All the King's Men


2007年4月8日(日)「オール・ザ・キングスメン」

ALL THE KING'S MEN・2006・独/米・2時間08分(IMDbでは128分と140分)

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/ビスタ・サイズ(1:1.85)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/allthekingsmen/index.html
(全国の劇場案内もあり)


1949年、アメリカ、ルイジアナ州フェニックス。クロニクル紙の記者ジャック・バーデン(ジュード・ロウ)は、郡の実直な出納官ウィリー・スターク(ショーン・ペン)と出会う。5年後、ジャックが取材を命じられたのは、知事選の候補者として祭り上げられたウィリーだった。しかし話には裏があり、他の候補が対立候補に票を取られないための当て馬だったのだ。それを知ったウィリーは、その仕掛けを公表し、貧乏人のために戦うことを近い、次第に市民の共感を得て人気を得ていく。

75点

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 悪い映画ではないが、気が滅入る。落ち込んだ。見終わって、「うーん」といううなりというか、溜息というか、声が出た。重厚な作りだけに、気分まで重い。そして、政治の話が、わかりやすくするためなのか、結局は男女の話に落とし込まれてしまうところも?だったりする。

 政治の裏側、裏工作、欺瞞、裏切り……それに南部独特の貧富の差。石油会社や電力会社の一部の富める白人と、多くの貧しい白人。それに愛憎劇までが加わって、まさにドロドロ。うむむ。

 タイトルが聞いたことがあるなあと思ったら、リメイクだそうで、原作は実話を基にしたロバート・ペン・ウォーレンのピューリッツァー賞受賞小説。1949年に同じタイトルで、ロバート・ロッセン監督が映画化し、アカデミー賞を受賞している。ボクは見ていないのだが、前作は小役人が最初は理想を掲げて政界に乗り出していくが、やがて腐敗した政界に染まり独裁者のようになっていく姿を描いているらしい。ということは、本作とはちょっと違っている。本作ではそこまで悪になっていない。最後まで貧乏人のために戦う男だ。

 ただ、演説の雰囲気は、どうもヒトラーのそれを参考にしているような気がした。最初は普通の演説の仕方だ。しかしそれが仕組まれたもので、自分は当て馬だと気付くや、苦労して書いた原稿を捨て、自分の言葉で、真実を包み隠さず語っていくあたりから演説が変わっていく。聴衆が思わず引き込まれてしまう口調。ジェスチャー。ショーン・ペンはうまい。日本の政治家もこれくらいうまく演説できたら、もっと聴衆を集めることができるだろうし、選挙も間違いなくもっと盛り上がるはずだ。当日はまさに統一地方選挙の投票日。東京は都知事選挙があった。候補者はこういう映画を研究すべきだなあ。だから演説の上手さという点でも、タレント候補が強いのかも。

 知事も「スミス都へ行く」(Mr. Smith goes to Washington・1939・米)のスミスのような理想的にピュアな人物ではなく、比類なき女好きという感じで人間臭いが、それが悲劇を呼ぶ。そして「権力は腐敗する」という真理というか原理どおりの展開。日本ではこういう映画は作れないだろうなあ。

 主役のショーン・ペンは、私生活は色々あるようだが、演技は素晴らしい。役にピッタリハマっている。本作の前にはニコール・キッドマンのなかなかのサスペンス「インタプリター」(The Interpreter・2005・英/米/仏)で捜査官役をやっていた。オスカー俳優だし、いうことなし。

 金持ちの御曹司で、家を出て新聞記者をやっているジャック・バーデンにジュード・ロウ。日本では「ホリデイ」(The Holiday・2006・米)の方が公開がちょっと早かった。いかにもお金持ちのボンボン風でグッド。

 その元恋人がケイト・ウィンスレット。「タイタニック」(Titanic・1997・米)がベストだろうが、「乙女の祈り」(Heavenly Creatures・1994・ニュージーランド/米)も恐くて良かった。本作でも脱いでます。

