Inland Empire


2007年7月22日(日)「インランド・エンパイア」

INLAND EMPIRE・2006・仏/ポーランド/米・3時間00分(IMDbでは172分、ポーランド版197分、英版180分)


日本語字幕:手書き書体下、林 完治/ビスタ・サイズ(Sony DSR-PD150)/ドルビーデジタル

(仏U指定、ポーランド18指定、米R指定)

公式サイト
http://www.inlandempire.jp/index_yin.html
(全国の劇場案内もあり)


ポーランドで女(カロリーナ・グルシカ)が男にホテルに連れ込まれ、関係を迫られていた。TVではウサギ人間のドラマが放送されていた。そのころ、ハリウッドの女優ニッキー(ローラ・ダーン)の家に近所に引っ越してきたという女性(グレイス・ザブリスキー)が現われ、映画で主演が決まり、その映画で人が死ぬという予言をする。やがて電話が入り「暗い明日の空の上で」での主演が決まったことを知らせられる。その映画はポーランド映画のリメイクで、原題はドイツ語で「47」を表す言葉で、完成前に主役2人が殺され、結末がわからないのだという。撮影が始まると、不思議な出来事が起き始め、ニッキーは映画と現実の区別が付かなくなっていく。

73点

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 デイヴィッド・リンチ・ワールド炸裂。ここまで不思議な物語を1本にまとめられるのはデイヴィッド・リンチしかいないだろう。たぶん、一言でいうとすれば、この映画は女優ニッキーの精神世界を、現実の出来事と織り交ぜながら描いたものなのではないだろうか。どれが現実で、どれが彼女の頭の中の出来事なのかわからないので、非常にわかりにくい話になっている。もちろんそれは狙いであることは間違いなく、観客を混乱させようという意図はハッキリしている。だからあえて手持ちできる小型のDVカムで撮影され、プライベートな感じを残したまま。映画で撮影している架空の物語も、現実に起きていることも、彼女の頭の中だけで起こっていることも、すべて同じ画質。DVDが発売されてから厳密に比較すると、ちゃんと違いが作られているのかもしれないが、1回見た限りではそんな印象。

 たぶん構成としては、この前に日本公開された「マルホランド・ドライブ」(Mulholland Dr.・2001・仏/米)と同じ。現実と頭の中の出来事と同時進行している。そして、本人にとっては頭の中の出来事も現実と同じで、それによって現実も歪んでしまうということ。他人には理解しがたくても、本人にはそれが現実となっている。たぶん実生活でも、我々は知らず知らず現実をある時は自分の都合が良いように、ある時はより悪いように、ゆがめて理解しているのだろう。

 ただ、このようなわかりにくい話なのに、日本人には有名な人以外、顔も覚えにくいし、名前も覚えにくい。誰が誰で、いつ出た人かわからなくなる。ちゃんと覚えておかないと、オチでもう一度出てきても気が付かないことも。これは辛い。

 主演はプロデューサーも務めるローラ・ダーン。悪役の多いブルース・ダーンの娘で、メジャーな作品では「ジュラシック・パークIII」(Jurassic Park III・2001・米)にちらりと出ていたくらいだが、女優をやめたわけではなかったらしい。なによりショッキングだったのは本作の監督でもあるデヴィッド・リンチ監督の「ブルーベルベット」(Blue Velvet・1986・米)だろう。ローラ・ダーンの積極的に行きたいのに、結局消極的になってしまう感じが抜群で、本作でも女優やだがそんな雰囲気を湛えていて素晴らしい。

 ほかにも、「エラゴン 遺志を継ぐもの」(Eragon・2006・米)が痛かった監督役のジェレミー・アイアンズ、相手役「マイアミ・バイス」(Miami Vice・2006・米)のジャスティン・セローらが出ているが、ちょい役で有名俳優たちが出ている。アナウンサー役の「ファーゴ」(Fargo・1996・米)のウィリアム・H・メイシー、助監督役にデヴィッド・リンチ組とも言うべき「エイリアン」(Alien・1979・米)のハリー・ディーン・スタントン(81歳!)。突然の訪問者にデイヴィッド・リンチの大ヒットTVドラマ「ツイン・ピークス」の怖いお母さん役のグレイス・ザブリスキー。黄色いカウチに座っている女性にナスターシャ・キンスキー。名もない役で気付かなかったが、「ストリート・オブ・ファイヤー」(Street of Fire・1984・米)のB級アクションのマイレル・バレ。「マルホランド・ドライブ」(Mulholland Dr.・2001・米)のローラ・ハリング。しゃべるウサギの声に「マルホランド……」のナオミ・ワッツ。「ノストラダムス」(Nostradamus・1994・米/英ほか)の妻となる貴族の娘を演じたジュリア・オーモンド……などなど。締めには、ナエこと裕木奈江。「硫黄島からの手紙」(Letters from Iwo Jima・2006・米)にも出ていたが、最近はアメリカに活動拠点を置いているらしい。

 監督のデヴィッド・リンチはいまさら書くこともないほど有名。近作「マルホランド・ドライブ」もショッキングだった。ただ、デヴィッド・リンチの世界にハマるかハマらないか、好みの分かれるところだろう。以前、日本の缶コーヒーの「ツイン・ピークス」CMを手がけたことがあって、よく仕事を受けてくれたと驚いたもの。キャストもそのまんまだったし。ただ、どうも最近は小劇場でしか公開されないようなので、どんどん見る機会が減っている気がする。

 公開2日目の初回、都内単館公開で、デヴィッド・リンチ・マニアもいるだろうからと用心して65分前についたらすでに50人以上の長蛇の列。上映時間が長いため1日3回しか上映できないので混むのかも。ほどなく受付を開始。前売り券の裏に受付番号を押してもらうと、73番だった。15分前までには戻るようにということで、コーヒーを買いに。場内へは持ち込み禁止なので、ロビーで飲み干す。

 15分前から10番ずつの入場。狭いロビーは人でいっぱい。立錐の余地もない感じ。最終的に232席はほぼ満席。立ち見はなし。男女比はほぼ半々で、老若比は4対6で20〜30代の若い人が多い。

 予告編は溜息が出るようなものが多かったが、驚いたのは、中井貴一がプロデュースしたという中国映画「鳳凰わが愛」。これもお涙ものだが、実話というのも驚き。同じように驚いたのが「再会の街で」。ドン・チードルがこういう映画に出るのはわかるが、あのおバカキャラのアダム・サンドラーがこんなシリアスな役をやるなんて。大きな賭けなのかもしれない。911で家族を失った男の役だ。外見も見るからにおバカでなく、まるでボブ・ディランみたいになっている。哀しい話だが救いはありそう。

 一番期待しているのは「クロノス」(Cronos・1992・メキシコ)のギレルモ・デル・トロ監督の「パンズ・ラビリンス」。アカデミー賞3部門を受賞した作品で、ファンタジーで、それでもなぜアート系の小さい劇場でロードショー公開するのか。それだけが解せない。

 リドリー・スコット監督、ラッセル・クロウのラブ・ストーリー「プロヴァンスの贈りもの」は、監督らしからぬ作品だがどうなのか。最近あまりパッとしない感じなので、路線を変えたのか。


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