・マガジンとか言っていたが、何だったんだろう。

 ダニエル・オートゥイユは暴力刑事の感じが出ていていいし、裏切り者となるジェラール・ドパルデューが何より良い。人望もなく、女も奪われ、チャンスにも見放され……不運な男なのは間違いないが、だからといってそこまでやるかという感じが抜群にうまい。運に見放された男。昇進しても心から喜んでくれるものがいない寂しさが良く出てる。たしか永住権を得るために偽装結婚する「グリーン・カード」(Green Card・1990・米、仏ほか)という映画で注目されたのではなかったか。しかし1970年代初めから活躍しており、アラン・ドロンとジャン・ギャバンの「暗黒街のふたり」(Deux Hommes Dans La Ville・1973・仏)にも出ていたらしい。最近見たのはピトフ監督の「ヴィドック」(Vidocq・2001・仏)でだったか。

 びっくりしたのは、冒頭に暴行されるもと娼婦のオバサン、マヌーが、あのバリバリかわいくてセクシーだったミレーヌ・ドモンジョだったってこと。とても同一人物とは思えない。歳をとって(70歳だし)、ちょっと太っちゃったかも。ボク的には傑作コミカル・アクション「ファントマ」シリーズのヒロインと、ジャン=ポール・ベルモンドの「タヒチの男」(Tendre Voyou・1966・仏)のヒロインというイメージ。「ファントマ」シリーズは「ファントマ/危機脱出」(Fantomas・1964・仏)、「ファントマ電光石火」(Fantomas Se Dechaine・1965・仏)、「ファントマ/ミサイル作戦」(Fantomas Contre Scotland Yard・1967・仏)と3作すべてに出演。きれいだったなあ。親日家で、日本人の知人も多いのだとか。

 印象に残ったキャラクターは、ダニエル・オートゥイユの部下のティティを演じていたフランシス・スノーという人。最初はスキンヘッドで登場する。フランス映画自体あまり日本では公開されないが、たぶん日本ではほとんど知られていないのではないだろうか。でも、いい感じ。もっと活躍して欲しい。

 監督のオリヴィエ・マルシャルは脚本も手がけていて、なんと1958年生まれ。警官時代には対テロリスト課にいたらしい。俳優としても活躍しており、新作も控えているのだとか。監督作としては3作目で、最新作“RmR-73”はプリ・プロダクションに入ったらしい。期待できそうだが、日本公開されるかどうか。されても単館とか小劇場だとなあ……。

 公開初日はカミュのミニボトルのプレゼントがあるというので込みそうだからパスして、2日目の初回、「めぐみ」の上映後の回に35分前くらいに着いたら、窓口のあるエレベーター・ホールは人でいっぱい。いちいち1人1人にシステムを説明するので受付に時間がかかるからだ。

 整理券方式で、150席しかないのに僕の受付は82番。狭いロビーは立錐の余地もないくらい。息苦しいほど。ほとんどは中高年。男女比は6対4で男性が多い感じ。初日はどれほど混雑したんだろうか。ぞっとする。

 「めぐみ」終了後、清掃が入って15分前に開場。10番ずつの入場で、どうにか後方に席を確保。座席数の割にスクリーンが大きいので助かる。というか、そうでなければ見に来ない。ただイスはカップホルダー付きなのだが、小さい。

 最終的にはほぼ満席となったが、もっと大きい劇場でやってくれないかなあ。ピントも上半分が甘かったし……。ただ下でなくて良かった。字幕は下にでたから。

 予告編は、やや暗くなって塚本晋也監督の「悪夢探偵」。ちょっと「ジェイコブス・ラダー」風のところがあったが、予告を見る限りは面白そう。問題は公開劇場か。バレエ映画「オーロラ」には、なんと「007/ユア・アイズ・オンリー」(For Your Eyes Only・1981・英/米)のボンド・ガール、キャロル・ブーケが、昔の美貌のまま出演。おおむね50歳らしいが……びっくり。

 11月20日に亡くなったロバート・アルトマン監督の遺作、「今宵、フィッツジェラルド劇場で」はまたまた群像劇らしい。面白そうだが、どうなのか。問題児のリンジー・ローハンが出ているのはびっくり。ロバート・アルトマン監督を怒らせなかったのだろうか。そして、上下マスクでついに内容のわかる「世界最速のインディアン」。じーさんパワー炸裂で、面白そう。


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