Stranger Than Fiction


2007年5月19日(土)「主人公は僕だった」

STRANGER THAN FICTION・2006・米・1時間52分(IMDbでは113分)


日本語字幕:丸ゴシック体下、牧野琴子/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/strangerthanfiction/
(入ると画面極大化。全国の劇場案内もあり)


アメリカ国税庁の職員ハロルド・クリック(ウィル・フェレル)は、毎日同じ時刻に起き、歯ブラシの回数を数え、同じバスに乗って仕事に行く規則正しい生活を送っていた。ところが、ある日、女性の声が聞こえるようになり、そのとおりに行動している自分に気付く。やがて声はハロルドが死ぬことになっていることを告げる。驚いたハロルドは、声の主を探し当て、結末を変えようと奮闘する。

73点

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 コメディ……と言って良いのかどうか。笑えるシーンもそこそこあるが、結構感動的な話でもある。ラブ・ストーリーにもなっているし。しかし、何より底流にあるのは、冷たく悲しい死の匂い。だから心底笑えず、どこかに背筋がぞっとするような恐怖が静かに横たわっているのを感じてしまう。この奇妙な感覚。

 驚くべきは主役のウィル・フェレルで、得意のおマヌケ野郎ではない。ほとんど笑わず、バスター・キートンのような雰囲気。もう少し表情はあるからハロルド・ロイドか。そういえば役名がハロルドだ。眼鏡はかけてないけど。

 たぶん監督が描きたかったのは、小説の主人公だった男が、必ず主人公を殺すという作者の気をいかに変えさせるかという部分だったのだろう。だから、小説の主人公が実際の人間として存在するという不思議に関しては、ほとんど掘り下げていない。理屈はとにかく、存在するという前提で映画は始まる。不思議の謎を解くため相談に行くダスティン・ホフマン演じる大学教授も簡単に信じてしまうし、いままで小説の中で8人もの主人公を殺してきたというエマ・トンプソン演じるイギリス人女流作家も、自分がタイプするタイミングで電話のベルが鳴っただけで信じてしまう。

 勝手に想像すると、信じさせるために苦労するシーンがあったのかもしれないが、上映時間が長くなり過ぎるのと、話がわかりにくくなるので大胆にカットしてしまったのではないか……。そこが気になる人はちょっと付いていけないかも。

 基本的に悪い人は出てこない。それぞれにみんながんばっている。でも悲劇が起るから、余計に悲しい。ダスティン・ホフマン教授も劇中で、このエンディングしかないと断定しているわけで、それを変えるのはこの映画でもチャレンジなのだ。

 人物の回りに、説明の文書などがリアルな3Dで入るのがすばらしい。パースや影の感じも実写にあっていて、まるで本当にそこにあるかのよう。

 ウィル・フェレルはオマヌケ役が多くて、「奥様は魔女」(Bewitched・2005・米)も「プロデューサーズ」(The Producers・2005・米)もパッとしないが、本作は良い。こんな路線が良いのではないだろうか。

 相談に乗る文学の教授を演じるダスティン・ホフマンは、すぐに主人公を信じてしまうような人物だが、やはり説得力がある。映画の中ではたいして活躍していないのに、存在感もある。それに、とても70歳には見えない(1937年生まれ!)。「パフュームある人殺しの物語」(Perfume: The Story of a Muderer・2006・独仏ほか)も独特の存在感だったが、うまいなあと。

 スランプに悩む作家を演じるエマ・トンプソンもいい。「ハリー・ポッター」の魔法学校の先生役とはまったく違った雰囲気。ちょっとした変人具合がちょうどいい。

 出版社から派遣されるお目付け役というか、アシスタント役はクィーン・ラティファ。「TAXI NY」(TAXi・2004・米仏)の女性タクシー・ドライバーを演じていた人。こんな物静かな役もできるんだ。

 主人公が惚れるパン屋の女性主人は、マギー・ギレンホール。傑作「遠い空の向こうに」(October Sky・1999・米)のジェイク・ギレンホールの姉だ。「ドニー・ダーコ」(Donnie Darko・2001・米)や「ワールド・トレード・センター」(World Trade Cenrer・2006・米)でいい味を出していた。最初は嫌な女だが、後半とても魅力的。

 奇想天外の脚本を書いたのは、ザック・ヘルムという人。これまではTVの脚本を1本手がけているだけ。今後注目かもしれない。

 監督はスイス生まれのマーク・フォースター。ハル・ベリーがアカデミー主演女優賞を獲得した「チョコレート」(Monster's Ball・2001・米)を手がけ、ジョニー・デップのピーター・パン誕生秘話「ネバーランド」(Finding Neverland・2004・英米)、そして死の一瞬を描いた「ステイ」(Stay・2005・米)を監督した人。話題作が多い。そしていずれも悲しみのようなものが流れ、死の匂いがする。うむむ。

 公開初日の初回、銀座の劇場は45分前くらいで20人くらいの行列。2館共通の窓口なので全部とは言えないが。雨の日だったせいか40分前に開場。初回のみ全席自由で、10人くらいのほぼ全員が中高年。

 最終的には183席の6割ほどの入り。老若比は8対2くらいで中高年が多く、男女比は7対3くらいで男性が多かった。つまりほとんどオヤジ。入場プレゼントがあって、ポストカードをもらったが、これって使う人はいないと思うし、価値あるんだろうか。

 カーテンが上がって半暗になって始まった予告は……「ALWAYS続・三丁目の夕日」。ほとんど内容がわからないが、上下マスクの「東宝スコープ」の画面で始まり期待できそう。ビデオでチャン・ツィイーが現われ「バベル」のような予告で「女帝」を見てねと。もちろん見ますとも。おもしろそう。原作はシェイクスピアの「ハムレット」だと。あの面白かった「ブルース・オールマイティ」の続編ができるらしい。「エバン・オールマイティ」。上下マスク。もちろん神さまはモーガン・フリーマン。今度は普通のサラリーマンに箱船を造れと言うらしい。面白そう。楽しみ。予告だけでも笑える。そして金城武とトニー・レオンが共演する上下マスクの「傷だらけの男たち」、すごいドラマと激しいアクション、絵だけでも迫力があり美しい。モノクロで血だけが赤いとか、黒澤明のようなパート・カラーを使うなど、絵に力がある。見たい。「プレステージ」は、もう予告は良いから早く見たい。気になってしようがない。


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