The Departed


2007年1月20日(土)「ディパーテッド」

THE DEPARTED・2006・米・2時間32分(IMDbでは151分)

日本語字幕:手書き書体下、栗原とみ子/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35[4パーフォ]、with Arri)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R-15指定)

http://wwws.warnerbros.co.jp/thedeparted/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)


数年前、マサチューセッツ州の警察学校へアイルランド系ギャングのボス、フランク・コステロ(ジャック・ニコルソン)によって州警察の警察学校へ入学させてもらったコリン・サリバン(マット・デイモン)は、優秀な成績でビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)らとともに卒業した。そして、すぐに州警察のSIU(特別捜査班)に配属され、フランク・コステロの捜査に当たることになる。一方、コリン・サリバンは父親が知られた犯罪者であったことから、SIUの責任者オリバー・クイーナン(マーティン・シーン)とディグナム巡査部長(マーク・ウォルバーグ)によって、警察学校を退学したことにして、フランク・コステロの組織に潜入することを強要される。

73点

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 たぶんオリジナルの「インファナル・アフェア」(無間道・2002・香)を見ていない人にはショッキングで、新鮮で、面白い映画として評価が高いのではないだろうか。アメリカではIMDbで8.4点という驚異の高得点。たぶんアメリカ人の多くはオリジナルを見ていない。日本人の多くは見ていると思うが……。

 オリジナル版では、潜入警官と潜入ギャングの対立だけでなく、警察に潜入したギャングが次第に善人化していく雰囲気や、ギャングに潜入した警官の正義感がマヒしていく雰囲気も描かれ、何が犯罪者と一般人をわけているかの境界線があいまいになるところも描かれている。さらには、潜入警官と潜入ギャングはハリウッド版と同様にほとんど出会うことはないわけだが、ケリー・チャン演じる精神科医のリー(本作ではベラ・ファミーガというあまり知られていない人)を通して場所や時間を共有する。さらには微妙な黄金の三角関係になる。本作では、アメリカ的なのかもっとあからさまに体を共有してしまう……。うーむ。

 オリジナル版は3部作を意識したゆえかもしれないが、話を広げるネタがたくさん折り込まれていた。第1作はそれが分かりにくさにつながっていたので、ハリウッド版ではバッサリと枝葉末節を切って、潜入という過酷な使命と、潜入同士の戦いにフォーカスを絞っている。ただ、それだと雰囲気はアル・パチーノとジョニー・デップの「フェイク」(Donnie Brasco・1997・米)と似て来て……潜入捜査官の善悪の基準があいまいになっていく過程とか、精神不安定になる過程とか一緒だなあと。

 本作のラストのどんでん返し部分はオリジナル版と違うが、その前のパートはオリジナル版を見ている人には驚きはなく、かろうじてハリウッド版独自のディグナム巡査部長の存在があるくらい。

 それでも、ちゃんとオリジナルでショッキングだった部分は取り込まれている。腕のギブスをたたき割るシーンとか、上司がビルの上から落ちてくるジーンとか、結構たくさんある。当然ながらストーリー的にはほとんど同じ。舞台がアメリカになっただけ。ただ、表現が全体にアジア的な遠回しなものから、アメリカ的な直截的になっている。そして絵作りが重厚。出演者も有名人の芸達者がズラリとそろって豪華。

 気になったのは猥褻な台詞が多く、それもほとんどオーラル・セックスに関するものばかりということ。この脚本家がそれがとても好きなのか、それともジャック・ニコルソンの得意の即興演技のたまものか。確かにギャングの嫌らしさにはつながっている。

 なんでも、インタビューによれば、マーティン・スコセッシ監督はこの映画の監督を引き受けるべきかどうか迷ったという。こんなに有名な監督がリメイクを引き受けるとは意外だった。結果的にアメリカでは高い評価(アカデミー賞を含む多くの賞にノミネート、ゴールデン・グローブ賞の最優秀監督賞受賞)を受けているが、アジアではどうだろう。

 プロデューサーは、あの俳優のブラッド・ピット。彼は制作会社の「プランB」のオーナーだそうで、「トロイ」(Troy・2004・米)や「チャーリーとチョコレート工場」(Charlie and the Chocolate Factory・2005・米英)はプランBの作品。本作もブラッド・ピットが映画化権を得て制作したんだとか。

