The Queen


2007年4月15日(日)「クィーン」

THE QUEEN・2006・英/仏/伊・1時間44分(IMDbでは97分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/ビスタ・サイズ(Arri、with Panavision、1:1.85)/ドルビーデジタル

(英12A指定)

公式サイト
http://www.queen-movie.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)


1997年5月2日、トニー・ブレア(マイケル・シーン)が新しい英国首相に決まり、エリザベス女王(ヘレン・ミレン)から任命を授かる。エリザベスは伝統を重んじてきたが、ブレアは改革派として選挙で選ばれた人物だった。そんな時、すでに離婚が成立し王族の一員ではなく一般人となっていた元ダイアナ皇太子妃がパリで交通事故により死亡した。王室は何のコメントも出さなかったが、世界中が悲しみ、王室が何もしないのはおかしいと騒ぎ出す。

75点

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 マスコミやボクら大衆というのは、つくづく勝手なものだと思う。与えられたわずかな情報だけで、簡単に人を批判し糾弾する。それは正しいこともあれば、間違っていることもある。間違っていた時、それが群集心理となって雪だるま式に膨らんでいったとすると、どうなるのか。そうならないために、ブレア首相も、王室も、そして女王自身も、納得できないことをやらなければならない。

 本作は事故の真相や、ダイアナ妃と王室の確執を描いたものではなく、事故が起きて王室や女王や政府がどう対処したかを描いたもの。ダイアナ妃が亡くなった日、民衆はロンドンのバッキンガム宮殿の旗が半旗になっていないことを非難するが、その旗は王(女王)が宮殿にいるとき掲げ、いないときは降ろしているという印なのだという。一般人には国旗などのようにシンボルと思えるから、哀悼の意を表していないということになってしまう。なるほど……。

 王族たちは、王室を自ら抜けた人(しかもトラブル・メーカーだったらしい)に対して何もコメントすることはないと思っているが、一般大衆には王族のイメージのままで、ブレア首相が「民衆のプリンセスだ」などと言うため、さらにイメージは固定されていく。そのギャップによる王族の狼狽ぶりが見どころ。

 実質的な権力は何も持たず、自由に好きなこともできない。ちょっと飛行機を使えば税金の無駄遣いだとバッシングされる。でも、生涯を国のために捧げると宣誓して王位(女王位)についているのだ。なのに、ダイアナ妃への献花に添えられたメッセージには、そんな王室や女王を傷つけるような言葉がいっぱい。国民の感情を知ったときの女王=ヘレン・ミレンの表情が衝撃的。涙が出そうになる。

 実際はどうなのか。この映画にしても真実のある一面しか描いていないかもしれない。この映画を見てマスコミや大衆を批判するのもまた危険だ。できるだけ広い視野を持たなければと思う。立場が違えば、見方も変わる。そんな映画。事件からわずかたっていないのに、こういう映画が作れるところが素晴らしい。日本じゃ難しいだろうなあ。

 実在の女王を演じるため、メイクや衣裳はもちろん、歩き方から話し方、細かなしぐさまでも研究したというヘレン・ミレンの演技は見事。気品を感じさせる。しかも人間臭い。さすがはアカデミー主演女優賞。1945年生まれというからすでに60歳を超えているが、若い頃は大変美しかったようで、ヌードになるのも今でもまったく気にならないらしい。見ていないが、アメリカの男性誌ペントハウスのボブ・グッチョーネが作ったエロティック話題作「カリギュラ」(Caligula・1980・米)にも出演しているとか。あと印象に残っているのはSFの「2010年」(2010・1984・米)でのロシアの女性宇宙飛行士役、とても神経質そうで恐かった「鬼教師ミセス・ティングル」(Teaching Mrs. Tingle・1999・米)の教師役(とても同じ人が演じているとは思えないほど印象が違う)。イギリスの人なのでイギリス映画への出演が多く、それで日本ではアート系劇場での公開となり、劇場規模から見に行かないことが多くなってしまう。残念。

 トニー・ブレア首相を演じたのはマイケル・シーン。見た目は全く似ていないが、雰囲気がとてもそっくり。最近では「サハラに舞う羽根」(The Four Feathers・2002・米/英)や、吸血鬼映画「アンダーワールド」(Underworld・2003・米)とその続編、「ブラッド・ダイヤモンド」(Blood Diamond・2006・米)にも出ていたということだ。

 エリザベス女王の夫、フィリップ殿下を演じたのはジェイムズ・クロムウェル。これまた似ていないのに、ニュース映像などで見る殿下そっくりの雰囲気。やっぱり有名なのは「ベイブ」(Babe・1995・豪)のホゲットさん役だろうが、「将軍の娘/エリザベス・キャンベル」(The General's Daughter・1999・米)では恐い将軍を演じていた。

 素晴らしい脚本はピーター・モーガンという人。そんなに多くの作品を手がけているわけではないが、最近では「ラストキング・オブ・カコットランド」(The Last King of Scotland・2005・米/英)を手がけている。

 監督はスティーヴン・フリアーズ。有名な作品ではジョン・キューザックの「グリフターズ/詐欺師たち」(The Grifters・1990・米)、飛行機事故を描いたダスティン・ホフマンの「靴をなくした天使」(Hero・1992・米)、話題にはなったジュリア・ロバーツとジョン・マルコヴィッチの「ジキル&ハイド」(Mary Reilly・1996・米)、ジョン・キューザックとジャック・ブラックの音楽オタクを描いた「ハイ・フィデリティ」(High Fidelity・2000・米)、つい最近では小劇場で公開された「ヘンダーソン夫人の贈り物」(Mrs.Henderson Presents・2005・英)がある。子供向けの話だと思っていたが、大人向けの話だったとは。

 公開2日目の午後、銀座の2館でのリレー上映の5回目、1館では3回目、前日に座席を確保しておき10分前についたら、ちょうど案内が上映されるところ。続々と席が埋まっていき、最終的には全席指定の224席がほぼ満席。もしかしてとは思ったが、びっくり。上質だけれど、地味な作品なのに。やはりアカデミー賞ということと、王室の中を見てみたいという興味、好奇心ではないだろうか。少なくともボクはそう。あとはダイアナ妃人気か。

 男女比は3.5対6.5くらいで女性が多く、女性は20代くらいから。男性はほとんどが中高年。結構、イギリスっぽいジョークに笑いが起きていた。ただ前の席に座高の高いヤツがすわり、スタジアム形式の座席なのに下に出る字幕が読めず苦労した。

 薄暗くなってCMが始まると、わざわざメールチェックをするヤツが。なぜ暗くなる前にロビーとかでできないのだろう。暗くなるから気が付くのか。予告で気になったのは……多数の人種が同居するロング・ビーチの高校にヒラリー・スワンクの高校教師が赴任してくるという「フリーダム・ライターズ」は、ちょっと見てみたい感じが。やっぱり「魔笛」はペンダントがもらえるので、劇場窓口で前売り券を買っておこうか。

 「ドレスデン、運命の日」は要チェック。ドレスデンといえば第二次世界大戦中に連合軍の無差別爆撃によってほぼ壊滅したドイツの都市の名前。どうやらそれを描いたドイツ映画らしい。ちゃんとイギリスのアブロ・ランカスターらしい爆撃機が登場している。確か昼間の爆撃をアメリカ軍が、夜の爆撃をイギリス軍が担当したのではなかったか。何と、劇場窓口で前売り券を買うと、スワロフスキーのペンダントがもらえる。これはお得。アンソニー・ミンゲラ監督の新作は……ま、いいか。


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