The Last King of Scotland


2007年3月10日(土)「ラストキング・オブ・スコットランド」

THE LAST KING OF SCOTLAND・2006・英・2時間05分(IMDbでは121分、米版123分)

日本語字幕:手書き書体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision、16mm)/ドルビーデジタル

(英15指定、米R指定、日R-15指定)

公式サイト
http://movies.foxjapan.com/lastking/
(入ったら音に注意。関連情報充実)


1971年、スコットランドの医大生ニコラス・ギャリガン(ジェームズ・マカヴォイ)は学校を卒業し、地球儀を回して指さしたところに医師として人道支援に行く決心をする。そして指が指したのは、アフリカのほぼ中央、ウガンダだった。小さな村の診療所で働いていたある日、近くの町で軍事クーデターによって大統領となったイディ・アミン(フォレスト・ウィティカー)が演説を行なうというのでそれを聞きに行く。そして帰路、アミンが交通事故に巻き込まれたところに遭遇し、手首を治療する。スコットランドに傾倒していたアミンはニコラスを気に入り、主治医に取り立てる。

73点

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 他国の植民地支配によって生まれた悲劇はどれだけあるのだろう。かつて日の沈まない地はないとまで言われた大英帝国は世界中に植民地を持っていたわけで、それが現代まで深く濃い影を投げている。

 ウガンダは1965年にはすでにイギリスから独立していたらしい。都市部にはビルが建ち並び、まるで西洋のような雰囲気。一方で、地方では原始的な生活を送っている人が多く、病気になった時80%が医師よりまじない師にたよるような現状。貧富の差とか格差なんてもんじゃない。

 本作では、アミンの就任中の一側面が描かれている。ただ、アミンをわかりやすいステレオタイプにしていないので、わかりにくいと言えばわかりにくい。アミンが、自分が倒した前政権の報復を恐れていたことと、そのために次第に言うことの一貫性が無くなりつつあったことはわかった。実像は別として、映画では冷酷な人という印象で、ことさら残虐とか異常者という感じは受けなかった。もちろん残酷シーンは何カ所もあるが、「私の村では、昔から○○した人間は、こうやって罰せられた」ということなんだと思った。それが欧米社会などでは受け入れられないことだったと。

 ショッキングだったのは、昔からいるイギリス人の言う台詞。「彼もほかの指導者と同じ様に、やがて権力に溺れるだろう」というような内容。まさにそのとおりになるわけで……。

 この映画で主人公の痛みをあまり強く感じられないのは、たぶん彼の悲劇の原因のほとんどが、彼自身の行いにあるからではないだろうか。エイズが問題となっている今なら考えられないことだが、アフリカに渡ってバスで移動中、近くの席にいた若い女性と行きずりの関係を持つ。さらに赴任地では先輩医師の妻に関係を迫る。さらには子供までいるアミンの第三夫人と関係を持つ。いくら若くて故郷を離れて自由になったからといって、あまりに見境なさ過ぎ。全部自分から行っているわけで、しようがなんいかなと。自業自得。

 アミンが持っていた銃は一見ガバメントのようだったが、リア・サイトが妙に高く、グリップにメダリオンがあって全然違うタイプ。なんだろう。ウガンダ軍の兵士はAK47やG3で武装しているが、G3はみなサビかげんで茶色っぽく、色がはげているのがなんともリアル。サブマシンガンはみなスターリング。以前イギリスの植民地だったのだから、これまたリアル。すぐに撃ちそうで怖い。ピストルはハイパワーのようだった。これもイギリスから考えると妥当か。

 一部、画質がイマイチのところがあるなあと思ったら、なんと16mm。シネスコの35mmにブローアップしているのだ。これにはビックリ。言われなければわからない。全体には35mmと遜色ない。

 主役の青年医師を演じているのは、本当にスコットランド生まれのジェームズ・アカヴォイという人。話題になったスピルバーグ&トム・ハンクスプロデュースTVドラマ「バンド・オブ・ブラザース」( Band of Brothers・2001・米/英)に出ていたそうだが、ちょっと記憶にない。劇場作品ではテニス映画「ウィンプルドン」(Wimbledon・2004・英/仏)、大作の「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女」(The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe・2005・米)で、なんと最初に登場するナルニア国のキャラクター、気のいいタムナスさんを演じていたのだとか。同一人物とは思えないほど逆の印象。特殊メイクもあるが、さすが役者。