 とにかく出演者が豪華。オリジナル版でアンディ・ラウが演じた組織の男を「ボーン・アイデンティティ」(The Bourne Identity・2002・米)のマット・デイモン、トニー・レオンが演じた警察の男を「タイタニック」(Titanic・1997・米)のレオナルド・ディカプリオ、アンソニー・ウォンが演じた警察の上司を「地獄の黙示録」(Apocalypse Now・1979・米)のマーティン・シーン、エリック・ツァンが演じた組織のボスに「チャイナタウン」(Chainatown・1974・米)のジャック・ニコルソン、オリジナルにはなかった警察のもう1人の上司に「ザ・ワイルド」(The Edge・1997・米)のアレック・ボールドウィン、その部下に、ほとんど活躍しないのになぜか本作でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた「ビッグ・ヒット」(The Big Hit・1998・米)のマーク・ウォールバーグ……という具合。

 州警察の警察学校では、銃弾の講義をやっていて、ホロー・ポイント弾は貫通しにくく、なんて教えている。通常の弾丸は家の壁を貫通してしまうので、室内で銃撃戦を行なうと隣家に弾丸が達し危険なのだ。この辺はリアル。ただ学校の射撃訓練で使っている銃がベレッタM8045のように見えたが、P226だったかもしれない。スクリーンの一瞬ではわからなかった。

 潜入警官のディカプリオが使っていたのは、ワルサーPPK/Sのシルバー・モデル。ギャングはイングラムや、今となっては珍しいパイソン2.5インチなどを使っている。射殺シーンでは部屋にあったペット・ボトルを空にしてサイレンサー代わりに使うなど、妙にリアルで怖い。

 州警察の警官はSIG P226を使っているようで、マット・デイモンもP226。特殊部隊はM4カービンを使っていたが、これがまたすごい音で怖い。血も噴き出すしR-15は当然かも。

 公開初日の初回、新宿の劇場は55分前に着いたら、前売り券の列に若い男性と若い女性とオヤジの3人、当日券の列に4人。45分前に案内があって整列、窓口が開いた。この時点で前売り券の列が10人くらいと、当日券に7〜8人。ほとんど中高年で、女性が1/3ほど。

 40分前にもう一度整列させられ(これ重要)、列は50人くらいに。30分前に開場した時には70人くらいになっていた。寒い日だったので、もう少し早く開けてくれると良かったのだが……。

 ペア・シート以外、全席自由。最終的に1,064席の5.5割くらいの入り。普通の劇場なら満席だが、これは多いのか少ないのか。

 1つ開けて隣にすわったオバサンは堂々と空けた席にコートを置いた。どうするのかと思ったら、最後までそのままだった。それほど混んでいなかったから良かったものの、なんたるマナーの悪さ。せめて、上映が始まって席が空いていたら置くくらいの気は使うべきじゃないだろうか。

 場内が明るいまま始まった予告編で気になったものは……「こんな夢を見た」と黒澤明監督の映画のように始まる夏目漱石原作のオムニバスらしい「ユメ十夜」。10人の監督が10本の短編を撮っているらしい。とりあえず、面白そう。

 上下マスクのレオナルド・ディカプリオ主演の「ブラッド・ダイヤモンド」はピンクのダイヤを巡るアクション作品のようで、ジェニファー・コネリーも出ているようだ。短い予告で内容も良くわからなかったが、これも面白そう。監督は「ラスト・サムライ」のエドワード・ズゥィック。ちなみにブラッド・ダイヤモンドとは軍事行動の資金源として利用されているダイヤモンドのことらしい。ダイヤモンド業界ではイメージが悪くなるのではないかと危惧しているらしい。

 「パフューム」はついに内容がわかる具体的なものになった。ちょっとエロティックな感じのサスペンスで、これは見る価値がありそう。窓から糞尿を通りに捨てていた頃のパリのお話。英語だけど。「パリは臭かった」というのがショッキング。

 スクリーンがシネスコになって、場内が暗くなってからハリ・ポタ最新作「不死鳥の騎士団」の予告。うーん、ハリーが大きくなり過ぎて……。イメージが変わっちゃったなあ。

 とにかく予告編でタイトルがわかりにくいか、印象に残らないものが多過ぎる。予告の意味がないではないか。もっと考えたほうがいいんじゃないかなあ。タイトルを覚えてもらうことが第一だと思うんだけど。


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