 スタークを弾劾しようとする判事がアンソニー・ホプキンス。とにかくうまい。この人が出るだけで説得力が出る。つい最近も「世界最速のインディアン」(・2005・ニューシーランド/米)で感動させられたばかり。最近、彼の出た映画でつまらなかったものはないのではないだろうか。持っていた銃はたぶんコルトのM1903ポケット。

 ブレーンとして雇われるライバル候補のいわば工作係を演じているのは、いかにもこういう嫌らしい役がよく似合うジェームズ・ガンドルフィーニ。「ザ・メキシカン」(The Mexican・2001・米)とか、「ラスト・キャッスル」(The Last Castle・2001・米)とか、とにかく嫌らしさがうまい。

 そのような引き抜きの女性のセイディにパトリシア・クラークソン。最近見たのは「ドッグヴィル」(Dogville・2003・デンマーク)だったろうか。映画自体が今ひとつだったので、ちょっと印象が薄いが。魅力的なんだが、ちょっとオバサンのようでもあって、不思議な感じの人。若い時はかなり美人だったのだろう。「クイーン」のヘレン・ミレンのような感じか。

 ケイト・ウィンスレットの兄役がマーク・ラファロ。傑作「コラテラル」(Collateral・2004・米)や、ちょっと退屈だった「イン・ザ・カット」(In the Cut・2003・米)での刑事役が印象に残るところ。うっ屈した感じがピッタリ。銃は、彼だけがS&Wで、たぶんミリタリー&ポリスの5インチ。

 ボディ・ガード兼ドライバーのシュガー・ボーイはジャッキー・アール・ヘイリー。初めて見た気がしたのだが、「がんばれ!ベアーズ」(The Bad News Bears・1976・米)シリーズや、「ネメシス」(Nemesis・1992・米)に出ていたらしい。シースが壊れたナイフみたいで恐かった。いい味。使っていた銃はおそらくコルトのディテクティブ。時代を反映してショルダー・ホルスターに入れている。今ならハイライドのヒップ・ホルスターだろう。

 監督はスティーヴン・ゼイリアン。製作と脚本も兼ね、監督としてよりは脚本家としての方が有名。監督作品には、見ていないが「ボビー・フィッシャーを探して」(Searching for Bobby Fisher・1993・米)、弁護士と巨大企業の戦いを描いたジョン・トラボルタの「シビル・アクション」(A Civil Action・1999・米)があって、本作で3作目。脚本では「コードネームはファルコン」(The Falcon and the Snowman・1985・米)、感動作「レナードの朝」(Awakenings・1990・米)、スピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」(Schindler's List・1993・米)、ハリソン・フォードの「今そこにある危機」(Clear and Present Danger・1994・米)、ブライアン・デ・バルマ監督の「ミッション・インポッシブル」(Mission: Impossible・1996・米)、傑作戦争映画「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)、マーティン・スコセッシ監督の「ギャング・オブ・ニューヨーク」(Gangs of New York・2001・米)、アンソニー・ホプキンスの「ハンニバル」(Hannibal・2001・米)、ニコール・キッドマンの「インタープリター」と、ズラリと話題作が並ぶ。すごい。次作にも期待したい。

 公開2日目の2回目、銀座の劇場は朝に座席を確保しておいたので、15分前に到着。すでに開場していて、183席の5割ほどが埋まっている。全席指定なので、とにかく遅れてくる人が多い。6割くらいで暗くなって予告が始まって、最終的には8割くらいの入り。男女は半々くらいで、中高年が多い。若い人は1/3くらい。まっ、政治の話だし、地味だからこんなものか。

 気になった予告編は、上下マスクでマジック対決の「プレステージ」。新しいバージョンになって、内容がわかってきた。監督が「メメント」のクリストファー・ノーランだし、マジック監修はデビッド・カッパーフィールドとくれば、もう見るしかないでしょ。


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