 アミン大統領を演じて主演男優賞を受賞したのはフォレスト・ウィテカー。オリバー・ストーンのベトナム戦争映画「プラトーン」(Platoon・1987・米)にも出ていたらしいが、何といっても強烈な印象を残したのは「クライング・ゲーム」(The Crying Game・1992・英)だろう。そして葉隠をたしなむ暗殺者を演じたジム・ジャームッシュ監督の「ゴースト・ドッグ」(Ghost Dog: The Way of the Samurai・1999・米/仏ほか)も素晴らしかった。最近だと「パニック・ルーム」(Panic Room・2002・米)か。それ以後あまり見かけない気がしたが、本作で大躍進というところ。

 イギリスの高等弁務官を演じたのは、サイモン・マクバーニー。やはり実際にイギリス生まれで、どこかで見た記憶があるのだが……最近では小劇場公開で見なかった「クライシス・オブ・アメリカ」(The Manchurian Candidate・2004・米)、見たことがある出演作は「KAFKA/迷宮の悪夢」(Kafka・1991・米)か。

 アミンの第三夫人を演じた美女は、ケリー・ワシントン。アンソニー・ホプキンスのアクション「9デイズ」(Bad Company・2002・米)や、ジェイミー・フォックスがアカデミーを主演男優賞を受賞した「Ray/レイ」(Ray・2004・米)、プラピの「Mr.&Mrs.スミス」(Mr. and Mrs Smith・2005・米)や、コミック原作のSFアクション「ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]」(Fantastic Four・2005・米)などのメジャー作品にも出ている人。まったく印象が違う。

 びっくりしたのは、現地で働く医師の妻で、もう人生にも疲れ果てた感じがすばらしかったのが、人気TVシリーズ「Xファイル」(The X Files・1993-2002・米)のダナ・スカリー捜査官役を演じたジリアン・アンダーソン。まったく印象が違う。あの理知的で冷静な感じはまったくなくて、本当に人生に疲れた感じで、おばさんっぽい。しかも若い医師のニコラスの誘いにふらふらっとなってしまう。うーむ、うまい。

 監督はケヴィン・マクドナルド。1967年生まれの40歳という若さ。イギリスのTV界でドキュメンタリーで活躍してきた人。1999年にはアカデミーのドキュメンタリー賞も取っているらしい。最近作は「運命を分けたザイル」(Touching the Void・2003・英)。劇場の関係で見ていないのだが、やはりドキュメンタリーの手法を使ったものだったらしい。本作にもその傾向はある。なるほど。

 公開初日の初回、アカデミー賞効果で混むと思って60分前に着いたら、池袋の劇場はロビーに中年男性1人。40分前くらいに開場になって、この時点で4人。若い人は1人。男性のみ。

 初回のみ全席自由で、それ以降は全席指定。なぜかぴあ席が2席。30分前くらいからぼちぼち増え始めて、若い女性もチラホラ。20代後半くらいも少し増えて、最終的には241席に3割くらいの入り。大半は中高年で、若い人は3割くらいか。女性は10人ほど。うーん、アカデミー賞にしては少ない。地味な作品だけど。

 非常口ランプが消えての上映で見やすかった。千鳥配列ではないので若干前席の人の頭が気になるが、デジタル音声対応で、カップ・ホルダー付きのしっかりしたイス。シネコンながら、最小劇場が241席なので、どこの劇場になってもガッカリすることはない。ここは良いかも、

 気になった予告編は……予告編を見てもまったく血が騒ぎもしなければ見る気も起きなかった「ロッキー・ザ・ファイナル」。予告編の中で息子らしい人物が「父さんは、もう年だろ」とかスタローンに言っていたが、観客も同じ気持ちになった。例によって、また特訓があるわけだが、ちっとも面白そうに見えない。むしろやめて欲しい。「5」(1990)まで見たが、1作ごとに酷くなって行って「1」以外は不要な話というか、繰り返しというか……。さらに17年も経って何を今さら……でもIMDbでは7.5点という高評価。しかもスタローン自身が監督。うむむ、興味は湧くが……微妙……。


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